最初から何もかも全部すべてどれもこれもあれもそれも、おかしいものだらけだったんだ。不思議不可思議不気味不格好、そうしてあたしが知らない間に小さく小さく、でも着実にじわじわと変化していった、いや、変化させられていったあたしの心は真っ黒くて醜いだけの汚れたおばけに食べられた。気づかないくらい微弱な悪の気配は気づけないほどの早さで肥大化して、なけなしの正義の精神は一瞬のうちに虫食い状態。瀕死の体と気持ちを引きずって、愛しい想い人を一目見ようと覚束ない足取りで前に進めば、鮮やかな緑がそれを阻むように存在していて。彼女が包み込んでいるその手は、あたしが、あたしが奇跡を捧げた、あたしが握るはずだった手。残酷な光景は嫌でも網膜に焼きついて、吐き気まで催したときにはさすがに笑いもこみ上げた。ねえあんたたち、なにしてんの。言いながら二人の間に割り入ろうと足を一歩踏み出したけれど、ああよく考えれば、よく考えなくても私にそんな権利はないんだった。その権限があるのは、恋人というポジションを勝ち取った者だけだ。あたしが今立っている場所は、お節介で鬱陶しい幼なじみという位置なんだ。あはは、はは。すごい、おかしい、笑えてくる。あたしは見返りなんて求めるつもりじゃない、つもりじゃなかった。なのに、頑張れば頑張るほどこんがらがって、ひどくなって、どす黒くなっていく。体の傷を癒やすごとに、胸の中の傷が広がっていくみたい。もっともっと広げれば、こんな想いも忘れられるのかな。何重にも張られた糸が足を掬って、動きづらいったらありゃしない。下手に動けば絡まって、解けなくなっていく。あたしが誰かを救うたび、何かに掬われる。じゃああたし、なんのためにここに来たの?こんな無数の糸が張り巡らされたところにわざわざ出向いて、何がしたかったの?こんなの全部、断ち切ってしまえばすっきりするんじゃないの?あ、そうか。簡単なことだった。煩わしいならなくせばいい。それっぽっちの正義だった、それで下ろせる幕だった。
ぶわ、と湧いた黒い何かがあたしの体をどんどんどんどん覆っていく。恐いな、やだな。でも、今さら恐がったって、もう戻れやしないことなんてわかりきっている。マミさんごめんなさい、あたしは弱い子でした。まどかごめんね、ばいばい。恭介、ねえ恭介。もう一回恭介のバイオリン聴きたかったなあ。恭介のコンサートにも行きたかったなあ、生きたかったなあ。あれ、なんか痛いよ、すごく痛いよ。やだ、恐い、恭介、私を見て私を愛してたすけてきょうすけ。みんな嫌いみんなやだこんな世界にもういたくない、やだ、もうやだ、あ、きょうすけだいすき。