水族館という世界に触れるとき、魚が可哀想だという場にそぐわない感性を思考がからめ取るときがある。きれいな魚たちは回ったり跳んだりしてたくさんの生を俺たちに魅せるけれど、その生の範囲って人間によって限界まで狭められている。見せ物みたいに展示されて、ぶつかりかけながら箱のような庭を遊泳してさ。あのガラスの中から見たこちら側は彼らの目にどう映っているんだろう。そう俺は考えてしまうけれど、あいつらってなかなかどうして楽しそうに定められた世界を回っているときがある。可哀想だなんて大層な戯れ言を振りかざした俺にとって、それは不思議の対象だったのだ。なあ、おまえらってどうしてそんなに自由なふりが得意なんだよ。
そんな思想に溺れ尽くしていたとき、ハルは唐突に壮絶に俺のもとへやってきた。宇宙なんていう大海原に身を置いていたのに、自ら水槽に飛びこんできたっていうのだから驚きを覚える。それにはまあわりと深刻な事情があったわけだけれど、しかしながらあいつはこの空間をめいっぱい楽しみまくっていた。