「なあ」

と、釣り竿をゆたりと手にしている右隣の男子高校生は言った。まっすぐに海面を見据える瞳は今日も揺らぐことがない。大した慣れか、愚かしい怖いもの知らずか。知る由もないが、無知とは時に武器だなんてこいつらを眺めていると時折思えてくる。潮の香りが鼻腔をくすぐるのとともにふわりふわりと踊るそいつの髪は、見ているだけでうっとおしくなるくらいわさわさと揺れていた。こいつ髪切らないんだろうか、などと特にどうというわけでもない感想を抱きつつ、なんだと返事をしてみせる。ずいぶんレスポンスが遅れてしまったかもしれない。しかし奴はそんなことなんてまるで気にしていないようすで、海の青を見やりながら言葉をゆるく紡いだ。

「俺、おまえと釣りするの好きだよ」

この突然の好意的な発言にはさすがの俺も少々面食らってしまった。こいつはこんなことを言うキャラだっただろうか。