キラキラした落としもの【12】(完結編)胸の奥にあって失われる事なく輝き続けるもの。

話題:童話

「あの日は…」

誰に訊かれた訳でもなく、アラン・ベネディクトが語り始めました…。

「あの日は、そう…ハイスクールの進路相談の日でした…」

それに依ると、アランはあの日、初めて父親に向かって

『自分も父親と同じ菓子職人になって【ベネディクト菓子店】を継ぎたい。その為に、カレッジには進まずにイタリアかベルギーで菓子作りの修行をしたい』

緊張しながら、そう告げたそうだ。

ところが意外にも父親は反対した。それは、その道のりに、どれ程の苦労が待ち受けているのか彼は身を持って知っていたからだ。しかし、それでも若いアランは一歩も退かずに自分の決意を語り、両親の説得に成功した…。

そして、それこそが【キラキラと輝く球体】の中で映し出された場面だったのだ、とアランベネディクトは三人に説明したのでした。

「小さい頃からずっと、街の人たちに愛される【ベネディクト菓子店】を見て育って…僕は、それを守りたいと強く願ったのです」

噛み締めるようなアランの言葉に、三人が静かに、しかし、深く頷きます。

「でも…いつの間にか僕は“あの時の気持ち”を忘れてしまっていた…だから僕は今日…」

そう言うと、アランはカウンターの後ろに行き、レジの下から一枚の薄い紙切れを取り出して三人に見せたのです。

そこには、こう書かれていました。

《閉店のお知らせ》

それは、マルグリット夫妻が危惧していた事でした。

「でも…」

アラン・ベネディクトが紙切れを破きながら云いました。

「今はもう店を閉めるなんて考えていません。昔ほどの賑わいは無いけれども、それでも店を大切に想って下さる常連のお客様だって何人もいますし、第一…僕の気持ちが昨日までとは違います。簡単に諦めるなんて、あの日の僕に恥ずかしくて…そうか…結局、全ては僕自身の心の問題だったのか…」

最後は完全に独り言のようになっていましたが、ラマン巡査もマルグリット夫妻も、そんな独り言を呟くアラン・ベネディクトの瞳の中に、“キラキラと輝く光”と同じ煌めきを見たような気がしました。

「どうやら…あの【キラキラ】はベネディクトさんの“落としもの”だったみたいね」マルグリット夫人が云いました。

「そういう事なのだろう…」

とマルグリット氏。

「確かに…」

自分の胸の【輝く光】が消えた辺りに手をあてながらアラン・ベネディクトが答えます…

「きっとアレは…今日、僕が店の前に立って、《閉店の貼り紙》をいつ貼ろうか悩んでいた時に僕の中からこぼれ落ちたものに違いありません。でも…結局のところ、あの【不思議なキラキラ】の正体はいったい何なのでしょう?」

アランの疑問に答えたのは、先ほどから何か考え込むように腕を組んでいたラマン巡査でした。

「私が思うに…あの“不思議なキラキラ”の正体は…上手く説明出来ないのですが、なんと云うか…【最初の気持ち】のようなものではないか、と」

「…【最初の気持ち】ですか?」

少しきょとんとした表情でマルグリット氏が聞き返します。

「はい…あの“キラキラ”を覗き込んだ時、私は交番勤務初日の自分、あの時の気持ちを思い出しました。確かマルグリットさんも役所で初めて係長になった時の事を思い出したと仰有ってましたよね?」

「ああ!…確かに云われてみればその通りです!」
「そしてマルグリット夫人…貴女も、初めて街に越して来た時の事や、【虹泥棒の万華鏡】の本を息子さんに読み聞かせていた頃を思い出した。もしかして、【虹泥棒の万華鏡】は貴女が母親として初めて子供に読んであげた本なのではありませんか?」

その言葉にマルグリット夫人の表情が変わりました。


《続きは追記からどうぞ》♪

 
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キラキラした落としもの【11】あの日の風景。


話題:童話

「ど、どうしましたっ!?」

アラン・ベネディクトのただならぬ声に驚いたラマン巡査が訊ねます。すると…

「…僕だっ、僕の姿が見える!」

何と云う事でしょう!アラン・ベネディクトは【キラキラ】の中に“自分の姿が見える”と云うのです。思いも寄らぬ言葉に二の句が告げられないラマン巡査に代わり、今度はマルグリット氏が声を掛けました。

「それは…自分の姿が反射したのでは?」

極めて理性的な見解です。ところが、それに対するアランの答えは、三人を更に驚かせるものだったのです。

「いや、これは…子供の頃の僕だ…間違いない、この風景はうちの店、ベネディクト菓子店です…あ、父さんの姿が!」

興奮した様子で喋り続けるアラン。いったい、今、この【キラキラと輝く空間】の中で、どんな映像が流れていると云うのでしょう!?

ですが、恐らくそれはアラン・ベネディクトの瞳にしか映らない映像に違いありません。三人は黙ってアランの言葉に耳を傾けました。それより他に事態を知る方法は無いのです。

食い入るように【キラキラした落としもの】を覗き込むアランの口から、ポツリポツリと断片的な言葉がこぼれ落ちてきます。

「父さんと僕が何か話を…窓から光が差し込んでいて…この風景…確かに見覚えがある」

夕暮れの迫るベネディクト菓子店に沈黙の時間が流れます。しかし、その静寂の時間は程なくアラン・ベネディクトによって破られました。


《続きは追記からどうぞ》♪

 
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キラキラした落としもの【10】物理の外側。


話題:童話

「あっ!!」

【キラキラした落としもの】を覗き込んでいたアラン・ベネディクトが突然、小さな叫び声を上げました。

「どうしました!?」

ラマン巡査が半ば反射的に訊ねます。

「いま、キラキラの中に人の姿が…」

アラン・ベネディクトの言葉は誰もが予想だにしないものでした。

「…人の姿?」

緊張した顔が一転して怪訝な表情に変わったラマンがオウム返しに聞き返すと、

「そうです、間違いなく人の姿が…あれ?…景色も見えるぞ」

これはいったい、どういう事なのでしょう? 直径僅か数センチのキラキラと輝く球体の中に風景があって、更にはそこに人間の姿が在るなど通常では考えられない現象です。

しかし、アラン・ベネディクトが嘘を吐いているとも思えません。そもそも、嘘を吐く理由がありません。

「…本当ですか?」

ラマン巡査が聞き返します。勿論、それは彼の言葉を疑ってのものではありません。“同じもの”が人によって違って見えると云う不可思議に戸惑っているのです。

確かに、【像】なる存在は“観察者”と“観察対象物”の二つが揃って初めて結べる、云わば“結び目”のような物ですから、その片方が変われば、結び目の形や色もまた違ってくるだろうと云う理屈は解ります。

しかし、それはあくまで学問上の話であって、私たちの暮らす現実世界でそれを実感する事はそうそう無いでしょう。せいぜい、救急車やパトカーのサイレンがドップラー効果で違う音色に聴こえたり、光の当たり方で物の色の濃さや材質の質感が違って感じられるぐらいです。

ですから、こんな風に、ほぼ同じ位置で同じ物を見ているにも関わらず、片方は“虹色の輝き”、片方は“ムービーのような映像風景”に見えると云うのは、不自然極まりない事なのです。

となれば、考えられる答えは只一つ…

この【キラキラした落としもの】が“物理法則の外側”に在るものだと云う事です。

「どれ…ちょっともう一度」

ラマン巡査が再び【キラキラ】の中を覗き込みます。しかし…

「…やっぱり私には七色の輝きが乱反射しているようにしか見えない」

顔を上げてマルグリット夫妻を見ます。

「…私も、宜しいですかな?」

今度はマルグリット夫妻が二人で【キラキラ】を覗き込みます。

「…ラマン巡査と同じく虹色の輝きにしか見えません」

「ええ…私も同じですわ」

それを聞いて不安になったのはアラン・ベネディクトです。

「いや、そんな筈は…」 

納得の行かない顔つきで再び【キラキラ】に顔を近づけたアランでしたが、覗き込んだ瞬間に「ああっ!!」と、短く空気を切り裂くような声を上げたのです…。



☆★☆★☆

次回で完結します♪
\(^ー^)/

このまま最後まで書き切る事も可能だったのですけど…微妙に長い感じになりそうだったので、二つに分割致しました。V(^-^)V

全ては明日…

ローラースルー ゴーゴーの滑り具合いに掛かっているのです!(^o^)/

 

キラキラした落としもの【9】虹の代わりに。


話題:童話

「それに…」

アラン・ベネディクトの手のひらの上でキラキラと輝き続ける【不思議な落としもの】を見つめながらラマン巡査が云いました。

「それに…温もりや輪郭だけでなく、この“キラキラした球”には、よく見ると七色の色彩を持っているのです」

「七色ですか…まるで虹みたいですね」

「ええ、まさにそうなのです。何と云うか…雨上がりの空に架かる虹を集めて万華鏡に閉じ込めたみたいな…」

それは勿論、アランに向かって云った物でしたが、意外な事にその言葉に反応を示したのはマルグリット夫人でした。

「あらっ、それもしかして…【虹泥棒の万華鏡】という物語では?」

驚いたのはラマン巡査です。【虹泥棒の万華鏡】は彼がまだ幼い頃、母親に寝物語で聞かされていたお話で、今日この日まですっかり、その存在すら忘れていたものです。よもや、それを知っている人物に出逢えるなどとは夢にも思いません。

「そうです、そうです!虹泥棒の万華鏡。私はこの“キラキラした落としもの”を覗いた時、その物語を思い出したのです。いや、まさかご存知とは…」

珍しく少し興奮気味に話すラマン巡査に軽く気圧された感じでマルグリット夫人が答えます。

「いえ…私も、巡査さんの今の言葉で急に思い出したの。【虹泥棒の万華鏡】は息子がまだ小さい頃、ベッドの中でよく読み聞かせたお話で。このお話を読んであげると、寝つきの悪かった息子が不思議とすんなり眠ってくれて…」

夫人の語る話はラマン巡査の場合とは状況的に逆ですが、同じと云えば全く同じだとも云えるでしょう。

ラマンは、これぞ機会とばかりに【虹泥棒の万華鏡】の結末を尋ねてみる事にしました。ところが…

「ああ…先ほどお話しした様に、いつも途中で息子が寝てしまうものですから…結局、私も最後まで読んだ事がなくて」

マルグリット夫人も“その結末”は知らないと云うのです。ラマン巡査の期待は、風船の空気が抜けてゆくように萎んでゆきました。

どうやら、マルグリット氏とアラン・ベネディクトは【虹泥棒の万華鏡】の話は知らないようでした。

いったい…読み手も聞き手も結末を知らない、この【虹泥棒の万華鏡】とは、どんな物語なのでしょうか?


《続きは追記からどうぞ》♪

 
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キラキラした落としもの【8】手のひらの上の輝き。


話題:童話

「これが、その“落としもの”なのですが…」

そう云いながらラマン巡査はキャンディの缶箱の蓋を開け、問題の【キラキラ】を取り出してアランに見せました。

「…えっ?」

アランの瞳は瞬きを止め、代わりに口が小さく開きます。

その反応は、この【不思議な落としもの】を初めて目にした時のラマンやマルグリット夫妻と同様の物でした。

「これは…いったい何なのですか?」

当然の質問です。ですが、その疑問に答える事はラマン巡査にもマルグリット夫妻にも出来ません。

「それが…実は、私たちにもよく判らないのです」

ラマンは正直に答え、少々バツが悪そうにマルグリット夫妻の顔を見ました。

ベネディクト菓子店の甘い香りが漂う店内に僅かな沈黙の時間が流れます。

「で…これが、うちの店の前に落ちていたと」

「ええ…拾われたのが、こちらのマルグリット夫妻という訳でして…」

ラマンの言葉に、マルグリット夫妻がほぼ同時に頷きます。

「それで…もしかしたら何かご存知なのではないかと考え、こうして伺ってみたのです」

アラン・ベネディクトは軽く腕を組み、少し考え込んでいましたが、やがて小さく首を振りながら答えました。

「…やっぱり、何も思い当たりませんねぇ」

「そうですか…」

ラマン巡査とて、此処に来れば直ぐに事件が解決すると思っていた訳ではありません。それでも、この不思議な事件を解く鍵は何となく“ベネディクト菓子店に在る”ような気がしていたので、アランの呆気ない反応に落胆の色は隠せません。

アランの視線は先程から、ラマン巡査の手のひらの上でキラキラと輝き続ける【不思議な落としもの】に注がれたままです。

「これは果たして“物”なのでしょうか?」

そんなデジャヴめいたアランの質問に答えたのは、マルグリット氏でした。


《続きは追記からどうぞ》♪

 
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