キスしようよ、と小さい唇から漏れ出た単語は大人の色味を帯びていた。中学生、恋する乙女などが夢を馳せる行為、初めてはレモン味かイチゴ味かで激しい論争が繰り広げられたり繰り広げられなかったりするそれを、今あたしは催促されてしまったようで。もしその一言を口にしたのがあたしの恋人もしくは想い人(誰かは提言しない。恥ずかしいから)なら一も二もなく頷いて目を閉じただろうけど、目の前にいるのは恋人でも想い人でもなくむしろ敵対関係にある奴だ。つまるところの佐倉杏子である。いつものように自慢の八重歯でお菓子を咀嚼して、満足そうな笑みを浮かべている。今日のおやつはどうやらたい焼きらしい。そしてその表情を貼りつけたまま、冒頭の言葉を発したわけだ。あたしの感想を述べさせてもらうと、正直意味がわからない。どうして天敵に値するあたしと杏子がキスしなきゃなんないのか。何か企んでいるとしか思えない。


誰か続き書いてください状態