じっくりコトコト煮込まなくとも。


話題:おやじギャグとか言ってみたら?


あまり知られていない日本各地の伝統的な郷土料理を、是非とも皆様のご家庭にお届けしたい。そんな一念で立ち上げた当ブログは、初志貫徹の言葉通り、ひたすらな迄に田舎料理の紹介に徹して参りました。

今回ご紹介しますのは、N県とY県の県境に存在する古(いえしえ)の隠れ里に伝わるちょっと不思議な煮物料理です。こういう古(いえしえ)の土地の伝統料理には総じて古代祭礼の“儀式”の名残が含まれている事が多く、それを私たち郷土料理研究家は《いにしえ〜しょん》と呼んでいるのですが――と言う、如何にも書いている最中に思いつき、慌てて付け足したような駄洒落はさて置きまして――兎にも角にも、今回登場する煮物にも確かにそういう謎めいた部分が含まれいる訳です。

とは言うものの、料理自体は極めてシンプル。いえ、もはやシンプルと呼ぶ事すら烏滸(おこ)がましい程の素朴さ、単純さ、やる気なさ、金鳥サッサ、ホイサッサ、お猿の駕籠屋だ、ホイサッサ、正直、手抜きいとしか思えないぐらいです。どれほどやる気が無いかと言いますと、先ず第一に【具材は何でも構わない】。そして第二に【出汁は何でも構わない。いざとなったら白湯でも良い】。更に三番目として【調味料は何でも構わない。もちろん無くても大丈夫】が続きます。

果たして、このような物が料理と呼べるのでしょうか?

はい、呼べるのです。

そこで注目されるのが、先に述べた“ただ一点のこだわり”です。それはズバリ食材の切り方にあります。鍋の中に入れる食材は肉でも野菜でも練り物でも何でも構いませんが、『必ず三角形に切ってから入れなければならない』、そういう絶対的な掟が存在するのです。正三角形でも二等辺三角形でも大まかな感じで構いませんが、兎に角、具の形は三角形を厳守してあとはそれを煮込むだけ。それが、この郷土料理の謎めいた部分であり、同時に全てでもあるのです。

この料理がいつどのようにして生まれたのかは残念ながら全く判っておりません。ただ、この深山幽谷の隠れ里には古くから謎の〈三角形信仰〉が存在しており、恐らくはそれと密接な関係があるだろうと言われております。この地に今も息づく〈三角形信仰〉。例えば、自転車の乗り方は老若男女問わず三角乗りが一般的ですし、骨折などしていなくとも三角巾で腕を吊るすのは定番のファッションとして推奨されています。里の名産品も三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)と、これまた〈三角形信仰〉に深く繋がるものとなっております。ちなみに男女間の恋愛はことごとく三角関係に発展します。

さて、本来ならば更に詳しく書き連ねたいところですが、残念ながら、この料理は、これ以上説明のしようがありません。という事で、そろそろ〆させて頂こうと存じますが、この料理を作る際の唯一のアドバイスとしては、やはり、三角に切りやすい食材を選ぶ事でしょうか。最初から三角になっているドンタ〇スやポリン〇ーなどがお薦めです。

殆んど魅力を感じない料理ではありますが、この里の子供たちが異様な迄に三角関数に強いのはこの三角尽くしの煮物を食べているからだ、との話もあるなど、多少の御利益が期待出来ますし、何よりも冷蔵庫の残り物で簡単に作れる手軽さがありますので、皆様も是非一度お試しになられてみては如何でしょうか。それでは、いくらか物足りない感じもありますが、本日はこの辺で失礼させて頂きます……。

次回の郷土料理(予定)。

「名古屋コーチャンの老眼鏡日光集め焼き」

〜おわり〜


あ、すみません。肝心な事を言い忘れておりました。この、隠れ里に伝わる煮物料理の名前。それをお伝えしなければなりません。危うくすべてが水の泡と化すところでした。神秘のトライアングル料理。鍋の中、ひたすら三角形が並ぶ謎の煮物の名前は……


【ていへんかけるたかさわる煮】
(底辺×高さ÷煮)

そう呼ばれております。


……ああ、ああ、どうか、そんな風に目を三角にして(怒ったような目で)見つめないで下さいまし。


▲オマケ▲

「わしが歩いといたら、おデブの白鳥が追いかけてきて、たいへんなコトになったべが」

夏の夜空を飾る星座、夏の大三角(星)の語呂合わせ的覚え方です。ワシ座のアルタイル、白鳥座のデネブ、琴座のベガ。皆様も夏の夜空にひときわ強く輝く三つ星の大三角を探してみては如何でしょうか。

歩いといたら→アルタイル、ここが少しキツいところですけど、まあ、そこは、「アルタイルさんに千点!」という事で。あ、アルタイルではなく「ハラタイラさんに千点!」でしたっけ。


〜おしまい〜。

カテゴリ:結果にコミットする【ダジャレヌーヴォー】。

歌謡ノンサスペンス「私の城下町」。


話題:突発的文章・物語・詩


『かれこれ二十年になりますか…道楽で日本各地のお城を巡っておるのです』初老の男は幾分照れ臭そうに云った。彼は元教師で、長年、高校で日本史を教えていたらしい。

春らしい暖かい光に照らされた五月の小田原城址公園。目前には風格に満ちた小田原城の姿がある。

彼とは偶々この場所で一緒になっただけでもともと知己の間柄ではない。どちらからともなく話しかけたのは、ほかほかとした陽気のせいに違いなかった。もし、これが凍るように寒い真冬の一日であったなら、こんな風に心は緩まず、従って口が緩む事もなかっただろう。

『お城巡りですか。なかなか良いお趣味ですね、風情がある』。私が云う。

『いえいえ。他にこれといった趣味がないだけのお話でして…』

私たちの会話はそんな風に始まった。

『二十年と云いますと、さぞかし色々なお城に行かれたのでしょうね』

『はい。青葉城、姫路城、二条城、首里城、五稜郭、松本城、それと姫路城ですか…数だけはそれなりに重ねておるかとは思います』

姫路城が二回登場したが、そこは、まあ気にしないでおこう。

『となると、もう殆んどの…あ、もちろん日本国内に現在残っているお城という意味ですが…お城を巡られたのではありませんか?』

二十年もお城巡りを続けているのなら全城を網羅…いや制覇と言うべきか…をしていても不思議はないように思える。ところが、元教師は『とんでもない』と云った風に大きくかぶりを振ったのだった。

『いやいや、制覇どころか、せいぜい二割から三割、そんなものでしょう』

『えっ、そうなんですか?』

『そうですとも。あなた、日本にお城どれぐらい残っていると思います?』

『さあ、どうでしょうか…』

日本に現存するお城の数。そんな事は考えた事もなかった。

『およそ見当もつきませんが、まあ、各都道府県に一つずつあるとして、トータルで五十ぐらいですかね』

すると老人は〈ムンクの叫び〉のポーズをとった。

『それ、桁が二つ違いますわ』

『二つと云いますと…四桁…えっ!千個以上の数のお城が今も残っているんですか!』

『ね、驚きでしょう?』

まったくもって彼の云う通りだ。よもや、そんなにも現在の日本にお城が残っていようとは。夢夢思ってもみなかった。

『いやはや千以上とは…正直、驚きました。まさに、ライオンズマンションもびっくりの軒数ですね』

すると元教師は、やや不自然な沈黙の後、『……ええ、タイガーマスクもびっくりです』と云い返してきた。

ん?もしかして、私がライオンと云ったので、それに対抗してタイガーを出したのだろうか?確かめるべく別の動物で誘いをかけてみる。

『はい、確かに…エレファントカシマシもびっくりです』

私の推察は当たっていた。

『ええ…ビーバーエアコンもびっくりですな』

間違いない。彼は私に別の動物で対抗しようとしているのだ。

『なる(ほど)…クロコダイルダンディーもびっくりです』

『うむ…ハワード・ザ・ダックもびっくりです』

ああ、この人も私と同じく、ことくだらない事に関して負けず嫌いなのだろう。

『ええ…ライオン丸もびっくりです』

私が云うと、元教師はニヤリと笑った。

『はい、あなたの負け。ほら、同じ動物を二度出したらダメな訳ですから』

えっ、そういうルールなのか。何だか微妙に悔しい。が、まあ、何はともあれ老人は機嫌よさそうだし、これはこれで良かったのかも知れない。こういう不毛なゲームはどちらかが大人になってわざと負けて終わりにするしかないのだ。私は悔しさを押し隠して爽やかに話の方向転換を計った。

『しかし…千以上のお城を巡るとなると完全にライフワークという感じですね』

『確かに。困難な目標、高い壁、それだけにやりがいがあると云いますか、人生のモチベーションになっているのは間違いありません』

ふと思った事を訊ねてみた。

『時に、今までで一番印象に残っている“城”って何ですか?』

『そうですね……』

老人は晴れ晴れとした空を見上げ、少し考え込むようにして答えた。

『もう随分と昔になりますが、サッカーのオリンピックだかワールドカップだかをテレビで観戦していた時、不意に耳にした【城は良い選手だけど、負けてるのにヘラヘラ笑ってちゃダメ!】というとても厳しい言葉。それが、私の中で最も印象深い“城”でしょうか』

……真面目な顔をして、いったい何を云っているのだろうか、この人は。

《続きは追記からどうぞ》


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