何かしてあげたくなる。ロゼを見てると、どうもそんなことを考えてしまう。いつも無茶ばかりするくせに、どうして弱音のひとつも吐かないのか。気になって仕方ない。けど、こう考えられることをきっと彼女は嫌う。遠くから水平線を見つめるような気持ちになっていた。
「どしたの?」
振り返ったロゼがオレを見る。凛と据わるいつもどおりの瞳。
「なんでもないよ」
「ふーん」
ロゼはまたこっちに背を向ける。腰に手を当ててそれをぼんやりと見ていた。どうにもできないのかな。

夜、なんとなく眠れなくて宿を抜け出し街を散歩していると、建物の横にきれいな花が咲いているのを見つけた。濃いめの赤色がところどころピンクがかっていて、かわいらしくもある花だ。女の子たちに見せたら喜ぶんだろうな、みんなサバサバしてるようでかわいいものが好きだから。なんて考えながら花の前にしゃがみこむ。それに触れながら、なんとなくロゼの笑顔を思い浮かべた。ロゼも喜ぶだろうか。きれいだ、なんて言って。
「……」
摘んでいこうか。そう思い、茎に手を伸ばす。けれど親指に力を入れたところで、ふと手が止まった。ひょっとしたらこの花は今この場所で咲いているから、こんなにも美しいんじゃないだろうか。摘んでしまえば、たちまち枯れてしまうんじゃないか?
この花の美しさを、しばらく考えた。結果、オレは花から手を離した。きれいなものはきれいなままで、ここで咲いていてほしいと願ったからだった。花は夜を照らすように静かに輝いて見える。

朝、ロゼを連れて昨日の花を見に行った。ロゼはかわいいと言って喜んでいる。
「ライラとエドナにも見せてあげよっか」
そう言ってロゼがしゃがんで茎に手をかける。それをオレは、待って、と慌てて止めた。
「ここで咲かせておいてあげようよ」
「なんで?」
「それがこの花にとって、一番いい気がする」
「…へえ」
花から手を離して立ち上がったロゼは、頭の後ろで腕を交差させ、うーんと伸びをした。
「導師様命令なら、従わなきゃね」