ダニショ未完(LIS2)

夕日が少しずつ海の中に溶けていく。缶ビールを手の中で小さく揺らしながらそれを見届ける生活にもずいぶん慣れてきた。俺たちの背後に迫ってくる大きなもの、それは確かになくなった。けれど新たな影はまた際限なく生まれていく。俺たちはこれからもそれらから二人で逃げ続けなければいけないのだろう、きっと死ぬまで。
潮風が肌をなぞって、視界はオレンジに染まっていく。隣のビーチチェアに寝そべっていたダニエルがビールをもうひとつ取ってくると言うので短く返事をした。サンダルが砂を混ぜる微かな音が響くなかで、凪いだ海をぼうっと見つめる。
ふいに頭上に影が生まれた。ダニエルがじっと俺を見下ろしているのだ。すっかり大きくなった弟を静かに見上げる。ダニエルは俺の座っているチェアに手をつき、少し屈んだあとそのまま俺にキスをした。受け入れるでも拒むでもなく、ただそれを受け止める。唇を開いてほしそうにその舌が動いたが、開くことはしなかった。
やがて諦めたようにダニエルが離れ、あらゆる感情の詰まった瞳で俺を見つめる。早くビール取ってこいよ、という俺の言葉には特に返事を返さなかった。
「なあ、ヒゲ剃れよ。痛い」
「断る」
「剃れって」
「俺の勝手だろ」
「…………」
ふん、と鼻を鳴らしてダニエルはビーチチェアに腰掛ける。プルタブを引く軽快な音があたりに響くと、次にごくりと喉を鳴らす音が横から聴こえた。そこからはまた静寂だ。何を話すでもなく、二人でまた雄大な海を見つめる。
昔ほど俺たちの間には言葉がなくなったように思う。もはや話すようなこともなかったし、思い出話なんてしたところで意味もない。たまに父さんの話を少しだけして、それ以外のことは特別話題にはしなかった。こんなふうになったのはいつの頃からだったろうか。まあ、会話が減ったからといって険悪かと言われるとそういうわけでもなかった。むしろ、より強固な結びつきを得たような気さえする。……その形は少しいびつだったが。



メキシコエンドいいよね…エッチだった

主皆未完(九龍)

久々に聴いた声音は耳によく馴染み、回線の向こうにいるはずのその男がまるですぐ近くにいるような気にさえさせた。「甲太郎、元気?」と問いかけてくるその音はどことなく甘ったるく頭に響く。
「まァ、病気はしてないな」
「なら良かった。俺はさ、昨日敵に猛毒浴びせかけられて大変だったよ」
「なッ……」
突然転がり込む死のにおいにどきりとする。大丈夫だったのかと訊くと、「まあロゼッタの科学技術すごいから」とさらりと言ってのけた。どんな技術だよ、という突っ込みには笑い声だけが返ってくる。
「皮膚ちょっと溶けかけたけど普通に治ったし。いやあ良かった良かった」
「……もしこれからそういうことがあって、治療薬が近くにないときは今から言う植物をすぐ傷に塗れ。応急処置程度にはなる」
言ってから植物の名前と効能を簡潔に伝える。九龍は素直にそれを聞くと、へえ、と明るい声を出した。
「詳しいな、甲太郎」
「詳しくなきゃ専攻してる意味がないからな」
「はは、そうか。でも本当にすごいよ、すごく助かる」
「……そりゃ良かったよ」
助かる、という言葉が胸にすっと沁みていく。そうさ、お前を助けるために俺はこうして机にかじりついている。バイトもしないで毎日ひたすら草木や花に向き合いつづけている。



な〜んにも考えずに書き始めちゃった
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