話題:とりあえず笑てごまかしましょう!
「ボス…ようやくブツが出来上がりました」
秘密の地下アジト。
ボスと呼ばれた男は、テーブルの上に置かれた一枚の紙幣を手に取ると、表面を指で何度もなぞった後、電球の灯りに紙幣を透かしながら入念に“その出来映え”を細かくチェックした。
「どうです? 素晴らしい出来でしょう?」
やや得意顔で話すのは、【ネロネロ悪党団】の偽造部門を統括する…通称・殿様バッタと呼ばれる男だ。
「うむ‥実に秀逸だ。もはや芸術作品といっても良いぐらいだ」
ボスが感心するのも無理はない。事実、その【一万円札】 ―もちろん偽造紙幣なのだが― は、どこからどう見ても【本物の一万円札】にしか見えないぐらいの出来映えなのだ。
“透かし”が完璧なだけでなく、紙質もインクも全てが本物としか思えないぐらいの見事さ。
「念の為に聞いておくが…まさか“実は本物の一万札でした”なんてオチじゃないだろうな?」
ボスの言葉に、殿様バッタがニヤつきながら首を横に振る。
「いえ、こいつは紛れも無く“本物のニセ札”でさ」
本物のニセ札…流石は《ネロネロ悪党団》の中で屈指のIQを誇る殿様バッタだ。ここでもボスは感心せざるを得なかった。
何はともあれ…
これで資金面に不安がなくなるのは大きい。最近、かつてのライバル組織で、一度は壊滅に追い込まれた《紅ズワイガニ団》が、新たな体勢の元に復活を果たしたなどという不穏な噂も耳に入って来ている。
《ネロネロ悪党団》としてもウカウカはしていられない。今の内に勢力を伸ばせるだけ伸ばしておきたい…それがボスの本音であった。
「では、早速 量産態勢に入ってくれ」
殿様バッタがニヤリと笑う。
「既に入っております」
「お主…やるな」
「有難うござい」
「フフフフフ」
「ヘヘヘヘヘ」
「フハハハハ」
「ブヒヒヒヒ」
「ブワァッハハハ!」
「フヒャヒャヒャ!」
「ブワァッヒェンボルヘェヒャッハハハッハ――!!」
「フヒャヒャリモヒョヘラムヒャヒャッヒャ――!!」
芸術的ニセ一万円札を前に、二人は笑いが止まらなくなっていた…。