修道院を見回りながら歩いていた夕刻、奥まった廊下にふとディミトリの姿を見つけた。虚空をじっと眺め、何をするでもなく立ち尽くしている。その目は何かをじっと捉えているようにも見えたし何も映していないようにも見えた。
「ディミトリ」
名前を呼ぶと、少しの間のあとに金色の髪が揺れてその眼差しがこちらへと向く。感情の表れていなかった瞳に温かな色がついた、ように思えた。
「先生。何かあったか?」
少し見回りを、と告げる。お前は何をしていたんだと尋ねると、彼は口角を少しだけ上げて「少し散歩がしたくてな」と答えた。……笑いかたがどうにもぎこちなく見える。
何も言わずにただディミトリを見据える。握り込まれた拳やいつもよりかすかに青白い顔、強ばる肩に気がつかないほど自らの生徒のことに疎いわけではなかった。本当は何があった。視線での問いを受けたディミトリは、困ったように眉を下げ「どうしたんだ、先生」と呟く。だが、しらを切るにはすでに状況が芳しくないことを悟ると、諦めたように細く息を吐いた。俺は嘘がへたになった、と形の良い唇から降参の合図が漏れる。
「久々に、父上方が目の前に現れた」