「よし、閉めるぞ」
夜更けの頃、今日もこうして洋箪笥に収まった友にそう問いかける。成歩堂は小さく頷き、少々気の落ちた声で「おやすみ」とオレに返した。毎夜この瞬間、成歩堂は不安げな表情でオレを見上げる。確実に居心地が良いとは言えないだろう場所に閉じ込められる訳だからその表情も致し方ないだろう、と考えつつやはり不自由を強いて申し訳ないという気持ちは大きかった。
「済まない、成歩堂。辛抱してもらうしかないのが歯痒いところだ」
言うと、成歩堂は面食らったような顔を見せる。そのまま視線を泳がせつつ、いや、と上擦った声をあげた。
「いいんだ、そんな。ここはおまえの部屋なんだし……、ああでも、ヒトツだけ、その……」
「? どうした」
訊くと、言いづらそうに言葉を迷わせる。すがるような瞳がオレを遠慮がちに捉えていた。何か思うところがあるのだろうが、どうやら切り出しにくい事柄のようだ。
「不都合があるなら言ってくれ。出来る限りの事はする」
「……」
成歩堂はしばらく考え込む素振りを見せると、眉間に皺を寄せ目を閉じた。腕を組み熟考しているようだったが、やがて目を開けオレを見据えると、その重たげな口から言葉を紡ぎ始めた。
「嫌なら断ってくれて全然構わないんだけど」
「ああ」
オレが頷けど尚も言い淀む成歩堂の頬は何故か淡く赤らんでいた。軽く咳払いをする男は、亜双義、とオレの名をそっと呼んだ。
「一度だけでいいんだけど。……抱きしめてもらってもいいだろうか」
少しの間を空けた後、気づけば聞き返してしまっていた。予想外の発言に頭が困惑したのだ。
詳しく聞いたところ、どうやら成歩堂はこの二日程寝付きがあまりに悪いらしい。それというのも二日連続で見た悪夢が原因らしく、今夜もそれを見てしまうのではないかと考えると今から既に不安なのだそうだ。