話題:小説の書き方
さて、前回は《起承転結》の《承》までを書きましたが、ここで見直しの意味も含めて一度振り返ってみる事にしましょう。
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朝の八時。
住宅街の、とある民家からトートバッグを持った女性が出て来る。
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《起》で提示された世界(場面)が《承》で動きだし、このようなストーリーの流れになりました。
しかし、どこか物足りなさを感じます。
勿論今回は、あくまで“構造”を把握するというテーマですから、ストーリーを膨らませる必要はないのですが…
せっかく、《起》の場面で“車”が見えているので、これを使わないのは勿体ない話です。
そこで、軽く加筆してみたいと思います。
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朝八時。
住宅街の、とある民家からトートバッグを持った女性が出て来る。
女性は、敷地内に停めてあった自家用車に乗り込むと、エンジンを掛け、外へと車を出したのだった。
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では、それを踏まえて《転》へと突入致しましょう。
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《転》
さて、《起》で姿を現した世界が《承》で動き始めました。
ここ《転》では、そこに“ストーリー性”を与えるべく、流れに“何らかの捻りや加速”を与え無ければなりません。
《起承転結》の中で最もストーリーが激しく動き、エネルギー値が高くなるのが実はこの《転》の部分となります。
【水戸黄門】で考えれば、助さんや格さんが悪代官たちを懲らしめるべく大立ち回りをやっている場面が《転》に当たります。
エネルギー値の高さが理解頂けると思います。
例題に戻れば、当然、ここにも無限の選択肢が存在する訳ですが、小説を書き慣れていない内に無理やり捻ろうとすると、逆に自分が捻られてしまい、非常に苦しくなりますので、最初は物語のインパクトなど考えずに、なるべく自然な流れに沿った形で進めて行くのが無難だと思います。
但し、ここで注意して頂きたいのは、自然な流れとはいえ、《転》は決して《承》の“惰性”であってはならないという事です。
では、どうするのか?
《承》までのストーリーは極めて平坦なものではありますが、“女性が明らかな目的を持って動き出している”事が判ります。
ならば、《転》では、女性(主人公)の目的を達成させてやれば良いのです。これは逆に“不達成”でも構いません。
つまり、助さんや格さんが悪代官たちに負けてしまっても良いのです。
その場合、黄門様御一行の“世直しという目的”は不達成となりますが…登場人物から見た目的の“不達成”も、ストーリーの観点からは“達成”と位置付けられるのです。
矛盾しているようですが、“不達成や敗北”も物語のヤマ場と成り得る…そんなふうに考えて頂きたいのです。
アニメのタッチでも、高校一年の達也は、甲子園地方予選決勝のマウンドで敗れ、兄の意志を達成させてやる事が出来ませんでした。
しかし、それはそれで立派な“物語のヤマ場”となっています。
何はともあれ…
「目的や意志の出現は、《転》(ヤマ場)と直結し得る」
そのように覚えておくと良いと思います。
さてさて、例題に戻りましょう。
車に乗って家を出た女性(主人公)の目的を明らかにするには、“目的の行為”と“目的の場所”を示す必要があるでしょう。
そして、話は《転》まで進んでいますから、話を捻るか破裂させるかを作者は行わねばなりません。
というと何やら難しそうですが…取り敢えず最初は、それまでの流れをちょっと変えるべく“何らかのイベント”を立ち上げる…そのくらいに考えておきましょう。
因みに、女性の年齢や容姿、敷地の造り、車種、トートバッグの形状といった問題は残りますが、これは【描写】の問題になりますので、【ストーリー骨格】がテーマの今回は宜しく割愛させて頂くとして…
ごく軽いイベントを主人公に起こします。
《転》:女性は‥運転する事、約2秒、何を思ったのか隣家の前で車を停めると、そのまま車を降りた。
玄関のチャイムを鳴らし、顔を出した隣家の主人に朝の挨拶をした後、トートバッグから出した【回覧板】を渡した。
ヤマ場というには物足りませんが、まさかそんなすぐ車を停めるだろうとは誰も考えていないでしょうから、“意表をつく”という捻られ方はされました。
と同時に、イベントが起こり、主人公の目的が達成された事で《結》を迎える態勢は整ったと言えるでしょう。
それでは、ストーリーを締めくくる《結》へと突入開始です…。
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