「あっちいなぁ……」
「百田くん、口に出すと余計に暑くなるよ……」
夏も真っ盛りで蝉はうるせーし太陽なんていつ見てもかんかん照りで、それも楽しくはあるがこう連日続いちゃうんざりする日も出てくる。加えて今日はあろうことか寮全室のエアコンのメンテナンスと来たものだから死人でも出やしねーかと不安にすらなった。学園内で一等クーラーの利いている図書室は見事に満員のぎゅうぎゅう詰めで逆に一番暑くなっちまっていたので、それならまだこっちのほうがマシだろうとオレは終一を連れて全体的に日陰になっている空き教室に避難していた。風通しなどは良くはないが日照りのないぶんまだ涼しく思える。終一は夏休みの課題を片付けるため、この暑い中せっせとプリントと教科書とにらめっこを繰り返していた。口元を手で覆う仕草はこいつが熟考するときの癖だ。
「ハルマキはどこ行っちまったんだろうな?ボス直々に探しに行ったっつーのにどこにもいやしねえ」
「ああ、たぶん赤松さんと街に買い物に行ったんだよ。昨日赤松さんと春川さんが街の地図を確認してたから」
「マジかよ……そりゃ見つからねえわけだ。つーかテメー、知ってたんならもっと早く言え」
机に向かってうつむきがちの無防備な終一の額を指で弾く。不親切な助手は肩を跳ねさせ、「いて」と小さく呟いた。オレが指を引っ込めるとそこを軽くさすりながら苦笑を漏らしている。
そこからまたすぐに課題の消化へ戻った終一は、ただ口の中で何かを呟きつづけた黙々とペンを走らせつづけた。ボスとの時間より課題が大事か、と考えながら手持ち無沙汰にそれを見つめる。めずらしくシャツを第二ボタンまで開けている終一の首もとには汗が浮かび、額に髪の幾本が貼り付いていた。顔はまとわりつくような熱気のせいだろう、少しだけ赤くなっていやがる。よほど暑いだろうにじっとそれを耐えている助手の、内包されているんだろう感情に妙に不思議な心地がした。