「じきに夜だ」
そう言って洋箪笥を開けた亜双義は、ぼくを静かに見下ろしていた。急に入った光が眩しくて、表情がよく見えない。目を細めながら頷いて、先刻まで閉じていた目をゆるく擦った。
「寝ていたのか」
「まあ、少しだけ。やることもないしね」
小さく笑いながら腕を伸ばす。亜双義は黙りこくって、ふいと頬を横に向けた。
「済まない。キサマにはずいぶん無理を強いている」
「……あっ、いやいや、そういうつもりで言ったわけでは」
ないんだけど、と慌てて言うものの言葉尻をすぼめてしまった。参った、寝起きで頭が働いていない。亜双義の口元が数回迷うように動いて、やがて「成歩堂」とぼくの名前を呼んだ。
「後しばらくはこういった生活が続くだろう。……オレについて来たことを、後悔はしていないか」
唐突に殊勝な言葉を投げられて、ずいぶん驚いてしまった。楽しげにぼくを洋鞄に詰めていた姿が偽りだったようだ。光の隠れた眼差しをぼくに一心に向ける姿は迷い子のようだった。ーーああでも、こいつはたまにこういう目をする。