いつものようにデートチケットを持って百田くんのところへ向かっている途中、前を歩く人影が見えた。二つにまとめられた長い黒髪と赤が基調の服、その後ろ姿から春川さんだということが分かる。彼女の右手には僕と同じようにデートチケットがしっかりと握られていて、これから誰かを誘いに行くのだということがわかる。春川さん、と声をかけてみると彼女の足はぴたりと止まり、ゆっくりと僕のほうに顔を向けてくれた。
「最原。……何?」
「あ、これから誰か誘いに行くのかなって思って」
「……あんたも今から?」
「うん。僕は百田くんを誘おうかなって……」
と、そこで空気がぴしりと固まった。というか、春川さんからただならぬオーラが巻き起こったのだ。赤い瞳がぼんやり光りながら僕を射貫いている。探偵としての勘が働き(いや探偵じゃなくても丸わかりだと思うけど)、僕は早々にこの状況の意味を察してしまった。
「春川さんも、百田くんを誘おうとしてるんだね?」
そう言い切ってみせると、春川さんはかすかに肩を揺らした。どうやら当たっていたようだ。