ひなユイ
「あたしって、ほんとバカ」
「え…今さら気づいたのおまえ…」
「よーし先輩ちょっとツラ貸せ」

かなゆり
「オペレーションしないと…」
「それには及ばないわ」
「かなでちゃん」

大藤
「僕と契約してケツ貸してよ!」
「こんなの絶対おかしいよ!!」


ひなユイ
「心配すんなよ、ユイ」

先輩の口から、聞いたこともないような優しい声が発される。あたしはたいそう驚いて、ただぱちぱちと瞬きを繰り返すことしかできなかった。さっきから鬱陶しいぐらい絶え間なく流れてた涙も止まってしまうぐらい穏やかな顔で言うものだから、本当にこれは先輩なのかと問いかけたくなる。紫色をした瞳の奥には、ただ優しさだけが存在していた。

「ひとりぼっちは、寂しいだろ」

また、ほろり。葉が散っていくみたいに、言葉が落とされた。困ったことにあたしの脳は混乱気味で、返事すらできない状態だ。ああ貧相な頭が恨めしい。どうして先輩がこんなに優しい顔をして、あたしに寂しいだろと訊くのかさえ理解できない。もうお別れの時間なのに。あなたの言いたいことがわからない。どういうことですか、と言いかけたあたしの言葉に被さったのは、やっぱりまた、先輩の優しさだった。

「いいよ、一緒にいてやるよ」

微笑む。そして、あたしの名前を呼んだ。先輩は、あたしと一緒に、いてくれるんだって。そう、確かに言われた。なんで、なんでですか先輩。先輩はあたしのこと、嫌いなんじゃなかったんですか?なんで、あたしなんかと、一緒にいてくれるんですか。先輩、ねえ先輩。ほんとに、頼ってもいいんですか?あとで泣いても知りませんよ。ずっと先輩につきまとっちゃいますよ。いいんですか、それでも。自分一人じゃなんにもできないこんな女に次の人生捧げちゃっても、ほんとに後悔しないでいてくれるんですか。
先輩はまたしても笑った。そのあと、力強く、頷いて。あたしはもう泣くしかできない。ふと、お母さんの笑顔を思い出した。あたしの世話をしてくれていたお母さんは、先輩にそっくりの笑顔を、いつもいつもあたしに向けてくれていた。お母さんあたしもう大丈夫だよ。ひとりぼっちじゃないよ。先輩がいてくれるよ。全部が消えていくような感覚を感じながら、あたしはずっと泣いていて。先輩はあたしを抱きしめていた。ああもう大丈夫だ。あたし寂しくないよ、先輩。ありがとう。本当に、ありがとうね。