生徒指導生徒指導と難癖ばかりつけていろんな女子生徒といかがわしいことをしているザビーダ先生。そんな噂をよく耳にする。けどオレは特にそれらの噂を当てにしていなかった。はずなんだけど。
「あの」
「ん?」
「オレ、男です」
「おっ、ようやく敬語使った。よろしい、まず10点な」
オレを机に押し倒しているのも、オレの額にキスをしているのも、まごうことなくザビーダ先生だった。
まず、この生徒指導室に呼び出された理由はなんだったっけ。確か進路相談か何かだった気はするけど、この部屋に入ってからまったくそんな話題は出ていないので、もはや忘却の彼方に消え去ろうとしている。
次に、なんで押し倒されてるんだっけ。ここがよくわからない。オレはただ普通に来ただけなのに、急に先生が「お前いつも先生に敬語使わねえな」とかなんとか言い出して、いや入学式のとき先生がタメ口でいいって言ったんじゃんと普通に反論したら、なぜかこんなはめに。やっぱり難癖つけて女子生徒とどうにかなってるって噂は本当だったのか?でも、オレ女子生徒じゃないし。わけがわからない。
「なんでこんなことするわけ、先生」
「お、タメ口頂きました。10点減点な」
「冗談だと思うけど、なんか変な噂流れてるからこういうのやめたほうがいいと思うよ」
「ほう」
冗談ね。呟いて、先生はオレの頬をするりと撫でる。瞬間、体がびくりと跳ねてしまった。急に触れられたからというのもあるけれど、何より触れかたが、いつも朝会うたび肩を叩かれるときのそれじゃない。橙色の瞳が、静かにオレを見下ろしている。
「ヘッドホン邪魔だな。外すぞ」
いつものおどけた調子の声とは正反対の、少し掠れた真剣なそれで囁かれる。