自分でも分かっているのだが、想像としての女性を描いたとき、それは全て「高巻さん」に近い。瞳や口元はサユリに似るのだが、髪や目、鼻筋は無意識下で高巻さんを意識してしまっていることが表れていた。学校でも「誰かモデルがいるのか」と指摘されたことがある。彼女は俺の、サユリに次ぐ理想の存在だった。派手に主張される眩しいくらいの美しさがむしろ良かった。もっとも、彼女を前にして、その絵を描くことは叶わなかったが。
「今日すっごい見てくるね」
杏はじゃがりこを食べ進めながら少し困ったような顔で俺に言った。じゃがりこ、羨ましい。俺も買ってくれば良かった。
「杏」はもう「高巻さん」ではない。俺は杏の絵は描けない、彼女は理想の存在ではなく俺の友人だからだ。その認知はなかなか強力で、一度杏と呼んだとき、何もかも作り替えられるように高巻さんは俺の前から居なくなった。思ったよりも無邪気な笑顔で笑う、子供のような少女だけが俺の目の前に現れた。今こうして俺に見せつけるようにじゃがりこをほうばっているのももう間違いなく杏だ。ああ腹が空いてきた。
「じゃがりこ欲しいの?……あー、ごめん、これでラス1……」
空の容器を覗きこんだ杏は申し訳なさそうに頬を掻いた。