goes-on!

｢神保、体調悪かったら先に帰ってもいいんだよ？｣
｢……｣
｢あと俺らと怜志だけだし｣
｢会長、｣
｢ん？｣
｢彼女できたんですか｣
｢っえ、え!?｣
｢嫌ならけっこうですけど、そういうお話も聞きたいです｣
｢……情報駄々漏れだろうとは思ってたけど、早過ぎだろ……｣
｢……｣
｢うん、恋人ね、できたよ｣
｢おめでとうございます｣
｢ありがとう｣
｢……美人だそうですね｣
｢まあ、やっぱり可愛いよ｣
｢……｣
｢前から掴みどころのない人だったけど、付き合ってみたらもっと分からなくなったのも事実だけどね｣
｢先輩から告白を？｣
｢……｣
｢いえ、すみません。でも忙しくて大変なんじゃないですか？｣
｢うーん、２人きりの時間が取れないのは辛いかな｣
｢……｣
｢……俺、赤くなってる？｣
｢……はい｣
｢神保は好きな子とかいないの？｣
｢いませんねー｣
｢恋人いたことは？｣
｢ありますよ｣
｢……経験豊かな子だった？｣
｢何言い出してるんですか｣
｢恋人が自分より経験あったらどう思う？｣
｢……どうしたんですか｣
｢つまり、そういうことなんだけど｣
｢……はあ。でもこれまでの誰よりも長く付き合えばいいんじゃないですかね｣
｢お前、すごいね｣
｢いいえ｣
｢じゃあさ、向こうから行為を迫られるのを何回か断ってたら、向こうからは何も言わなくなって、逆に手が出せなくなったんだけど、どうしたらいいと思う？｣
｢……っ、年上ですか｣
｢いや、同期｣
｢ならきっと大丈夫ですよ。タイミング見て先輩から誘ってみてください｣
｢……嫌がられたら？｣
｢本気で抵抗してたらもちろんいけませんけど、多少強引なくらいでもいいと思いますよ｣
｢……｣
｢どうして経験豊かって思ったんですか？｣
｢直接言われた｣
｢……、キスはもうされたんですか？｣
｢……いや……｣
｢なら早めにした方がいいと思います｣
｢なぜ？｣
｢先輩以外の人と関係のあった自分を汚れてるとか思っちゃってるかもしれません｣
｢そんなっ｣
｢すみません、でももちろん僕がそう思っているわけではありません｣
｢いや、ごめん。心当たりがあって……｣
｢……｣
｢神保ってすごいな｣
｢いいえ｣

｢生徒会長に彼女ができたってほんと？｣
｢僕はそういうことはあまり……｣
｢ぇえー｣
｢すみません｣
｢てか私、彼女さんといるの目撃しちゃったんだよね｣
｢え？｣
｢超美人だったよ｣
｢……｣
｢ねえ、哲くんから会長に聞いてみてよ｣
｢え、いや、｣
｢聞かれるの待ってたりするもんだよ。あんな美人の彼女できて、自慢しない方が変だもん｣
｢……｣
｢今日も集まるんでしょ？ちょうどいいじゃん｣
｢……いや、｣
｢じゃあよろしく！｣

可愛い子が好き。

女の子は可愛いから好き。

｢おはよう｣
｢……｣
｢あのさ、｣
｢おはよう。なあに？｣
｢っ、……｣
｢……｣
｢……俺、本当に朝来のこと好きみたい｣
｢……｣
｢付き合うなら、だから、一緒にいられるなら嬉しいけど、始めからこういう話するのおかしいかもしれないけど、俺は男だからそういうことも要求するよ｣
｢……｣
｢だから、流れでいいよって言ってくれただけなら、今断っていいよ｣
｢……フラれたいの？｣
｢はは、どうだろう｣
｢女の子と付き合う時、いつもそういうこと言ってきたの？｣
｢いや、さすがに、｣
｢なぜ私には言ったの？｣
｢……そういうこと、したいと思ったからじゃないかな｣
｢ひどい理由ね｣
｢ひどい!?ごめん、俺、｣
｢いいけど。私、今まで両手でも数えきれない人と付き合ってきたんだけど、それ知っても同じこと言う？｣
｢言うよ。好きな人にキスした時に、嫌がられたら傷付くから｣
｢私が誰とでも関係持つような人間だとしても？｣
｢……どうしてそういうこと言うんだ。俺はフラれてるの？｣
｢……｣
｢ごめん。それでも好きだよ｣
｢……｣
｢……嫌なら本当に、今そう言って……？｣
｢じゃあキスしよう？｣
｢え｣
｢初めての時みたいな、初心で気持ちだけの下手くそなキスしよう？｣
｢……｣
｢そうしたら、信じてくれる？｣
｢朝来、ごめん｣
｢……何が？｣
｢ごめん、とにかく、ごめん｣
｢……｣
｢君のことが好きです。付き合ってください｣
｢……ええ｣
｢……｣
｢……学校休んでﾎﾃﾙ行く？｣
｢!?君はっ、どうしてそう、！｣
｢あら、なあに？｣
｢……もう忘れて……｣

良平は可愛くない。

だけど良平は好き。

真剣にカードゲーム

良平｢綜介くん｣
綜介｢……今帰るとこですか？｣
良平｢いや、また生徒会室に戻るよ｣
綜介｢大変ですね｣
良平｢いやあ。綜介は？雑用してく？｣
綜介｢ああ、お手伝いしたいですけど、｣
京平｢りょー！｣
良平｢……｣
京平｢あはははは!!｣
良平｢!?｣
京平｢お前！冴と付き合うんだって!?｣
綜介｢さえ？｣
京平｢笑える！笑えるー！あはははは!!｣
良平｢朝来から聞いたの？｣
京平｢てか迫られたわけ!?断れなくて付き合うわけ!?｣
良平｢……｣
京平｢なあなあ！ﾚｽﾞとﾎﾓのカップルってどんな感じなの!?｣
良平｢……｣
京平｢おもしれー！デートする時たまに俺と入れ代われよ｣
良平｢……京平がけしかけたの？｣
京平｢てかあ、本当に付き合うわけ!?ジョークなら笑えるジョークだけどな！｣
良平｢……｣
京平｢分かったよ、ごめん。朝来から電話きてさあ、別に俺が何か言ったわけじゃねえよ｣
良平｢……｣
京平｢だいたいなあ、冴が人に何か言われてムキになって好きでもない人間に告白できると思う？俺は思わないね｣
良平｢……、朝来って男大丈夫なの？｣
京平｢あー…、帰ったらでいい？｣
良平｢綜悟さん？｣
京平｢おう、３週間振り！｣
綜介｢兄ならまた今度でもいいと思いますけど｣
京平｢俺が嫌なんだよ｣
綜介｢……｣
良平｢俺は明日も会えるし、綜悟さんによろしくって言っておいてよ｣
京平｢ああ。今日はちゃんと帰るから、明日起きたら俺も呼んでよ。一緒に学校行こうぜ｣
良平｢うん｣
綜介｢じゃあ、また。雑用ならいつでもやりますから｣
良平｢ありがとう｣

｢!?｣
｢じっとしてて｣
｢あ、朝来？｣
｢……｣
｢どうしたの？｣
｢……｣
｢……朝来……？｣
｢……｣
｢離れてもらってもいい？｣
｢嫌｣
｢……｣
｢サービスだからいいじゃない｣
｢サ、サービス!?｣
｢……どう？｣
｢どうって、言われても｣
｢良平って彼女いたことあったかしら｣
｢ないよ｣
｢また誰か紹介しようか｣
｢……｣
｢写真も用意するよ？｣
｢……朝来のナンパする子ってみんな可愛いよね｣
｢可愛いから声かけるんだもの｣
｢……そっか｣
｢可愛くない方がいいの？｣
｢容姿は気にしないけど｣
｢……｣
｢……いや、俺だって男だし、可愛い子は好きだよ｣
｢……｣
｢彼女だって欲しいとか思うし｣
｢……｣
｢……ごめん、｣
｢京平くんにそれ言ってあげて｣
｢え？｣
｢あなたを男色じゃないかしらって｣
｢……｣
｢まあ、私は男の子を紹介してもいいんだけど｣
｢やめてよ、｣
｢あら、だったら紹介した女の子を無下にしないでね｣
｢……今までの子だって俺が断ってたわけじゃないよ｣
｢フラれてたの？｣
｢うん｣
｢……それはごめんなさい｣
｢いいよ。ねえ、それより、朝来って京平とも仲いいの？｣
｢……｣
｢いや、いいや。ごめん｣
｢……｣
｢俺ってなんでフラれるんだろう｣
｢冷たいから｣
｢……初めて言われた｣
｢そう？｣
｢冷たい？ほんと？｣
｢ええ｣
｢そうか｣
｢……優し過ぎるのよ。でもそれは相手を迎え入れ過ぎってことでもあるから、不安に思うのも当然でしょう？｣
｢どういうこと？｣
｢何をしても笑って許すような人って、裏があると思わない？｣
｢……なるほど｣
｢あなたはソレね｣
｢……｣
｢しかも不安にさせてるのに気付かないほど許す男は、優しいんじゃなくて冷たいの。相手に不満や要求がないなんて、期待してないって公言してるようなものじゃない｣
｢……そこまで考えてるの？｣
｢女の子は繊細だもの｣
｢……｣
｢まあ、色んな子と遊ぶのも修業になっていいのかもね｣
｢朝来は今恋人いる？｣
｢……｣
｢朝来の彼女だって案外ヤキモキしてるかもね｣
｢……｣
｢経験豊富過ぎて自分の手には負えないって｣
｢私は一途なの｣
｢そう？じゃあたまにナンパ自粛するのって彼女ができたからなんだ｣
｢そもそも私、彼氏も持つんだけど｣
｢そうなの？｣
｢……｣
｢じゃあ俺と付き合ってよ｣
｢いいわよ｣
｢えっ!?｣
｢……｣
｢本気？｣
｢ええ｣
｢あー、じゃあ、よろしく｣
｢よろしく｣
｢……本気？｣
｢さっそく別れたいの？｣
｢いや、そうじゃなくて｣
｢私これから用事あるから、京平くんにも会ったら言っておくから｣
｢……｣
｢じゃあね｣
｢あ、うん。また｣

単純な理由だよ。

指定された品目を家で作ってきたのを持ち寄って部員でちょっとずつ食べて感想言ったり、土曜日はグループになって昼食を作って食事会をしたり、栄養のことや衛生についての勉強もちょこちょこやって、正直なところ、風紀委員の中で私ほど部活動を楽しんでいる人はいないと思う。

｢お菓子かあ。いいよね、それも｣
｢部員の負担が減るのもね｣
｢やっぱ結衣ちゃんも負担大きいって思ってる？｣
｢いいえ。私は料理上手くなりたくて入部したから｣
｢言ってたね、そういえば｣

料理部には毎年春にたくさんの女の子が見学に来る。しかし料理を作ってくるという負担のために、仮入部の時点ですでに僅かな人しか残らない。野心家な部長は少しでも部員を獲得したいらしい。報われないけど。

｢部長頑張ってるの知ってるけど、あんまり人が多いのも大変そう｣
｢うん、難しいよね｣
｢……神保さんって、お母さんみたいって言われません？｣
｢、え？｣
｢たぶん私より母性本能ありますよ｣
｢……ありがとう｣
｢宇津木風紀委員長知ってる？｣
｢うん｣
｢彼もけっこうな母性本能あると思うけど、哲先輩も負けてないと思う｣
｢……ありがとう｣
｢……だから料理上手なのかな……｣
｢違うと思うけど｣

そう言って笑う先輩の表情は苦笑いではなく、すっとするように澄んだ笑みだった。この人に害意や苛立ちなんてないんじゃないかと思わせる。

哲先輩みたいな人なら、私だって邪魔したりしないのに。

｢先輩｣
｢なに？｣
｢私、先輩ならいいよ｣
｢……、｣
｢えへへ｣
｢……｣
｢先輩ならいいなあ｣
｢え、｣
｢返事は？｣
｢……ありがとう｣

怖い怖い怖い怖い。

叩かれるのが怖い。踏みつけられるのが怖い。目が合うのが、触れられるのが、舐められるのが、縛られるのが、詰られるのが、近くに居るのが怖い。僕を嬲る先生の笑顔が怖い。言葉もなく怒る先生が怖い。

楽しんでいるのだ。愉しまれているのだ。

竦む足には力が少しも入らないから自分では逃げることもできない。その替わりに歯だけは強張ってガタガタと打ち鳴らされる。歩けと命令されれば四つん這いで床を進むことしかできず、鈍る思考能力ではまともな返答もできないから自らお仕置きの名目を与えてしまう。

口に詰められた雑巾に吐き気を催していたら、それが癖になって思い出すだけでも嘔吐できるようになった。

先生が怖い。先生とのこと全てが怖い。

なぜ自分だったのだろう。それとも僕以外にも同じことをされている人がいるのだろうか。その人に微塵の仲間意識も感じないけれど。きっとその人は自分の惨めさを痛感させるだけだから。

僕は忘れたい。

早く今が過去へとなるのを待っている。改善など望んでいない。時間が今の関係を終わらせてくれることを知っている。

恐怖が堆積していく。先生はそれを嬉々として眺めている。恐怖を一つ一つ丁寧に積み上げているのは僕自身。

叩かれるのが怖い。踏みつけられるのが怖い。目が合うのが、触れられるのが、舐められるのが、縛られるのが、詰られるのが、近くに居るのが怖い。僕を嬲る先生の笑顔が怖い。言葉もなく怒る先生が怖い。

｢ﾉｲ｣

呼ばれるのが、一番怖い。

少女
趣味は料理
天然

好き嫌いは人それぞれ

金髪
チャラ男
馬鹿

でも愛され体質

かさぎ まさはる

慶明高校２年


｢隠しとくつもりないから今言いますけど、｣
｢ん？｣
｢俺ｹﾞｲなんです｣
｢……え、｣
｢でも先輩とそういうことしたいってわけじゃないですよ｣
｢……｣
｢ほんとに隠したくなかっただけで、仲よくなりたい人には皆に言うようにしてるんです。それで避けられても気にしませんから｣

自分に敬語で話す中学生が、俺よりずっと自身と向き合い、それに見合う苦労をしてきたことを思い知らされて、単純な尊敬や感心よりももっとどす黒い感情を覚えた。

恵まれているからできることもある。

初体験はインターネットで見付けた名前も知らない人だった。でもそれで満足できてしまう自分も自分なんだろう。

｢ねえ、キスしていい？｣
｢……、｣
｢ごめん！今の、忘れて……ごめん｣
｢……｣
｢ごめん……｣
｢あの、｣
｢ほんとっ、……あ、ごめん、えっと、何？｣
｢なんで｣
｢え？｣
｢どうしてそういうこと言うんですか｣
｢……ごめん。ごめん、ほんとにごめん｣
｢いえ、そうじゃなくて｣
｢ごめん｣
｢忘れてって言われても……僕とキスしたいってことですか？｣
｢へ？｣
｢さっきの、僕とキスしたいって意味ですか？｣
｢……｣
｢あんなこと言われて、僕、勘違いしますよ｣

誰だって好きになるだろう。

容姿、聡明さ、その他のもの全てにマルが付く。友人も恋人も選び放題だったはずだ。もし彼が傲慢で自己中心的であっても、人はそれすら魅力に思うかもしれない。

しかし彼はそれを擲って否定されることすら許容して生きている。自分を認めて、それ以上に人を認めて生きている。

完成された美しさがある。

彼は社会的な少数者だからこその辛さや苦しみを知っていて、そのことが俺には嬉しかった。彼が同性愛者であることが彼をより完全にしているのだから。

誰だって好きになるだろう。

商売ってのは、やったもん勝ち。

あとは勢いだよね。

「せーんぱい！」

俺が呼ぶと宇津木先輩は爽やかな営業スマイルで「僕ですか」と返事した。それはこれまでに数多の人間を虜にしてきた、魔法のスマイルだ。

「先輩ってモテそうですよね」
「随分、唐突ですね」

俺の突然の質問に嫌な顔もせずに対応してくれるところは、有名人らしくてなかなかムカつく。

「長身、頭脳明晰、爽やかスマイルのイケメン。俺の知ってる人の中でも先輩ってすごい有名でモテモテっすよ」

俺が宇津木先輩の真横に並んで顔を近付けると、それとなく避けられた。

それでも俺は諦めない。

「男だけの合コンに誘われたら、先輩来てくれますか？」
「はい？」

頭良いみたいだし、遠回りしても無駄かなと思った俺は、単刀直入に尋ねた。宇津木先輩の方は警戒した顔付きをして俺をチラッと見た。

シカトしないところが、優等生だわ。

「俺、商売してるんです。合コンとかヤリ目のパーティーを開くの。それも特殊な趣向で人を集めて、お金もいただいて、ね」

俺がウィンクすると宇津木先輩は頬を引き攣らせた。

「怒らないでください」

俺がなるべく弱い調子でそう言うと、宇津木先輩はすかさず「怒ってないけどね」と答えた。

こっわー。

宇津木先輩は確実に怒っていると思わせる表情で俺を威嚇した。本人はそうと気付いていない可能性はあるけれど、それはそれで恐ろしい話しだ。

美人が怒ると迫力がある。

「合コン、俺が盛り上げますから」

俺はなお食い下がった。

俺がこんなに宇津木先輩を強引に誘うのには理由がある。宇津木先輩は高等部の笠木さんと付き合っていたのだが、どうも別れたらしいという情報が入ったのだ。

宇津木先輩程の有名人を合コンに誘えたら、それだけで商売は成功したようなもんだ。内容はそれなりに楽しく食事して連絡先交換など済ませられれば、俺の役割はおしまい。こんな簡単なことはない。

宇津木先輩は最高級の商品価値がある。

俺は宇津木先輩をじっと見た。

誠実に写るように、大袈裟なくらいがいい。

「じゃあ先輩、逆にいま恋人がいるんですか」
「……」
「わかりました。それは答えなくていいんですけど。俺が口が軽そうに見えて嫌なんですか。俺が信用できない人間だからですか」

俺は捨て犬みたいな顔を作った。

優等生の宇津木先輩には、これが一番効くと思う。可哀想な後輩風だ。

「おれ、仕事では誠実に対応するよう、心掛けてるんすけどね」

ここで、力無く笑って見せる。

勿論演技だ。

宇津木先輩を上目遣いに見た。宇津木先輩は俺を見詰めていたらしいけれど、さっと目を逸らした。

「どうやって、本物かどうか見分けてるんだ」

宇津木先輩は、ゆっくりとそう言った。

俺は自分の勝ちを確信した。宇津木先輩は合コンに来る。間違いない。そして宇津木先輩の名前で高値で他の連中を釣ってやる。

おれは心の中で「まいど」と言ってほくそ笑んだ。

まきた ともや

慶明中学１年
風紀委員会

内通者
悲しみ
ﾋﾟｴﾛ


両親は離婚して父子家庭。母のところには12歳年上の兄がいる。兄弟仲はすごくいい。

女性に恐怖心のようなものを抱いている。

言い寄られて付き合っている人がいる(２人目)。失望して別れるというよりは、智哉が挙動不審だから。

どうして先輩は肝心なところで自分を蔑ろにするのだろう。できるのだろう。

｢恋に落ちちゃったみたいだわ、俺｣
｢僕の知ってる人ですか？｣
｢いやあ、知らないと思うけど。俺も知らなかったし｣
｢ナンパですか？｣
｢相変わらず失礼だなあ、お前は。ナンパはもうこの歳じゃできませんよ｣
｢……そうですか｣
｢でも年齢とか気にしてたら始まんねえよな｣
｢……そうですね｣
｢聞いたことないけどお前って付き合ってる人いるの？｣
｢……はい｣
｢仕事関係？｣
｢……、言えません｣
｢ひでえな。お前のこと人にべらべら話したりしねえのに｣
｢そうじゃなくて、｣
｢いやいいけどね。お前が年上と不倫関係でも興味ねえわ｣
｢……｣
｢でも女子高生は犯罪だよなあ｣
｢……｣
｢……なあ？｣
｢先輩、知ってるんじゃないですか｣
｢は？｣
｢……え｣
｢……綜悟の彼女って女子高生なのか……｣
｢……｣
｢類は友を呼ぶって本当なのか｣
｢……先輩、女子高生好きになったんですか｣
｢気付くの遅いな｣
｢すみません｣
｢いやいいけどね｣
｢この学校の子ですか？｣
｢たぶん｣
｢歯切れ悪いですね｣
｢俺、化粧してたんだよ｣
｢……知ってます｣
｢違くてさ。化粧してる時にその女の子に口説かれたの｣
｢……｣
｢俺のこと美人って言ってたけど、完全に女だと思って口説いてきてるしさあ。明日昼一緒に食べる約束したんだけど化粧して行くべきなのかな、これは｣
｢それは、｣
｢しないけどな｣
｢……そうですか｣
｢名前も知らないし生徒だし未成年だし｣
｢……｣
｢でも手放したくないっつうか。手に入れてもないのにな｣
｢そういうこともありますよ｣
｢でもあれはバイじゃなくてレズだろうなあ｣
｢……｣
｢いやいいけどね。隠しても仕方ないし、一時の気の迷いってことか｣
｢……｣
｢あの子に口説かれたら女の子でもぐら付くんだろうなあ｣
｢……｣
｢で、お前は俺の生徒をたぶらかしてるわけじゃないよな？｣
｢……たぶん｣

どれだけのことを我慢して、どれだけのことを犠牲にして、今の先輩ができ上がったのだろう。積み残しのない、しかし穴だらけのジグソー。

教師という職業は、医師よりずっと尊いものだと思う。先輩がそうだから。

あなたの生徒は汚さない。

差別も偏見も好きじゃないから、そのことが必要以上に自分を拘束していることには気付いていた。受け入れ過ぎて身動きが取れない。

化粧をしてみろと言われて無条件に言うなりになったことを後悔してからは、考えを改めたのだけど。

｢こんにちは｣
｢……こんにちは｣
｢先生、なんでこんなところに座ってるんですか？｣
｢時間が余ってね｣
｢ふうん｣
｢君は？高等部みたいだけど｣
｢時間が余ったんです｣
｢はは、なるほど｣
｢先生、お名前なんて言うんですか｣

そう言ってこの生徒が俺の隣に腰を下ろしてから、漸く違和感を覚えた。俺の女装紛いの化粧を、面白半分に見にくる生徒は多い。しかしこの生徒は違う。俺の名前も知らないなんて。

｢窪町です｣
｢下は？｣
｢信｣
｢あ、私は冴って呼んでください｣
｢あ、ああ、うん｣
｢信先生って美人ですね。失礼ですけど、以前からうちの学校にいらしてました？｣
｢……ああ、うん、まあ｣
｢ふうん。先生みたいな人、目立ちそうなのに｣
｢そう、かな｣
｢信先生、何かの部活の顧問やっていらっしゃるんですか？｣
｢あー、うん。バスケ部｣
｢ふうん、バスケ部なんですか。確かに先生スマートだし、きっと背も高いですよね｣
｢……うん｣
｢……信先生、私、先生のこと口説いてるんですけど｣
｢は!?｣
｢今度お昼一緒にしませんか？もちろん学校でってことで構いませんけど｣
｢……あ、あー｣
｢嫌ですか｣
｢嫌じゃないけどね、｣
｢……｣
｢あの、君って、｣
｢……｣
｢……口説くっていうのは、下心っていうか、そういう、｣
｢……｣
｢女性が、……その、好きだったりするの？｣
｢……｣
｢いや、ごめん。君を拒否するわけでも否定したいわけでもないから、答えたくないなら答えなくていいよ｣
｢……｣
｢ただ、君、冴は、俺のこと知らないだろうと思って｣
｢……｣
｢……それでも一緒にお昼食べる？｣
｢……はい｣
｢……そう｣
｢でもね、先生。嫌だって言われてまで先生と食事するつもりはないんですよ｣
｢……｣
｢私の神経図太くて、そういうことでは傷付かないですから｣

ならば君は何に傷付けられているのかと、喉元まで込み上げた。

俺が彼女に惹かれたのは、その美貌や、あるいは興味本位で俺に話し掛けなかった珍しさからではない。光の届かない深みの中で、藁も人の手をも拒絶する、彼女の気高い意思を垣間見たからだ。

俺が君の踏み台になる。

みなと あかり

慶明中学３年

刻む者
慈しみ
ｶﾊﾞｰ


自分の笑い声が好きじゃない。笑うのを我慢してるうちに感情表現が乏しくなった。でも笑顔はふつうの人より多いくらい。

紘平のクラスメイト。

バドミントン部。

ニコニコしてるから友達は多いけど、常に一緒にいるような人はいない。

あさご ひさえ

慶明高校３年

癒す者
安らぎ
ｳﾞｫｲｽ


京平と同じクラス。

男女関係なく美人や可愛い子が好き。校内の生徒をよく口説いている。しかし化粧をした信を口説こうとしてからは自粛中。

努力家でそれなりに成績がいい。

真顔で冗談を言うので笑ってもらえないし、笑えない冗談もよく言う。でも楽しいことが好き。

おの さおり

慶明高校２年


綜悟の彼女。綜悟が信に呼び出されて学校に来てる時に沙織から声を掛けた。綜悟が副院長だということも医師だということも知らない。

ﾛﾏﾝﾃｨｽﾄでﾘｱﾘｽﾄ。女の子って感じ。

くぼまち しん

地歴科教師
男子バスケ部顧問


始めはジョークで化粧をしただけ。名物になって最低でも週に１度はしなければいけない雰囲気になってしまった。不本意ながら。

美形でもモテるわけでもないけど化粧をすると美人。

綜悟は慶明での後輩。ﾊﾟｼﾘ的に扱っている。同じバスケ部出身だけどどちらもバスケは下手。

差別や偏見を嫌う。

たかし まき

慶明高校１年
風紀委員会副委員長

正義
ﾛｰﾙ


ﾅﾙｼｽﾄでﾏｿﾞﾋｽﾄ。たまにｻﾃﾞｨｽﾄ。男装や男に成り済ましてﾁｬｯﾄをするのが好き。

高校生ってことを承知でバーのバイトに雇ってもらっている。バイトをしていることは親には言っていない。

理性で考えようとする。