地球最後の大作戦。

世界は滅亡の危機に瀕していた。

驚くべき事に、今日で実に1500日もの間、雨が降り続けているのである。


1500日と云えば4年以上にあたる。その間ずっと、しかも局地的ではなく世界中のあらゆる国、あらゆる場所に激しい雨が24時間降り続けているのであった。

この歴史上かつてない未曽有の事態は、産業や交通といった経済分野のみならず、社会を形成している全ての分野に巨大なダメージを与えていた。


当然、去年開催される予定であったオリンピックの祭典も中止となった。


何せ、降り続く雨のせいで植物が一切育たず、それらを飼料とする動物たちの育成も不可能、漁場の異常も顕著で、魚の水揚げもほぼゼロと云う非常事態に世界各地が陥っていたのだ。

勿論、世界もこの緊急事態に、ただ手をコマネチ‥いや、こまねいていた訳ではない。

当初は各国がそれぞれ独自で対策を練っていたが、流石にそれが世界規模の非常事態である事を察するに至り、ようやく面子をかなぐり捨て、弱体化していた国連の代わりに【世界存続会議】なる主義や思想を超えた枠組みを作ったのだった。

それがちょうど一年前。【世界存続会議】は当然、もてる全ての力を結集して事態の収集に務めた。

世界中の科学者や物理学者は勿論、直接関係は無さそうな分野の学者にまで声をかけ、連日連夜の議論を重ねた。また、議論だけではなく実際に[気象爆弾]など幾多の物理的試みもなされたが、いずれも効果は無く、いよいよもって世界は追い詰められていた。

そして半年前、世界に更なる追い討ちを掛けるような発表がNASAから“なさ”れたのだった。

「現在、彗星が地球に向かって接近しているのを確認。彗星は地球の公道と交錯する軌道を取ると思われる。なお、彗星自体の大きさはそれ程ではないが、彗星は成分に多量の水分を持つ【氷惑星】と思われる」

何と云う事だろう。

これでは、例え、その彗星をミサイルで迎撃出来たとしても、それが地球から近い場所であれば、砕かれた彗星の破片=氷が大気圏突入の際の摩擦熱で溶け、大量の水として地表にスプラッシュを浴びせてしまう。

折からの豪雨に彗星のスプラッシュが加われば…それこそ、長年続いた人類の地球絵巻も一巻の終わりとなるのは確実であろう。

何としてでも、彗星を地球の遥か彼方で破壊しなければならない。世界は持てる技術と物資の全てを注いで12機のミサイルを作ると、飛来する彗星に向けて順次発射した。

しかし…

飛んでいる小さな彗星にピンポイントでミサイルを、それも射程圏外の距離で当てるのは至難の技であった。
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夏の散文『ホームランの翼』

台風が過ぎて、再び街に暑さが戻ってきた。

いよいよ夏本番。

汗っかきの人などは、まだ昼前であるにも関わらず、もう既に額から滝のような汗が流れ落ちている。もっと凄い汗っかきになると、その滝の中で時おり鯉が飛び跳ねていたりする。

ついに日本も、人間の顔の上で鯉が滝登りをするぐらいホットな国になったようだ。

ところで、鯉と云えば広島東洋カープ(カープは鯉の意味)、広島東洋カープと云えば野球…

そんな野球の華であるホームランは、春夏秋冬いつ打っても気持ち良い物である事は間違いないのだが、夏のホームランは、また格別であるように思う。

可笑しな表現ではあるけれど、夏に打つホームランは秋や冬のホームランよりも“ホームランやしいホームラン”だと云う気がするのだ。

…などと云う具合に、話題を半ば無理やり強引に【額の汗】から【ホームラン】に持って行く力技が通用するから夏は素敵だ。誰もが暑さのせいで頭が回らなくなっているのを見越しての話の展開法である。

それにしても、夏のホームランはやはり特別だと感じる、そう思う根拠もある。

白球を金属バットが叩く、カッキーンと云う音。あの乾いた鋭い音が、夏の緩んだ空気に、とてもよく合うのだ。

白飯に味噌汁、ワインにチーズ、トイレにセボン、目肩腰にアリナミンA‥それらと並べても全く遜色のない相性の良さと云える。

日中には、町のグラウンドや夏休みの校庭から金属バットが球を弾く健やかな打球音が聴こえてきて、私はその鋭く乾いた音を聴くと「夏だなあ」と季節を実感するのだ。


かくいう私が人生で初めて打ったホームランも“夏のホームラン”で、おまけにそれは、試合を終わらせるサヨナラ逆転ホームラン、小学五年の夏休みであった。

どこまでも広がる青空のに入道雲がポツリポツリと浮かんでいて、レフトの上には大きな太陽が眩いばかりに輝いていた。


“これでもか!”と云わんばかりの夏らしい夏の日。

私が思いっきり振り抜いた打球はカキーンと云う乾いた音を残して太陽の中に消えていった。

いや、これは物の例えでは無く、太陽と球が重なって打球の行方が本当に見えなかったのである。


それでも、手応えと球の上がった角度で私はホームランを確信していた。


興奮覚めやらぬ気持ちでベースを一周し、ホームベースの上で仲間達の手荒い祝福を受ける。

そして監督とハイタッチ。

この時打ったホームランの感触は、それから何十年と経った今でも、しっかりと手のひらに残っている。

青空を切り裂いて伸びていった鋭く乾いた打球の音も、やはり今だに耳に残っている。

そして‥

ちょっと不思議な事に、その時 私が打ったホームランの球‥それがレフトスタンドの何処にも見つからなかったのだった。

もっとも、実はレフトフェンスの向こう側はかなり広大かつ荒れた草地になっていて、かなり背の高いブッシュ(大統領ではない)などが生い茂っているような場所だったので、球が見つからなくても不思議では無いのだけれども‥。

それでも、

夏の太陽に向かって伸びていったあの白い球は、もしかすると、墜落する事なく、太陽に向かって何処までも飛翔し続けていったのでは無いか、と云う気もする。

太陽に向かって飛翔したイカロスは、太陽に近づき過ぎたせいで、その翼を焼かれてしまったが、夏のホームランは、決して焼かれる事のない小さな翼をもっているのかも知れない‥。

【ジョーク】訪れた転機(或いは、人はみな迷える仔羊)。

話題:突発的文章・物語・詩
アメリカ西部、田舎町の外れにある小さな教会。


のんびりとした初夏の午后を過ごしていたサンダース牧師のもとに、見知らぬ初老の男が「懺悔をしたい」と申し出て来た。

田舎の小さな町である。教会を訪れる顔は決まっている。

顔見知りでない人間がいきなり尋ねて来た事にサンダース神父は少々面食らったが、教会は[初見の客お断り]の高級割烹ではなく全ての人に開かれている場所なので、穏やかな笑みをもって彼を懺悔室へと案内した。

その男は懺悔室に入るとまずはこう切り出した。


男「私は罪を犯してしまいました」

薄い木の壁越しに神父が答える。

神父「人はみな迷える仔羊です、誰もが何らかの罪を犯している罪人(つみびと)なのです。恐れずに貴方が犯した罪を話して下さい」

すると男は意を決するように小さくフッと息を吐き出した後、己が犯した罪を語り始めた。

男「私は…銀行強盗をしたのです」

これは少々面倒くさい事になってきた。てっきり牧師は“妻に内緒で朝からバーボンを飲んだ”とか“結婚記念日だった事を忘れて夜通し酒場でバーボンを飲み続けてしまった”とか、極めて軽い些細な罪の告白だろうとタカをくくっていたのだ。

神父「それはまた…大変な事をしてしまいましたね」

神父の言葉に、男は少し震えるような声で返した。

男「そうなのです‥私はとんでもない事をしてしまったのです。強盗に成功したは良いものの、それ以来の毎日がもう苦しくて苦しくて…」

男の声は少し涙まじりになっていた。

神父「それが罪の意識と云うものです」

男「ええ、ええ…そうなのでしょう。それで、いっそのこと自首しようかとも考えるのですが…どうしても勇気が出なくて、もう30年もずっと独りで苦しみ続けているのです」

さ、30年!

神父は自首を勧めるつもりだったが、30年も踏ん切りが付かないでいるところを見ると、男を警察に出頭するよう説得するのは難しいかも知れない。

神父は州警察か郡警察に連絡した方が良いかもと考え始めていた。

だが、まずは説得だ。やれるだけの事はやらなければ‥。

神父「それはまた随分と昔の話ですね。しかし、罪は罪。貴方はそれを償わなければならない」

男「はい、私もそう思います。幸い、盗んだ300万ドルには一切手を付けていないのです。お金を全て返して素直に刑を受ければ、それが一番‥とは考えるのですが、どうしても捕まるのが怖い」

神父「300万ドル!」


神父は思わず声を出していた。

30年前に300万ドル‥神父はその昔、アメリカ全土を揺るがせた銀行強盗事件を思い出していた。

神父「あれは確か…ケンタッキー・フライド銀行の…」

男「そうです。そのケンタッキー・フライド銀行から300万ドルを盗んだのが私なのです」

全くもって何と云う事だ!!

のんびりとした平和な田舎町の何気ない日々に、このような青天の霹靂が落ちようとは!

サンダース神父は少なからず動揺していた。自分の手に負える事件では無いような気がし始めていたからだ。

しかし…

もしも! もしも、この稀代の銀行強盗犯を説得して自首させる事が出来たならば!

サンダース神父の名前は立ち処に世界へ広まる事になるだろう。

当然それはバチカンにも伝わり…もしかしたらローマ法皇との謁見も…そして、地位と名声の上がった私は世界的な大教会の神父に…

神父はコホンと一つ咳払いをすると、重みのある声で言った。
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【ナンセンス】めくるめくタマネギの皮。

相変わらずの猛暑日。すっかり関東の新名所となった東京スカイツリーの下、必死の形相で木魚をポクポクポンと叩き続けている独りのお坊さんが居た。

その額からは滝のような汗が流れ落ちている。

それでも、お坊さんは木魚を叩く手を休めようとはしない。

何故なら彼は、自分が叩く、木魚のポクポクポンと云う音がこの巨大な東京スカイツリーを支えていると思っていたからだ。

もし自分が木魚を叩くのを止めてしまえば、その瞬間、東京スカイツリーは倒れてしまう…頑なにそう信じ込んでいたのである。

しかし…

そのお坊さんの話はどうでも良い。

私が言いたいのは全く別の事なのである。

問題は、そのお坊さんが叩き続けている木魚だ。


その木魚はW県の人里離れた深い山奥の“御神域”とされている森から特別に切り出された物であったのだが、

実はその木魚を作った木工職人は自分の事を、伝説のヴァイオリン職人ストラディバリウスの生まれ変わりだと信じていた。

つまり彼は、自分ではヴァイオリンを作っているつもりで、ひたすら木魚を作り続けていたのである。

だが…

その木工職人の話はどうでも良い。

私が言いたいのは、そこでは無いのだ。

問題は、その木魚を買い付けている女性バイヤーにある。

実は彼女は十年前まで、海外で不法に仕入れたホッチキスの針を木魚の中に隠して国内に持ち込む【木魚密輸団】のリーダーで、事情通の話によると今までに彼女が国内に持ち込んだホッチキスの針は数十億本にも及ぶという。

しかし十年前、子供が産まれたのを機に密輸団を解散。その後、彼女は木魚業界随一の目利きとして、その名を馳せている。

木魚を木魚として正しく世の中に送り出す事こそが、これまで不当に扱ってきた木魚に対する罪滅ぼしだと彼女は信じていたのだ。

因みに彼女は、自分が密輸していた事に対する罪の意識は全く無いようであった。

が…

その女性バイヤーも木魚密輸団も、実はどうでも良い。

私が言いたいのは、また別の事なのだ。

問題は、女性バイヤーが密輸業を引退する引き金となった彼女の一人息子にある。

小学四年生の彼は、自分の母親が木魚と只ならぬ関係にあるらしい事に最近薄々感づき始めていた。

しかし彼は、それに関して母親に問い質すような事はしない。

何故なら、自分が生まれる前の母親には“一人の女としての人生”があり、それに対してとやかく云う権利は自分には無いと考えていたからだ。彼はとても利発な少年なのだ。

その利発さは、周囲の大人達も『彼は将来、立派な理髪店のオヤジになるに違いない』と太鼓判を押す程であった。

真面目で利発な彼は、朝、誰よりも早く学校に着く。

まだ誰もいない清々しい早朝の教室に入ると彼は、一番後ろの列の窓際の席に腰を下ろし、鞄から教科書を出して広げ、今日の授業の予習を始める。

そうこうしている内に次々と学友達が教室に入ってくるのだが、その学友の一人である【田中中田】(たなか・ちゅうた)君が毎朝必ず、彼に近づいて来てこう言うのだ。


『おい‥そこ、俺の席なんだけど』

そう…最後列の窓際の席、そこは本当は田中君の席なのである。

言われて少年もハッと自分の間違いに気づいて謝る。

『ゴメンだよ』

ところが、翌朝になると少年はまた、最後列の窓際の席に座ってしまう。


早朝、教室に入ると、彼はどうしてもそこが自分の席だと思い込んでしまうのであった。

しかし…

その問題の席も田中君も、はっきり言ってどうでも良い。

私が言いたいのは、それとはまた別の部分にある。

問題は、彼らの教室に掛かっている黒板だ。
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七夕にカルピスを飲んだら梅雨が明けた。



お肌のモイスチャーバランスが気になり始める夏本番、皆様いかがお過ごしでしょうか?

何でも世間ではUVカットなるものが流行っているという噂を聞いた私は、流行に乗るべく直ぐさま美容院に出掛け、

スミマセン、UVカットにして下さい♪』と言ったところ‥

美容師『あの‥UVカットは髪型じゃありません。健太郎カットとか聖子ちゃんカットとは違うんです』

思わぬ返答にすっかり動揺してしまった私は、

あ、それじゃ‥キットカットで』

美容師『‥キットカットはチョコレートです』

“にべもない返事”とはこの事です。

私は仕方なくニベア・スキンクリームを買って美容院を後に‥そんな出来事があったとかなかったとか…。


さてさて、話はガラリと変わって7月7日‥いわゆる“タナバタ”の事なのですが

どういう訳だか、急にカルピスが飲みたくなったのです。

思えば昔は、この暑い時節になると、お中元でよく【カルピスの詰め合わせセット】が贈られて来たものでした。

瓶に濃縮されたカルピスの原液が入ってて、水や牛乳で薄めて飲むのです。

最近はとんと頂く事も無くなりましたが、昔はカルピスがお中元の定番中の定番だったのです。


夏ともなると毎日のように【カルピスの詰め合わせ】が贈られてくる。


景気の良かった頃などは、下手すると1日に何百万本ものカルピスが贈られてくるので、遂にはその重さで家が地面の下に沈んでしまい、二階建てが平屋(プラス地下室)になってしまう事も度々でした
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