若者達が討論していた。 20年くらい前か。
テレビ番組で。

頭の良い若者と、旅好きの若者が言い合っていた。頭の良い若者の言うことにゃ、富士山の標高とか気温とか、諸々のデータをとにかく調べて知れば、いちいち登りに行かなくても富士山のことがわかるんだからそれでOKなのだそうだ。旅好きの若者は当然その考えは受け入れられず、しばらく主張をしていたが、話は平行線をたどるばかり。しまいにはこんなことをスタジオでしゃべくりあっていること自体がバカバカしくなったのか、旅好きの若者は途中退場してしまいました。

沖縄西表島に一年弱の住み込みバイトに行ったときのことを思い出す。朝ドラの『ちゅらさん』が放送されている年で、沖縄ブームだったし、私も興味があったのだろう、オキナワへ行ってみたかった。 だが、1度も行ったことないのにいきなり住み込み、それも本島でも石垣島でもなく、ヤマネコがいる島としか知らない島へ仕事で行くのは、ワクワク感よりも、オラどうなっちまうだ?的不安感が募った。でも行った。

石垣空港を出たときの、強烈な熱波。 皮膚が生まれてはじめて沖縄を知った。小型船で台風明けのシケの海を行く。三半規管と不安感がぐるんぐるんと渦巻く。やがて西表に到着。港に設置された古タイヤに船が接触したときの、ドスンという衝撃で、私の恐怖感はピークを向かえました(笑)。

船を降りる。私の目は、生まれてはじめて、亜熱帯の植物が生い茂る風景を映した。

それから約10ヶ月の間で、私は生まれてはじめてハイビスカスやブーゲンビリアや水牛のウンコの匂いを嗅ぎ、オバアの作るソーキそばを食べ、もずくを摂り、ヤシガニを捕り、仕事帰りは皆とんでもなく汗臭くなり、体つきに似合ってない可愛い声でペェと啼く水牛がひく車で海を渡り、夜空の星のように光る蛍の群を見、オジイの三味線をナマで聴き、滝を全身に浴びた。南国の陽射しと月光を浴びた。


そしてついに去るときが来ました。ともに暮らした仲間達とは、ここに来なければ出会うことはなかった。石垣港に船が着く。ドスン。本島行きの飛行機に乗る。
窓の向こうに、龍の如くに伸びる雲が見える。ワタシはこの数ヶ月、竜宮城で暮らしていたのかしら、と錯覚をしました。
想像と違っていたことや、想像もしていなかったことを、体験したあの日々の、気温が、何度だったかなんて、私は知らない。
ノープロブレムだ。バカで良かった。