奇憶

25年前に高円寺に住んでいたときの話。

ある晩のことじゃった。 ピンポンと鳴るからハイとドアを開けると女の子がいて、「あのぅ、そこの部屋のものなんですけどラジカセをちょっと貸してもらえませんか」と言った。醤油は無いがラジカセならある私は特に何かを思うでもなくアイヨと貸した。

数分後、またピンポン。
俺「ハイ ガチャ」

女の子「あのぅ、使い方がわからないのでちょっと見に来てください」

俺「ハア?…はあ。」

ツカツカツカ、ガチャ。
「ケタケタケタ!ゲラゲラ!ギャハハ!」

中に三人、ジョニーロットンとスージースーとジョーンジェットみたいな出で立ちのセックスピストルズフルな女の子達が俺を見て笑ってる 。

つまりはこういうことでした→いつも端の部屋(俺の部屋)からブルーハーツが聴こえる、どんな奴が住んでんだろね、おい、オマエ一番見た目がフツーだし怪しまれないだろぅから行って見てこいよ→ナニ?イケメン?おい!もっかい行って連れてこい! →てな流れ(一部脚色アリ)。

ジョニーロットンがその部屋の主(ボーカル)で、見た目フツーの子はドラム、スージーとジョーンはギターとベース。バンドをやってる連中でした。 とんだチンピラガールズでした

ボーカルのジョニ子がその後のある日、目をパンパンに腫らして泣いて俺の部屋をピンポンしました。 「飼ってたネズミが死んじゃった」
ボロボロボロボロ泣きぱなしなので、一緒に埋葬したりなんだり半日つきあいました。

そんなジョニ子にやがて彼氏が出来ていました。アパートの廊下でいつもシドビシャスみたいな年中ラリッた彼を抱えていました。私はその頃AV男優をやっていました。

そしてまたしばらく経ったある日、ドアポストに手紙が入っていました。
「石井君アタシ引っ越します今までありがとうお世話になりました。あ、そうそう、こないだラブホ行ったとき2チャンネルつけたら石井君が出てたよ、学生服に下半身フルチンで。じゃあね。」


平成初期、高円寺、青春。あの逆立っていた髪は 今どこでどうなってるんかのぅ。
飛べなくなったパンク鳥は、どこでその羽をたたむのかのぅ。



おしまい

たびたびタビ

中芯は「ゴール」ではないので、ブレた動作や生を送る我々は、「旅行」をしているようなものかもしれませんが、それが全然楽しくないのなら、即ち「苦行」をしているということに相成ります

旅行は帰るから旅行だし、苦行は、やめるためにしか存在しない行だとおもいます。苦行して天然苦行をリカバリーするなんてナンセンスですそして、何をもって苦行というのかってそれは、苦しければ全部苦行です(笑) 滝行や断食が苦行ではない。全然ちがう。むしろそれらは実はキモチいい行なのである。苦しんでやるなら苦行にたちまちなるけれど。

旅行もしくは苦行に没頭してきた私達は、すっかり旅行者すっかり苦行者になりきっているが、そもそも何処へも行きはしないイ シ キ は、そもそも何処へも行ってはいない。



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