モテモテスーツ分史
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「あなたは私の初恋の女性に、本当によく似ている」
慌てて掴まれた腕にかけられる力は女のそれを握るにしては強かった。しかし正体がバレている様子はないので、きっと簡単な配慮が出来ないくらいに兄は焦っているのだ。俺を懸命に引き留める姿に違和感を拭えない。いつだって笑って見送ってくれたじゃないか、どんな世界でだってあなたは善き兄の筈なのに。焦る目が一心に俺を見つめていた。俺は受け流そうと躍起になっている。
初恋の人と聞いた瞬間にすべて合点がいくくらいには俺はもう無知ではなかった。でもそれじゃあ、あの六文字さえあれば彼は俺の兄ではなくなるのか。黒く塗り潰された小さい頃の思い出の中で、顔の見えない母は確かに俺に微笑んでいる。それでもクラウディアは、……クラウディアが、もう俺にとって人物ではなくなってしまった。どの世界の中でも一等強く響く呪いの言葉だ。
「……また会っていただけませんか」