まだ昭和か、平成初頭だったかな、とにかくビッグスクーターブームがくる前は、ビッグスクーターといえばホンダの二車種(フリーウェイとフュージョン)しかなく、オッサンのビジネスライクな乗り物としか捉えられていませんでした。


しかし目ざとい私はすでに、フュージョンにイケてる感を感じていました(笑)。モッズでもロッカーズでも暴走族でもない、全く新しい不良スタイルをイメージしていたのです。
それはのちに実際にブームとなったカスタムビッグスクーターのラッパーっぽいスタイルとは違ってて、時計じかけのオレンジと『アキラ』と三島由紀夫を交ぜたような、サイバーかつ冷血かつ近未来の極右少年的な スタイル。わかりますか? 今となっては私自身がよくわかりかねますけれども(笑)。

でもその頃はまだ私は原チャリ免許しか持ってなかった。中免〜大型とったのは30才になってから。で、クラッチ&ギアの中型バイクにまともに乗るようになったら、 明らかにソッチのほうが面白いので、スクーターに興味はなくなりました。


ビッグスクーターはラクです。チョーラクチンです。だが、『楽』と『楽しい』は決して同じではないことをまざまざと感じさせてくれる乗り物である。

あんまり『思い出』に残らへんのですよ。乗っていたときの感触が。景色もね。
よほどの大雨に濡れたとか、よほどの風薫る五月の道を気持ちよく走ったとかっていうのなら記憶に残れども、『なんてない瞬間』は、たんなるなんてない瞬間として情報処理されてゴミ箱に行く。
でもテイスティバイクなら、そのなんてない瞬間が、宝石のようにキラキラして記憶の宝石箱にしまわれるんだ。


夜中の府中街道。
前後左右ガラッガラの交差点。
ポツンと信号待ちする私とSR。
アイドリングで前輪がフェンダーごと、ぶるぶる揺れている。
少し冷えた手を、グローブ越しにひたっとエンジンに触れさせれば、じわりとあたたまる。
走り出す。
タタタタタタタ。
奏でるのは律儀なメカのリズム。
なのにな、ハッハッハッハッって走るワンコと、子供の頃に、誰もいない道を散歩してたときとおんなじように、それは『マイチューブ』に保存されてるよ。





そんだけ。