スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

榎本 紗夕/友達の恋

※異性の幼馴染み




どうしてカンナだけ特別なんだろう?

「見てこれ。ヤバくない?」

カンナは頭の悪いギャルみたいな口調で奇妙な黄色いものを差し出した。カンナの指がそれを押すと、コミカルに踊る。

「つか、東京ばな奈じゃん」
「しかもスカイツリー限定なんだよ。ヤバい面白い」

カンナは東京ばな奈を両手で持って、楽しそうに踊らせた。

私はぷっと吹き出して笑った。

カンナは昔からそうだった。発想力があって面白いことが好きで人を笑わせる才能があった。それも心が和むような、穏やかな笑いを誘うのだ。

カンナのその才能を間近で見てきたおかげで、私は『天然』振るのが上手くなった。それで男を騙して女の人生を謳歌している。私は自分の美貌だけの魅力に甘んじないで、中身もよく磨いているのだ。

「ねえ」
「なに」
「木嶋さん、準ミスだったね」
「なにが?」

カンナ、まさか、知らないのかな?

「ミスコン出たじゃん。ちなみに私が一番だったんだけど」
「え、すごいじゃん」
「うん。ありがとう」
「ミスコンってなに。なんの?」
「ほんとに知らないのね。てかうちの学校のミスコンだけど」
「まじか、すごいね。これあげるよ」

カンナは感心したような顔で東京ばな奈を一つ差し出した。カンナが遊んだせいで真ん中が少しくびれているけど、一応「ありがとう」と言って受け取ることにした。

「彼女から聞いてないの?」
「だれ?」
「いや、木嶋さん。まだ付き合ってるよね?」
「ああ、百合ちゃん。付き合ってるけど会ってないから分かんない」

またそのパターン。

カンナは付き合ってと言われたらその時に恋人がいなければ誰とでも拒まず付き合うのだけれど、付き合っても特別扱いしてあげないからすぐにまた別れてしまう。連絡は無視、会っても無言、デートのプランは立てない、友達との約束を優先する、そして我慢できなくなった相手に別れを切り出される。

馬鹿なんでしょう。

私より、たぶん酷い。

「てか、最近携帯見てる?」
「見てない」
「なんで。失くしたの?」
「いいじゃんべつに」

良くねえよ。

私は連絡取らなくてもカンナの家に来ちゃえるけど、たぶん彼女はそうは行かないでしょう。

「どこにあんの?」
「だから、どこでも良くない?」

また、カンナはギャルみたいなことを言う。

カンナが誰かに影響されるとは思わないから、たぶん元からカンナの中にはギャルの遺伝子があるんだと思う。もしくは、ギャル男と付き合いがあるから、どういう理屈かそれに影響されてギャルみたいになってるのかもしれないけど。

「良くない。私がカンナと連絡取れないじゃん。嫌なんだけど」
「連絡してこないじゃん」
「つーか、きのうしたけど」

カンナは真顔で私を見た。

「まじで」

まじだよ。

きのうライン送ったのに既読も付かねえんだもん。カンナに無視されるとなんか嫌なんだよね。なんでか凄く嫌なんだ。

「失くしたっつうか、あれ、ゴウ君のとこにあんだよね」

カンナは東京ばな奈をローテーブルに投げてからベッドに寝転び、はっきりしない口調で言った。




【友達の恋】




『ゴウ君のとこ』にある?

カンナはそう言った。

ゴウ君はカンナのお兄さんの同級生で、私達とも昔から付き合いのある人だ。カンナのお兄さんとカンナとゴウ君と私の4人でよく遊んだ。カンナのお兄さんがアメリカに行ってからは、私は余り会ってなかったけど、二人は今でも会っているらしい。

「ゴウ君のとこなら、すぐ取りに行けんじゃん」
「距離を置きたい気分なの」
「は?」
「ゴウ君のさ、みーちゃん関連で、たぶんちょっと怒らせたんだ、おれ」

カンナは体を反転させて布団に顔を埋めた。

「みーちゃん関連ってなんだっけ?」
「ゴウ君が好きな人。ゴウ君が高校くらいから片想いしてる人」
「あの人、男子校じゃん」
「だってあの人、男が好きじゃん」

は?

なんで当然みたいに言うの?

「それでどうしてカンナがゴウ君を怒らせたの?」

カンナは布団から顔を覗かせた。多くの女の子や大人達を虜にした上目遣いは私にも多少の効果がある。

「おれ、みーちゃんと仲良いんだ。それがゴウ君にバレた」
「ちょっかい出してたってこと?」
「違うけど。ゴウ君にとってはそうだったかも。ゴウ君はみーちゃんの連絡先知らないっぽいんだけど、おれ、そのこと知ってたけど、みーちゃんの連絡先ゴウ君に教えなかったし」

なんか助言してあげたいんだけど、何も言うべき言葉がない。ここまでなんて言っていいか分からない状況に、私は遭遇したことがなかった。

友達が片想いしている人とは、友達になるのも許されないの?

私はそういうの分からない。

恋愛にルールは無い、というのが私の持論。

「じゃあそう言うしかないじゃん」
「そういう雰囲気じゃないんだよね」
「一緒に着いて行こうか?」
「まじで」
「まじだけど」

カンナは割と本気で喜んだ。

「とりあえず、なんで連絡先教えてあげなかったの?」

それって重要だよね?

「なんとなく」
「は?」
「いいじゃん、べつに」
「良くないでしょ。なんで友達の恋を応援してあげないの」
「そうだけど」
「カンナも、その、みーちゃんが好きなの?」
「好きだけど」
「は?」
「てか、みーちゃん、たぶんゴウ君のこと好きじゃないよ」
「どゆこと?」
「みーちゃん、ゴウ君のこと避けてたし」
「それで連絡先教えなかったの?」
「それは、なんとなく」

なるほど。

ちょっとはカンナの考えが分かった。

好きでもない人間からのアプローチほど面倒なものはない。好きでもない人間に連絡先を教える必要などない。カンナは間違ってない。それは、きっと、私がカンナの立場でも同じだったと思う。

「でもさ、カンナの携帯がゴウ君のとこにあるってことは、もう連絡先バレてるってこと?」

カンナはまた顔を布団に埋めて、こもった声で「わかんない」とだけ答えた。

そうだよね。

そんなこと分かんないよね。

「でもさあ」

私が言うとカンナは「なに」と答えた。顔は布団の中に潜っていて見えないままだけど、たぶん見た目程には落ち込んでいないということがなんとなく分かる。

「ゴウ君って、自分の欲しいものを他人から奪うタイプじゃないじゃん」

ゴウ君は、欲しいものは向こうから手の中に転がり込むように工夫するタイプだ。奪ったりはしない。他人を傷付けて目的を達成することを喜ぶ人間じゃない。ズルして得た連絡先で好きな人にアプローチするような人間なら、あんなに多くの人から信頼されてない。

「うん」

カンナは小さな声で同意した。

「たぶん大丈夫でしょ」

私が言うとカンナは頭を小さく動かして頷いた。私はそれを可愛いとか思っちゃうんだろうな。

他の誰かならこんなことにはならない。他の誰かなら、世界中の誰でも、こんなことにはならない。私は他人の恋愛なんか興味ないし、ましてや恋愛絡みの問題を解決するのに手助けすることなんかない。

でも、いま、私は。

カンナを助けたい、って思ってる。

なんでカンナだけ特別なんだろう?

私はカンナのために、携帯でゴウ君の連絡先を開いた。

美谷島 桔平/一方通行

※会社員
※ある男に片想いされている男が片想いしている話し




橋本と連絡が取れなくなって1週間が経っていた。

「美谷島さん、風邪ですか」

顔を上げると木佐貫さんが心配そうに俺を見ていた。俺に元気が無い理由は風邪ではないけれど、『橋本から連絡が無いもので』などと言える筈もない俺は曖昧に頷いた。

「流行ってますからねえ。心配ですね」

木佐貫さんは心から不安がるような目付きで俺をじっと見詰めた。俺はそれを見ていられなくて味噌汁を箸でそっと掻き回した。

この人は、俺のことが好きだ。

俺が橋本を好いているよりずっと深刻な意味合いで。

そして俺は木佐貫さんに好かれていることを利用している。

最低な人間だよ。

分かってる。

「木佐貫さんは大丈夫ですか。僕が言うのも何なんですけど、季節の変わり目って体調崩す人多いっすからね」

木佐貫さんは「美谷島さんと話すと元気になりますよ」と答えて笑った。

真面目な顔して恥ずかしいことを堂々と言うものだから俺はそれを否定できずに一緒に笑うしかない。相手が橋本なら「バーカ」と言ってやるところだが、仕事上の付き合いもある木佐貫さんにそんなことを言える筈もない。

俺は木佐貫さんの気持ちに甘えているが、それと同時に何かを消耗しているのも事実だった。

気を遣うって言うのかな?

営業スマイルを張り付けて、良い子振っている。本当の自分ではない感じ。好いて貰う為に努力し続けている感じ。

「光栄です」

俺はなるべく冗談めかしてそう言った。

木佐貫さんは嬉しそうに笑った。




【一方通行】




木佐貫さんって物腰柔らかいのに押しが強いんだよな、と思う。木佐貫さんとデート染みたことを繰り返してしまうのはその所為だ。断じて俺の貞操観念が乱れているからではない。

今日だって、場所こそただの定食屋ではあるけれど、こうして夕食の席を一緒にすると変な気持ちになる。

『たまたま近くまで来たので』

木佐貫さんはよくそう言う。

俺はそれを、嘘だ、と思う。

木佐貫さんはいつも断ると関係を悪くするような遣り方で誘うのだ。それがわざとなら幾ら関係が悪くなろうが俺だってすっぱり断れただろうけれど、彼のあれはたぶん違う。無意識の強要、無実の強欲、天然素材の圧迫、或いは天使の涙とでも言うべきか。

段々とエスカレートしていく彼の要望を俺は一体どこまで聞き入れてしまうのか、最早自分でも決められない。

橋本ならどうやって断るだろうか。

例えば、今、この時を。

「美谷島さん、スカイツリー行きました?」

木佐貫さんのその問いに、なんて答えるのが正解なのか。俺には分からない。

「一度だけ」、と俺は正直に答えた。橋本と行ったことを話したくはないけれど、行ったことが無いと言えば『一緒に初めてを過ごす』ことを楽しみにされそうで居た堪れないと思ったからだ。

どうせ、何て言っても俺は木佐貫さんとスカイツリーに行く気がする。

なんだろうな、これって。

気を持たせてるっつーのかな。

「ああいうの、上に昇るよりも下で遊んでる方が楽しいと思っちゃうタイプなんですよね、私。スカイツリーを見上げるのが醍醐味、みたいな。勿論、昇ったら昇ったで展望デッキにも面白味はありましたけど」

木佐貫さんは続けて「あそこの展望デッキは広々してて過ごしやすいですよね」と言って俺を見た。

ああ、え?

意外だ。木佐貫さんもスカイツリーに行ったことがあるらしい。

誰と行ったんだろう?

「あ、実は上には昇んなかったんすよ。一緒に行った奴が、木佐貫さんと同じこと言って」
「そうなの。ちょっと勿体無いですね」
「そいつと木佐貫さん、そういうとこで気が合うのは、なんか、意外な感じがするんですけど」

俺としては折角スカイツリーまで行ったのだから展望デッキまで昇って当然だと思ったのだけれど、橋本は違った。ソラマチを歩いて、それで終わり。俺には理解し難いそれを、木佐貫さんは共感できると言う。

なんでだろう。

詰まんねえ。

橋本と木佐貫さんは対極にあるようなのに、俺には理解し難い部分に限って二人の意見が合致していることがある。俺はそれを忌々しく思う。

俺の手が届かないところに木佐貫さんが居る。

橋本の、直ぐ隣に。

「それって、美谷島さんの好きな人?」

木佐貫さんは突然、余りに突然、そう尋ねた。俺は箸に挟まれているソースがたっぷりかかったロースカツを震える手で口に運んだ。皿に落とさなかっただけ、ましだろう。

動揺したのに気付かれただろうか。

そうでないことを祈る。

俺がロースカツを咀嚼する間、木佐貫さんは永遠にでも俺の返答を待つのではないかという程落ち着いた様子で鯖の味噌煮をほぐしながら少しずつ食べていた。

木佐貫さんの、質問の追撃をせずに幾らでも返答を待っているところは、彼の恋愛に対する姿勢を見るようで申し訳なくなる。

答えらんないこともあるよ。

待っても、待たれても。

どーにもなんないことはあるよ。

「やっぱロースカツ美味いなあ」

とりあえず独り言でロースカツに夢中だったアピールをしてみる。たぶん木佐貫さんは改めて質問するような無粋は働かないだろうから、この話しは終わりになるだろう。

俺は笑って木佐貫さんを見た。

これで止めを刺す。

思ったとおり、木佐貫さんは困ったような顔をして、これに関してそれ以上は追求しなかった。

その代わり、提案があった。

「ねえ、今度一緒にスカイツリーに行こうよ」

どっちが良かったのかな。でも本能的に、『好きな人』がいることは知られちゃいけないって思ったんだよ。だって俺がしている片想いの方が、木佐貫さんの片想いより、ずっと報われる可能性が低いから。それを知られたくない。

でもなあ。

やっぱりそうなるよなあ。

「あー、てか展望デッキってあれビルだと何階ぐらいに相当するんすかね。ああいうエレベーターの管理とか色々大変そうっすよね」

俺は話しを逸らすよう試みた。

「確かにね。大体80階くらいだったかな。行ったのかなり前だから私も忘れちゃいました」
「そうっすか」
「まあ実際に昇ると感じ方も違うかもしれませんよ。折角だから展望デッキ行った方が良いですよ」

これ、もう駄目だな。

「あー……」

俺が返答に窮していると、木佐貫さんは嬉しそうに微笑んだ。

「私も久しぶりに行きたくなったなあ。美谷島さん、いつなら行けますか?」

やっぱりこうなる。

「来週の土曜とか」

俺の提案に木佐貫さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。女が好きそうな優しい顔付きだ。目を細くして、眉尻を下げて、年上なのに無邪気なその表情を俺は可愛いと思わなくもない。

木佐貫さんは「じゃあ詳しいことはメールで」と言ってスマートフォンをかざした。

彼の笑顔を作為的だと断言できれば俺の出方だって変わる。

顔は優男だけど筋肉質でテクニシャンな木佐貫さんが、“その界隈”でモテないとは思えない。俺みたいなのに構ってないで、幸せになれる相手を探した方が絶対に良い。

絶対に。そうに決まってる。

振り向いてもらえないのは辛い。

好きな人の横顔を見るだけで、人は幸せにはなれない。小さな喜びとか、細やかな愉しみとか、人を好きになることの実感は得られても、その先にあるのはきっと孤独な世界だ。

一方通行の世界。

最期に一人になる、その道程。

そんなの不幸だ。

木佐貫さん、だから、俺のことなんか好きになって、貴方は馬鹿だ。

馬鹿だろう?

人間は幸せにならなきゃいけないのに。その為に生きているのに。

誰かと結婚できなくても、子どもがいなくても、打ち込める趣味がなくても、仕事で成功しなくても、贅沢できなくても、兄弟に蔑まれても、それでも幸せだと思えたら生きる意味ができるのに、幸せだとさえ思えたら、それだけで、良いのに。

木佐貫さんなら幸せに成れる。

木佐貫さんなら。

俺は、駄目だ。

だって橋本が居なきゃ幸せを感じられない体質に成っちゃったんだよ。橋本は俺のことを振り返ってもくれないのに、俺は橋本の横顔さえ見られないのに。

幸せに成れない、そういう連鎖に入っちゃったんだ。

そんなの辛いだろ。

そんな、ただ死ぬ為だけの道程を、人生とは呼びたくないだろ。

「すみません、ちょっと便所行ってきます」

木佐貫さんは優しげに微笑んで頷いた。丸で愛しい人を送り出すみたいなその表情を、自分の中にある重苦しい泥を掬うようで、酷く疎ましく思った。
続きを読む

柏木 毅/最悪のカリスマ

※恋愛相談
※年下の上司を崇敬
※ホモセクシャル




世の中に『美人』と呼ばれる人は数居るけれど、その中でなんの掛け値も無しに美人と褒められる人はどれ程だろう。

それはきっと本当の美人。

今月からうちで働いてくれているバイトの榎本さん、彼女がそれだった。

彼女は美しい。生まれながらの美人。着飾らなくても分かる美しさ。見た目だけではなく、容姿から口調、髪型から服装、仕事覚えから飲み会でのリアクション、それら全てが彼女を綺麗に見せる。

社内の人間は彼女に夢中だ。

「なんであの子にしたの?」
「なんですか?」

俺が尋ねると堂島は首を傾げて問い返した。

「バイトの榎本さん」

俺が答えると堂島は「ああ」と言って笑った。それはなんとも言えない魅力的な微笑み方だった。

俺は思い出した。この、堂島は、ずっと一緒に居ると忘れそうになるけれど、俺が人生で一度拝めるかどうかのとんでもない色男だった。榎本さんがちょっと美人だからといって、だからきっと、堂島にとってはなんでもないことだし、何か思うようなこともない。

本当の色男。

本当の本当の色男。

はしゃいだ俺は馬鹿みたいだな。

恥ずかしくなって、俺は堂島から目を逸らした。

「聞いたよ。バイトを募集したら何十人って応募があったんだろ。小林さんが泣いてたよ。その中から彼女が選ばれたのは、何か特別な理由があったの?」
「ありましたよ」
「へえ。何?」
「彼女、大学のミスコンで今年優勝したって言ってたんで。いーじゃないですか、バイトが可愛いっていうのは」

堂島は真顔でそう言った。

果たしてそれは冗談か?

俺には分からない。

「まあ、確かに会社の奴らはみんな喜んでるよ。それに俺は堂島のそういう自由さが好きだね」

歓迎会と称して榎本さんを飲み会に誘っては会費を男どもがもつので、他の女性社員がむくれていることには目を瞑ろう。

社長である堂島が好き勝手にやった方が会社にとってプラスになるんだ。俺だけじゃなく、社員の誰だって、あるいはマスコミの連中だってそれを目にし耳にする聴衆だって、堂島が派手に自由に生き生きと経営することを望んでいる。

羨ましいやつめ。

俺は堂島を心底羨んで、そして敬愛した。

「柏木さんは俺のこと褒め過ぎます」
「そうかな」
「今の給料じゃ割りに合わないでしょ」

堂島は気さくに笑った。

「詰まんない話しですよ。実は元から知り合いなんです。コネですね」
「あ、そうなの」

『元から知り合い』というのは、それはそれでセンセーショナルな話題になりそうだけど。榎本さんは現役の女子大生だし、秀麗な彼らが並んでいるところを想像すると中々に壮観だ。

「柏木さん、彼女のこと好きですね」

堂島はそう言って俺を小突いた。

こういう下らなさというか俗っぽいところは堂島の価値を下げてしまうようで俺は好きではない。堂島には威厳とカリスマと余裕を纏っていて欲しいのだ。

堂島は俺に気を許し過ぎている、と思う。

「好きじゃない」
「え?」
「裏がありそうな女は好きじゃない」

俺がむきになって答えると堂島は真顔で「そうなの?」と首を傾げた。

「じゃあどんなのが好きなんですか?」

堂島は左肘を机に付いて俺を眺めた。観察するような目付きには悪意がないから居心地が悪くなる。

『どんなの』って。

お前の言葉には時々愛がないよ。

「堂島が女なら、惚れてたかな」

からかう積もりでそう答えたら、堂島は少し残念がって「男の俺じゃ惚れてくれないんですか?」と言った。その言葉に愛はなくても狡いくらいの魅力はあった。

俺は何かを理解したような気がした。

仕事のことでは如何なるアドバイスも聞き入れない堂島が俺なんかをよく飲みに誘うその理由は、そして彼の信じ難い『悩みの種』は、もしかして。

俺は堂島をそっと見た。

「柏木さんは、もっと、ずっと、俺に惚れ込んでくれてると思ってたのに」

堂島はそう言って静かに笑った。

お前の、その支配的な態度。人間を見下したような目付き。他者を押し潰す威圧感。弱者を顧みない自分勝手な人性。野性で知性を覆い隠したような言葉遣い。それなのに時々見せる優しい顔。

間違いないよ。

お前は正しい。

いつでも正しい。

確かに俺は今日もお前に惚れ込んでいる。

「そうだった。俺は男のお前でも好きだよ」

三十路を越えた男になんて台詞を言わせるんだ。こんなちっぽけな男の悲しい本音を口に出して言わせるなんて、お前は本当に最悪だ。最悪のカリスマだ。

もう、お前がなんだっていいよ。

その代わり、お前は必ず成功するんだろう?

その御相伴に預からせてくれ。

禍福は背中合わせと言うが、堂島の中では禍福が抱き合って愛でも囁き合っているんじゃないのか。お前と会わなければもっと平凡な幸せを手に入れられたって奴が山程いるよ。

俺とかな。

榎本さんなんか問題じゃないくらい、堂島は優れている。

大学のミスコン優勝者を『いーじゃないですか』で採用してしまえる自由さと、それを実現させてしまえる実効性。そしてそれに反対する人間を笑いながらでも排除できる残忍なエゴイズム。

すごいよ、お前は。

最悪な癖して、すごいよ。ほんと。

そうだな。俺はお前を尊敬しているし、愛してるんだろう。だからきっと例え見返りがなくたって俺はお前を褒める。『褒め過ぎる』くらい褒める。

だから、なんだっていいから。

「お前な、もう片想いなんて辞めたらどうだ」

俺が言うと堂島は驚いた顔をして目を見張った。

「なんで片想いだって思うんですか?」
「違うのか」
「先輩は俺のこと好きですよ」

堂島の言う『先輩』というのは、前々から話しに出てくる高校時代の知り合いのことだ。初めてサシで飲みに誘われた時こそ堂島の会社に誘われた時で、仕事や将来のことも話したが、それ以降こいつはこの『先輩』のことばかり話している。

今日だってそうだ。

俺が切り出した榎本さんの話しがせいぜいで、後はきっと『先輩』の話しばかりする積もりだろう。

話しを聞く限り、片想いだとばかり思っていたが違うらしい。

「ごめん、そうだったの。でもそれが“結婚したい”の好きだとは限らないんじゃない?」

俺の堂島に対する『好き』が、ほとんど羨望でできているのと同じように、『先輩』が堂島をどう好きかなんて分からない。いい年齢の大人が恋心ぐらいで人生を選ぶことはないし、結婚できない女との付き合いは、本人がどう思っていたって周りからすれば遊びでしかないのが現実だ。

堂島はカン、と音を立ててまだウイスキーの入ったグラスで机を叩いた。

「でも、“セックスしたい”の好きでした」

堂島は少し怒ったような声音で言った。

馬鹿。

声が大きい。

目立つ男が大きな声で『セックス』と言うとどうなるか。

バーテンダーが顔色を変えずにチラッと堂島を見たのが分かった。たぶん他にも何人か堂島の言葉に反応した人間がいた。そして俺は情けなくて頭を垂れた。

「子どもじゃ、ないんだから……」

ああ、でも堂島はまだ若いんだった。

よく忘れるけど。

「俺と先輩が一緒にいたのは高校生の時だったし、今は全然連絡取ってませんから。子どもの頃で時間が止まってるんです。俺だってそんなのは本意ではありませんよ。でも仕方ないじゃないですか。好きってだけじゃいけませんか」

堂島は相当怒っている様子だ。声に力が入っている。

先々月、バイトが仕事でミスしたのを黙ったままバックれた時もかなり怒っていると思ったけれど、今の方が断然“キレ”ている。

参ったな。

でも今は、そんなことより。

「待って。連絡取ってないの?」
「はい」

今その目をするのか。

敵意のある目で俺を見るなよ。

おかしいだろ。こんなの、おかしいと思うのが普通だろ。絶世の色男が高校時代の恋愛に未練を残して酒を飲むなんて、そんなの絶対におかしいだろ。向こうは殆んど忘れてるんじゃないのか。

世間はそれを片想いって呼んでるよ。

知らなかったか、お前は。

ああ、でも。

ニュースで堂島を知ったら、また会いたくなっている頃かもしれない。

「興信所で探させたら?」

そんなに好きなら、それぐらいしたっていいんじゃないか。どうせ堂島のすることはなんだって女に咎められることはない。

「女の方から擦り寄って来るよ」

俺が笑ってそう言うと、堂島はなお怒った様子で俺を見た。

「それって褒めてくれてるんですか?」

どうかな。

たぶん、違う。褒めてない。

「ごめん。褒めた訳じゃない」
「俺ってなんで恋愛にこんなに不器用なんでしょうか」

なんでって。俺に聞かれても、ねえ。

「堂島は、たぶんね。好かれる恋に慣れていて、好きになることが下手なんだよ。連絡先を知りたがる女を卒なく追い払えても、連絡先を教えてくれない女を求められない。それでも困らないなら良かったけどね」

適当に答えてやる。

堂島は俺のいい加減な意見を聞いて少し怒りのボルテージを下げてくれたらしい。

よく分からん男だ。

「先輩のことはずっと追い掛けてますよ。だいたい俺は柏木さんが思うようには女に好かれません」
「そうかあ?」
「先輩さえ振り向いてくれたら、俺は……」
「止めろって。堂島はモテるよ、それは俺の思い込みじゃない」
「でも、じゃあ、なんで先輩は俺から逃げたんですかね」

いやいや、待て待て。

「なんだ、堂島、逃げられたのか?」

堂島は少し動揺した様子でウイスキーを一口飲んだ。

「柏木さん。今の忘れてください。俺、酔ってますよね」

そういうことにしても良いけど。

今日の堂島はやけに饒舌で面白い。俺の敬愛する『堂島社長』はここにはいないと思って、もう少しこの状況を楽しんでいたい、と俺は考えた。

なあ、楽しませてくれ。

「お前が『先輩』を可愛い可愛いって言うのには聞き飽きてんだよね。その先輩って名前なんて言うの?」
「教えたくありません」
「大丈夫だよ。その先輩と俺で接点があるとは思えないし」
「そうじゃなくて…」
「じゃなきゃもう堂島の愚痴にも惚気にも付き合ってやんねえ」

堂島の愚痴やら惚気を聞きたがる人間は山程いるだろうから俺のこんな脅しに脅威など無い筈だけれど、酔っ払った堂島はしっかり情け無い声で「柏木さん…」と俺を呼んだ。

そんな切ない声で呼ばれたら、俺の男の部分が反応しそうになる。

反応しないけど。

「言うの嫌なんですよ。だって名前言ったら、みんな俺に諦めろって言うから」

ん?

みんな知ってんの?

「なに、有名な人?」

誰?

誰、誰だ?

「そうじゃなくて」
「うん。誰?」
「男なんですよ、先輩」
「はあ」

今度情け無い声を出したのは俺の方だった。

だいたいな、堂島が男を好きなのは有名じゃないか。俺なんか堂島の男好きをネットで初めて知ったんだぞ。お前が男の秘書を雇いたがるから小林さんが頭を悩ませていることも知っている。

何を、今更。

「俺は自分の性別のせいで恋愛が不利になるとは思えません」

お前はなんなんだよ。

いくらなんでもなあ、お前が絶世の色男でもなあ、性別の垣根はデカイんだぞ。知らなかったか。

なんつって。

「そうか。うん」

俺は取り敢えず曖昧に頷いた。

堂島は性別の壁を超えるか?

答えは、イエス。

俺は、悲しいくらいお前に惚れ込んでいるし、お前を信頼しているし、この自分でも訳が分からないくらいの幻想は、お前が男でも女でもいいって答えるんだよ。そのカリスマで、『先輩』のことを手に入れてしまえるお前だから、俺は好きなんだよ。

諦めろなんて言う奴は誰だ?

「なんで手が届かないんだろう。今ここに、先輩が来てくれたらいいのに」

堂島はそう言って笑った。

なんだそれ。

ズルいよな、お前って。

合理主義で残忍でいつも上辺だけで笑ってるようなお前がそんな風に笑うのを、なんで俺だけが知ってしまったんだ。俺に気を許さないでくれ、頼むから。

言っただろ、惚れてるって。

堂島は性別の壁を超えるか?

答えは、イエス。

「すみません。俺、酔ってますね。ちょっとトイレ行ってきます」
「ああ、気を付けて」

堂島はくすりと笑った。

俺は堂島の背中を目で追った。

『なんで手が届かないんだろう』

俺は堂島のその言葉を自問した。

美谷島 桔平/東京タワー

※バイセクシャル
※恋人未満




橋本は実家が金持ちだという噂だが実際のところはよく知らない。但し歴代の橋本の彼女は上品で金回りのいいお嬢様ばかりであったことは確かだ。

橋本が実は貧乏だったら良い。

橋本が貧乏だったら俺が金を使う楽しさを教えてやる。

でも、実際のところはきっと、橋本なら俺と出会う前に金持ちの女と付き合ったりして、結局は今と変わらない状況になるだろうな。それって今と変わらないよな。

どっちでも良いか。

橋本と遊ぶとなんでか俺は少し多めに金を出してしまうので橋本自身の財力についてはよくわからない。橋本の金銭感覚についても特に変だと思うこともない。俺が高いと言えば橋本は「たしかに」と答え、俺が安いと言えば橋本はやはり「たしかに」と答える。

橋本は金に困っったことがないと思う。だけどだから金持ちだとは思わない。

どっちでも良いんだけど。

だって俺は橋本が好きだ。

俺は橋本をちょっと緩い関係の恋人のように思ったりもしたが橋本の方は俺をそんな風に特別な存在とは感じていない。今のところ橋本の恋愛関係はストレートだ。

振り向かせたい、ってのは男の欲望だよな。

本能が橋本を求める。

うん、仕方ない。

昼休みに一緒に夕飯でもと誘ったらダルそうな声で「いいよ」と言われた。俺はこいつが一度でも俺の提案に「いいね」と言ったのを聞いたことがない。でも、嫌そうな顔で断ることもないから懲りずに俺は橋本を誘う。

橋本はいつも、そう、いつでも、約束の時間に少し遅れて現れる。

今日も漏れなくそのパターンだった。

店に向かう車中でラジオに流れる何年も前の流行歌を気分に任せて橋本が口ずさむ。俺はそれを聞いて橋本がちょっとくらい遅刻しても全然怒る気にならない理由を悟った。

俺は女にするみたいに橋本をエスコートする。

店員も俺達を慎重に扱うからちょっと“その気”になれる。

少しずつ料理を食べながら酒の入った橋本はぼんやり夜景を眺めている時に突然「東京タワーが見たい」と言った。

東京タワー。

赤と白の電波塔。

都内に住んでいてもなんだかんだでビルに遮られて普段よく見えない東京タワーは長く東京に住んでいる橋本にとっても少し特別なものらしい。実家が埼玉の俺にとってはもっと特別だ。

「東京タワーが見たい」
「ああ、いいな。久しぶりに行くか」
「うん」

橋本は嬉しそうに笑った。

夕飯なんてどうでも良くて、メニューを見て橋本が食べたい料理が一品あれば良い方で、むしろ本題から外れたところに現れる橋本の気まぐれな我が儘を実現させられることが俺には嬉しい。

また誘いたくなる。

橋本の笑顔ジャンキーな俺。

お前ってズルいよ。

車で迎えに行くと遅刻がまだましになるというくらいの理由で車を出している俺は、このまま橋本を橋本の行きたい場所へ運んでやれる喜びを改めて実感した。

自由な感じ。

どこか遠くへ行けそうな。

あとは、あれだな。

橋本の鼻唄が可愛いから車を出したくなる。

東京タワーは近かった。時間が遅かったせいか駐車場もガラガラで近くで結婚式でもあったのかドレス姿の人が何人かいたくらいだった。

間近で見ると赤い鉄骨を赤いライトで照らされた東京タワーは神社の鳥居みたいで、東京を悪いものから守ってくれてるような風体だ。神秘的でどこか古めかしい。近代化した東京の象徴でありながら既視感のある温もりや郷愁をくすぐる。

橋本は俺と同じことを考えはしないだろうがどこか遠い目をして助手席から前のめりになって東京タワーをぼうっと見上げていた。

「展望台入る?」
「いらない」
「なんでだよ。そんなじっと眺めてんのに」
「東京を見下ろしたいんじゃねえもん。東京タワーを見たいっつってんじゃん」
「あ、そう」
「車降りねえの?」
「いらない」
「あ、そう。俺はちょっと降りてるね」

橋本を残して車を降りて煙草をふかした。橋本は俺のことなんか全く気に留めずに東京タワーに没頭している。

『東京タワーを見たい』って。

屁理屈だよな。

でも確かに東京タワーを見るには展望台には登らないのが正解なのかもしれない。小学生が喜びそうななぞなぞじゃねえんだから、とは言えない俺はそんな橋本を横目に東京タワーを見上げた。

橋本、喜んでんのか?

俺にはちょっとわからない。

煙草の火を消してぼーっとしてからスマホで写真を撮ってフェイスブックに投稿した。写真に橋本をタグ付けして「橋本と仲良い自慢」をしてみるのが俺の趣味のひとつだけど、プライバシーの設定が厳しいのかなんなのか橋本のタイムラインには表示されないのが残念なところだ。

チラッと橋本を見てみる。

微動だにしない。寝てるかもしれない。しょうもないヤツだ。

俺はちょっと笑ってもう一本煙草に火を点けた。

ああ、旨い。

「橋本?」
「なに」
「寝てるかと思ったわ。なあ、スカイツリー寄らない?」
「え、べつに。いらない」
「なんでだよ。取り敢えずせっかくだから寄るわ」

車に戻ってエンジンをかけても橋本はそこまで嫌がらないから構わずスカイツリーを目的地にナビを設定した。見たかった東京タワーを見られて満足したからではなく抵抗して俺の気持ちを変えてやろうという程の意思がこいつにはないからだろう。

嬉しい楽しいって顔じゃない。

でもめんどくさいって程には嫌がらない。

ナビに頼って走っていると目の前にスカイツリーが現れた。

東京タワーと違って白っぽいスカイツリーはきらきら光って夜をロマンチックに演出している。守ってくれる感じはないけど、都会っぽさはあると思う。

「やば。テンション上がるわ」

赤信号で止まった時に橋本を見てみたら、こいつ、うとうとしてやがる。ああお前ってそういうヤツだよなと思いつつもこの掴みどころの無さも俺を惹きつけてるんだろう。後ろの車にクラクションを鳴らされるまで信号が青に変わったのに気付かなかったくらいだった。

「え、中にも入るの」
「ここだと路駐できねえから。駐車場も空いてっからいいだろ」
「べつにいいけど」
「乗り気じゃねえなあ」

併設された駐車場は空いていた。夜はどんどん深まるけれど外の公園にも中のショップにもそこそこ人が居るので彼らは近所の人なのか或いは電車で来ているらしい。

「どうする?」

エンジンを止めて尋ねると橋本はノロノロとシートベルトを外した。一応、降りてくれるらしい。

俺達は無言でエレベーターに乗ってソラマチに向かった。

「東京タワーが好きなの?」

スカイツリーに来たのは余計だったかなとダルそうな橋本を見て後悔しかけていた俺はそれとなく橋本の機嫌を取ろうと試みた。

……。

シカトされた。

「橋本?」と俺が言い切る直前、エレベーターは目的の階への到着を告げて扉を開いた。エレベーターの扉が開いただけで橋本に拒絶されたと感じる。売り場が白っぽく光って俺達の間にある溝を煌々と照らし出された気がした。

相当重症だ。

しかし俺は橋本の「すげー。きれー」という感嘆で全てを水に流した。

橋本は俺の気も知らないですたすたと歩き出した。

ダルそうでも良い。主体性がなくても良い。機嫌が悪そうでも良い。シカトしても良い。ただ時々笑ってくれたら良い。たまにでも俺のことを好いてるみたいに感じさせてくれたらそれで良い。

相当重症だよな。

「見てこれ」
「あ?」
「東京ばな奈。しかもスカイツリー限定」
「買うの?」
「みーちゃん買ってくれたらそれ食べたい」

はぁ?

「寝言は寝て言え」とは言えない俺は、非常に珍しいことに自分の我が儘を自覚しているらしい橋本が悪戯っぽく目を細めて笑うのを見て、食べ物としては素晴らしいとは思えない模様のあるそれが5個入りのパックをひとつ手に取ったのだった。

橋本とカップルだと思われて嬉しいってのが大体おかしいんだ。

実際に男と付き合ってた時は外では仲良い友達か兄弟だと思われたかった。なんで橋本とはただの友達なのにカップルと思われたいのかさっぱり分からない。

その後ろめたさを金で買っているのかな。

橋本、ごめん。

東京ばな奈買ってやるから許せよ。

「はい。あげる」

橋本は目をきらきら輝かせて豹柄の奇妙なお菓子を受け取って破顔した。

橋本の「悪くない」は紛れもない本音だ。良くもないし悪くもない。欲しくないけど捨てることもない。思い出すことはないけど忘れてはいない。

橋本にとっての「いいね」って瞬間はなんだろう。いつ来るのだろう。

俺はよく考える。

考えるけど、さっぱり分からない。

でもいつでも与えたくなる。

「あした食べるわ。すげー嬉しい。みーちゃん、ありがとう!」

なんつーのかな。

もう良いや。

俺は橋本の東京タワーになりたい。赤くて威厳があって古風で武骨だけど人間味があってずっと見上げていたくなるような灯り。不思議な懐かしさと記憶に残る温かな灯り。

橋本は帰りの車の中でまた鼻唄を歌った。

俺はその時間を好きだと思った。
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2024年05月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アーカイブ