結局、怪盗団は班目一流斎を改心することはなかった。彼の個展は見事成功を収め、たくさんのテレビ局が彼の作品の多様性・独創性を様々な形で褒め称えていた。杏と竜司には個展終了の日以降顔を合わせてはいない。勿論、祐介にも。あれから一度も会ってはいなかった。
夏も終わり掛けに差し掛かったある日、例のあばら屋の前に立つ。きっとここにはまだ班目と祐介が住んでいるのだろう。以前と何一つ変わることなく、当たり前のように。班目は祐介を養い、祐介を殺している。すべて理解したうえで、チャイムを深く押し込んだ。しばらくの間のあと、引き戸が慎重に開かれる。少し青みがかった髪、線の細い体。ああ良かった、目当ての男だ。
「どちら様で、……!」
祐介はひゅうっと息を吸い込み、目を大きく見開いた。すぐさま戸を閉めようとしてので、手を差し込んでそれを食い止める。おぞましい物でも見るかのようなその瞳、とても素直でいい。
「今更何をしに来た!」
「決まってるだろう、宝を盗みに来たんだ」
「戯言を!お前は宝を盗まなかった、……何も変えようとしなかった!」
絶叫のような祐介の声が住宅街に響く。様子からして班目は家にいないのだろう。女を住まわせている別荘にでも遊びに行っているのかもしれない。そしてきっと祐介もそれを知っている。
「祐介、聞いてくれ」
「消えろ、俺の目の前から!」
喚く祐介の手を強く握る。祐介の体がびくついたのがはっきりと分かった。
初めてその姿を目にした時から決めていた。俺はこの男の作品になろう、そうして生涯を終えようと。この日をずっと待ち望んでいた。そのために仲間も、祐介も見捨てた。けれどお前はこれから俺が掬うのだ。