「毎回中に出すの、止してくれないかい」

情事が終わってすこし経った時、シーツの上で寝そべるディオがぼくに背を向けながらそう言った。彼のために持ってきたぼくの手中にあるコップの中の水がほんのすこしだけ揺れる。とりあえずベッドに腰かけて彼に水を持ってきたと伝えたが、彼は「そこのテーブルに置いておいてくれ」とそっけなく告げるばかりでぼくの顔を見ようとはしなかった。仕方がないのでベッドの真横にある小さなテーブルにコップを置いておく。程よく筋肉質でたくましげな白い背中はコップがテーブルに着地した音を聞き届けてから新たなる台詞を吐き出した。

「後処理にけっこう骨が折れるんだ。だからって面倒くさがって放っておけば腹を下す。とんだ爆弾さ」
「…それはすまないと思うよ」
「だろう?じゃあ次からこういうことは無しにしてくれよ。君がどういう心情でぼくの中に出してるのかなんて知ったこっちゃあないが、少なくともぼくは君の新婚生活の実験台になるのはごめんだぜ」

ははは、とディオは皮肉めいた笑い声をあげる。ぼくは彼が手繰り寄せるシーツの皺をじっと見ていた。ぼくはべつに未来の妻とのそういう行為をシミュレーションしたいわけではなく、ましてやそのほうが気持ちがいいからと中に出しているわけでもない。ただ事情はひとつあるのだ。ぼくが悪いと感じながらも毎度毎度ディオの中へ出す理由が。しかし理由が理由なので、すこし言い出しにくくはある。流れるような彼の金色を目で梳きながら、この言葉を紡ぐべきかとしばらく逡巡した。そこでふとテーブルに置いたコップのことを気に留め、そこにやった視線の先で一向に減らない水量を確認したとき、ぼくは言葉を紡ぐ決意をした。

「だって君、ぼくが外に出そうとして抜こうとする度、すごく強く爪を立てるじゃないか」
「……?」

上体を起こし、きょとんとした顔でディオがぼくのほうを向いた。本当に珍しいくらいきょとんとした顔をしている。やっぱり無意識だったのか、と思わず肩を落としてしまった。