馬鹿(うましか)市ふらふら観光ガイド。


話題:妄想を語ろう



皆様はじめまして。馬鹿(うましか)市観光PR大使のトキノ“屏風の虎を追い出して下さい”ミノル伯爵です。

さて、元々、馬鹿(うましか)市とは何の縁もなかった私でありますが、ある時、[ディズニーシー]へ行くつもりで車を運転していたところ、カーナビの暴走により馬鹿(うましか)市の日曜大工専門店[DAYS 西]へと連れて来られ、それが切っ掛けとなり観光PR大使に任命されたと、そのような次第で御座います。若輩者ではありますが、馬鹿(うましか)市の魅力を余すところなくお伝え出来るよう力を尽くしたいと考えております。

では、馬鹿(うましか)市観光ガイド、記念すべき第1回目となります本日は市内屈指のパワースポッツ、その中から選りすぐりの1つをご紹介致しましょう。


―――――

馬鹿(うましか)市を訪れた際、是非とも足をお運び頂きたいのが市の最北部に位置する小高い丘です。

【ロズウェルの丘】と呼ばれるこの場所は一見すると何の変哲もないただの小高い丘で、実際その通り、小高い割に特に景観が美しいわけでもなく、綺麗な草花も皆無、有り体に言ってしまえば、単なる貧相な野芝の空き地に過ぎません。

かつては誰一人として見向きもしなかったこの丘が一躍注目されるようになったのは今から37年前、西暦1980年の事でした。恐竜の骨を発掘しようと、当時【熊五郎の丘】と呼ばれていたこの丘で恐竜の骨を発掘していた春休み中の少年2人(小学4年生)が、着陸するUFOを至近距離で目撃するという、町を震撼させる出来事が起こったのです。

UFOの着陸に気づいた2人は慌てて近くのブッシュ(元大統領ではなく“茂み”の方)の陰に身を潜め、様子を伺いました。すると、着陸したUFOから“カップ焼きそば”を手にした全身銀色タイツの宇宙人2人が現れました。宇宙人たちは辺りを警戒しながらカップ焼きそばのお湯をそれはそれは驚くほど“念入り”に湯切りした後、再び船内に戻りました。(2百回を超える湯切りのしつこさに)唖然とする少年たちを尻目に2人の宇宙人と2つのカップ焼きそばを乗せたUFOは瞬く間に飛び去ったといいます。

家へ戻った2人の少年は目撃した出来事を直ぐさまそれぞれの両親に話したそうです。最初は全く取り合おうとしなかった親たちも子供たちの真剣な表情に圧される形で地元の警察に連絡。翌日、警察、消防、地元の有志、名門・馬鹿珍大学UFO研究会などそうそうたる面々が【ロズウェルの丘】(当時は熊五郎の丘)に集合し科捜研ばりの大掛かりな現場検証が行われたのです。

結果、UFO並びに宇宙人の存在を示す決定的な事実が2つほど見つかりました。

その@――現場に残されていた無数のゲソ痕(足跡)のサイズが、27・736インチで、これは地球では売っていない中途半端な靴サイズである。

そのA――土壌から基準値を遥かに超える濃度のウスターソースが検出された。

ウスターソースが地面から検出されたという事は、彼らは湯切りをする前にソースを入れていた事になりますが、これに関して市のアカデミズムの最高機関である[馬鹿珍大学のポン教授]はこう語っています。

「もしかしたら宇宙では先にソースを入れる方が主流なのかも知れない。事実、私の友人も以前、高田馬場の雀荘のオヤっさんにソースを先に入れられた事がある。いやあ、あの時は笑った笑った……(以下、長くなるので省略)」

続けて、「恐らくは宇宙船内の排水装置に何らかの不具合が生じ、カップ焼きそばのお湯を捨てる場所に困っていたのではないか」との推察も付け加えました。

確かに【ロズウェルの丘】は人気も全くありませんし、お湯を捨てるにはもってこいの場所と言えるでしょう。

これにより正式に「UFOが着陸した場所」として市の公認を得た【ロズウェルの丘】は、現在では“UFOとカップ焼きそばの聖地”として市の内外から多くの観光客が訪れる馬鹿(うましか)市有数の観光スポットとして知られるようになりました。また、この場所はパワースポットとしての評判も高く、【ロズウェルの丘】でカップ焼きそばの湯切りをした人々からは……

「焼きそば運がアップした!」

「猫舌が治った!」

「ニキビが治った!」

「諦めていた身長が5pも伸びた!」

「恋人が出来た!」

「轟二郎さんのサインをゲットした!」

「執行猶予がついた!」

……など、喜びの声が続々と上がっております。

皆様も是非、馬鹿市有数の観光スポッツの1つにしてUFOと焼きそばの聖地【ロズウェルの丘】でカップ焼きそばの湯切りをし、人生に弾みをつけてみては如何でしょうか?

毎年夏に催される大イベント《カップ焼きそば湯切りコンテスト》は優勝、或いは上位に入賞すれば泣く子も黙る豪華賞品を貰えますので、湯切りに自信のある方はそちらに参加してみるのも素敵です。カップ焼きそばを持参するのは面倒くさいという方には、【ロズウェルの丘】の入り口にUFOを目撃した2人の(元)少年が共同経営する[カップ焼きそば専門店・夢の焼きそばザウルス]でお好きなものをお買い求めになると良いでしょう。

なお、【ロズウェルの丘】は皆が湯切りをするせいで地面が常にぬかるんでおりますので、それなりの履き物で来る事をお薦め致します。

―余談―

馬鹿(うましか)市で恐竜の骨が発掘された事はいまだかつて只の一度もありませんが、少年2人に言わせれば「一度も出ていないからこそ、そろそろ出て来ても良いはず」なのだそうです。


〜おしまひ〜。

流れる星のレストラン。


話題:ショートショート



ロマンティックな恋人たちの台所。リストランテ【流れ星】は、閑静な郊外の一画にひっそりと居を構える隠れ家のような洋食屋さんです。

夜空と星をモチーフに、外観、内装、家具調度品に至るまで、兎に角すべてがロマンティック。天涯のプラネタリウムには季節の星座がきらきらと輝き、まるで宇宙のほとりに佇んでいるかのような気持ちになるのです。

果てしのない星の海、その中で頂く料理もこれまた絶品揃いで、味は頬っぺたが落ちる事受け合いです。美麗な食器にアートのような盛付け、舌ばかりでなく目からもロマンティックな奔流が流れ込んで参ります。

それだけではありません。洗練された身のこなしのソムリエとギャルソン、コンシェルジュの渋く落ち着いたバリトンヴォイス。ガイドブックには決して載らない隠れた三ツ星――いえ、満点星のレストラン、それがこの流れる星の洋食屋、リストランテ【流れ星】なのです。

さて、今宵も星を散りばめた店内に一組のカップルの姿が見えます。では、二人の座るテーブルの様子を読唇術など使いつつこっそり眺めてみると致しましょう……。


ギャルソン「こちらがメニューになります」

恋人男「うむ、ありがとう」

素足に革靴、明らかに石田純〇さんを意識したコーデの男性がメニューを開きます。すると……

恋人女「まあ、何て素敵なのでしょう」

ワンレングスの長い髪に太い眉毛、明らかに石原真里〇さんを意識したコーデの女性の瞳が輝きました。

恋人男「ああ……これは美しい」

いったい、この80年代風お洒落カップルの二人は何に驚き、且つ感動しているのでしょう。はい。ずばり、それは二人が手にしたメニュー表なのです。リストランテ【流れ星】のメニュー表は特別製で、本のように左右に開く薄型のタブレット端末となっています。美しい星空の背景に金文字のメニューが浮かび上がるそれはそれは美しいメニュー表で、眺めているだけで心にロマンの覚えのある人間ならば誰もがうっとりした気持ちになるのです。そして……

恋人女「あ、流れ星……」

そう。背景の夜空を時おり流れ星が駆け抜けてゆき、それが心の中の“ロマンティック領域”を存分に刺激してくるのです。さすがはロマンの極北、流れる星のレストラン、しっかりと心に“とどめ”を刺してきます。

さて、そうこうする内、どうやら二人の注文が決まったようです。

恋人女「私、シャラン鴨のコンフィ・ブルゴーニュ産ヴィンテージワインソースにするわ」

恋人男「では僕も同じ物にしよう」

シャラン鴨のコンフィと言えばお洒落料理の代表格です。

ギャルソン「………………………それで宜しいですか?」

ギャルソンのあまりに不自然な間合いがとても素敵に引っ掛かります。

恋人女「ええ、それでけっこうよ」

恋人男「うむ。では、それで」

注文を受けたギャルソンが去ると、料理がテーブルに届くまでしばしの間、星屑のステージとあいなります。


―星屑のステージ開演―

[出演]

星セント・ルイス…漫才

星新一…即興ショートショート作り

星飛雄馬…大リーグボール3号試し投げ(特別ゲスト・左門豊作)

星野仙一…乱闘のどさくさに紛れての巨人水野投手の頭をひっぱたたいた場面を特別再現(特別ゲスト・水野雄仁)

以上、いずれもソックリさんによる実演

―星屑のステージ終了―

さてさて、どうやら料理が出来上がったようです。ギャルソンが洗練された仕草で二人の前に料理のお皿を並べてます。けれども……

二人「????」

二人の顔にはてなマークが浮かび上がっています。これはいったい、どういう事なのでしょう?

恋人男「……これは?」

目が点になったニセ石田純〇氏にギャルソンがうやうやしく答えます。

ギャルソン「はい、こちらの料理は当店自慢の一品【季節外れの生牡蠣〜全治三日風】でございます」

恋人女「え、でも、私たちはシャランQの鴨長明のコンフィデンシャルを……」

注文したものと全く違う料理―しかもロマンティックというよりデンジャラスな香りの物―が出て来たのですから気が動転するのも仕方ありません。けれども実は、これは極めて順当な結果と言えるのです。店の側に落ち度は何ひとつありません。

彼らはとても重要な事を忘れているのです。それは、此処が【流れ星】という名のレストランである事です。

どういう事か?

皆さま、よくよく思い出して下さいませ。流れ星に願い事を託す時は必ず「星が消える迄に願いを“三回”唱えなければならない」のです。それは不文律であり絶対的な掟でもあります。

メニューの夜空に星が流れる僅か0・8秒の間に、二人は「シャラン鴨のコンフィ・ブルゴーニュ産ヴィンテージワインソース」と三回口に出して言う必要がありました。しかし、彼らはそうしなかった。ですから、願いは叶わず別の料理が出て来てしまったと言うのが今回の経緯。

ロマンティックへの道のりはかくも厳しいものなのです。けれども、そんな切なさもまた、ロマンティックがもつ深い味わいの一つなのでしょう。いまだかつて、この店でちゃんと注文出来た人はいないと言います。叶ってしまった夢はもはや夢とは呼べず。願いはただただ願いのままに。それがロマンティックの哀しき背中であるならば、もしかすると、あの夜空に輝く無数の星たちは、叶う事のなかった誰かの夢なのかも知れませんね。


〜Fin〜。
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