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片想い

ただひとつの願い事
勝てない賭けもここまでかな
きっと叶わない変な自信があった

もう自分でも解らない
どうして今でも好きなのかな
きっと変わらない強い想いがあった

こえを聞かせて欲しい
貴方見失わないように

壊れちゃえばいい
ずっと思ってた
重くいやらしい悲しい笑顔
時々は想う
今時こんなに健気な子は居ないよ
馬鹿なアタシ
こぼれたナミダ

心はもう乾いてるのに
流す涙は枯れないんだね
ずっと止まらない
涙流し続けた

手に触れて居たいよ
想いが離れないように

世界が全部消えて無くなればいいと
二人の瞬間本気で思った
息もできないほど綺麗な夕焼け
二人の世界でそう思っていた
そう願っていた

こころがぺちゃんこになっても
あきらめられない
人から見たらみっとも無くても
誰にも動かせないこの気持ち

壊れちゃえばいい
ずっと思ってた
重くいやらしい悲しい笑顔
時々は思う
今時こんなに健気な子は居ないよ
馬鹿なアタシ
こぼれた涙
こぼれた涙

ルノー

91(31)


絶対領域 タブーゲーム Taboogame

基本は聖域と同じで時間を操作する。しかし対象は特定の物でも空間でも能力者が自由に選択できる。周囲の空間ごと『保存』できるので落下しているものを宙に浮かせられる。また絶対領域では対象となった人の意識だけ時間を流すこともできる。

リュウ

三谷は部屋で静かに本を読んでいた。

「ロスに会った?」

俺が尋ねると、三谷は顔を上げて頷いた。

「機嫌よさそうだったよ」

三谷は大袈裟に肩を竦ませた。そして困ったような顔で「子供みたいな人だよね」と続けた。

どうやら俺がロスと会うより前に、三谷はロスと会ったらしい。俺と会った後のロスは酷く不機嫌でイライラしていた。

そんなに嫌な顔をしなくてもいいじゃないか。

ロス

リュウなら恭博さんが契約した相手を知っているのではないか?

「なんですか」
「なんでもないよー」

弟子にそんなこと、聞ける訳がない。

三谷/光の使者

自分の能力がどう利用されるのかなんて想像もできなかった。職務上の能力者になりたいと思った訳ではない。自分にはその能力と可能性があったから、たまたま選んだのだ。

『自分の能力と向き合え』

ロスが言った。

向き合う?

今以上に?

僕にはよく分からない。

「そんな能力、なければ良かったのに」

俺が言うとアヤは首を傾げて「何故?」と尋ねた。

「ごめんね。でも、いつも思ってた。アヤはその能力で、自分を癒してるの? それとも、傷付けてるの? 人の能力のことだし、僕の言うことはおかしいんだろうけど、僕にはアヤのやってることがすごく乱暴に感じるよ。他に方法はないのかって、最近ずっと考えてるけど、思い付かない。僕にもっと力があれば、アヤを、傷付けずに教練できるなら、って、考えるけど、でも駄目なんだ。全然分からない」

泣きたいよ。

それでも、みっともなくても、答えのないことだとしても、僕は諦めたくない。

「心配かけてごめんね。でも嬉しい」

アヤを見ると、柔らかく笑っていた。それはとても神聖なもののように思えた。

能力を持て余しているのは僕だけではないらしい。

どうかアヤが幸せになりますように。

神様、聞こえますか?

アヤの能力が、彼女の人生にとって良いものであって欲しい。この能力で良かったと何度でも繰り返し思わせて欲しい。その能力で、そう思わせて欲しい。

人は能力に選ばれるのだと言う人がいる。

選ばれたのには理由がある。

能力と向き合えば、その理由が必ず理解できるのだと言う。

僕は自分の能力に自信がなかった。火とか水を自由に扱える人達が羨ましかった。僕もそういう能力に選ばれたかった。

全然僕に必要じゃない。

こんな能力、勝手に体に憑いただけ。

でも今は、理由みたいなものが、少しは分かった気がするよ。

僕はいつも光を求めている。光を追って、光を触ろうとしている。だからどんな暗闇にいても、簡単に光をイメージできる。眩しくて確かな光を、ちゃんとこの手で生み出せる。

アヤは僕を見て呟いた。

「三谷くんの能力はいいわね。三谷くんの周りにある光の粒が、どんな場所に居てもキラキラ光って見えるの。とても綺麗で、好きよ」

僕にとっては、そんなの、なんてことないんだ。

だって当たり前じゃないか。

僕にはそれしかできないんだから。

能力はどこまで行っても能力者の為にあるものだと信じたい。適性も精度も高い僕達だから、それは体の一部のように生活に寄り添っているから、もう、彼女に能力が無ければ良かったのにだなんて思いたくない。

「暗くて不安な時は、僕を探してね」

僕が言うと、アヤは笑った。

「光の使者みたい」

僕の光で、彼女の抱える闇まで照らし出したい。

僕の能力には、それだけの意味はあった。

だから今は、性懲りもなく彼女を照らす。




【光の使者】

ロス

あの時に見た、あの所為で、虜になった。

原状回復の能力者は嘗めて自分自身にその能力を発動したことがあるらしい。言われてみればそれはそれだけのことだけれど、ほとんど知識もなくそれを目の当たりにした俺には酷く凄惨で健気にいじらしく思えた。

俺は司書になるつもりだった。

組み換えが発現するとは思いもしなかった俺にとって、人生は平和に健全に終えることが理想だった。自分の能力は確かに平凡だったけれど、司書になれれば平凡の割に高給で安定した職に就けると知っていた。

職務上の能力者になることに拘りがあった訳ではない。

能力のことはほとんど知らないまま入学したけれど、司書になる為に勉強はたくさんした。仲間との友情を育むよりも早く一人で食っていけるように進級を急いだ。

恭博さんはそんな俺の目に映った唯一の人。

国家試験に必要な知識と能力だけを求め、それ以外のことはほとんど知らないで司書を目指した。貪欲よりもっと意地汚い強欲さで勉強し、ある日、突然、あの凄惨な健気さに打ちのめされた。

だからとあれが恭博さんでなくても良かったのかと言われると、そうではない。

学院は下らない所だと幾度も思った。

しかし恭博さんに会えたのだから下らなくもない。

恭博さんだけが拒否する。恭博さんだけが抵抗する。恭博さんの喘ぎだけが聞こえる。恭博さんの手だけが温かい。恭博さんのものだけを嚥下する。

これが恋だと、俺は思うことにした。

能力

通訳 コール Call

後天性能力。基本は記録と同じだが、更に任意に読める心の内容を第三者にも伝えることができる。精度が高いとより精査して不必要な部分を抜いて恣意的な内容に編集できる。考えていないことは伝えられない。


捕縛 フェタ Fetter

半属性能力。絶対領域との組み合わせでしか発現しないが単独でも発現する。
ある特定の物や生物の動きだけを止めることができる。精度や威力が高いと運動だけでなく時間の経過をも操作できる。
本来していなかった動きを与えることはできない。『静止』している物を手で押しても動かすことはできず、発動を止めた時には発動前にしていた動きを引き継ぐ。


引力 グラブリンク Graveling

引力を操る。威力が強い能力者が重力を中心に操る場合を特に重力と呼ぶ。精度が高いと浮遊させたりもできる。
高度な能力なので仕事に利用できるレベルになると多くの能力者は適性が最適に近く精度も高い。


絶対引力 クォーター Quarter

純潔。
基本は引力と同じだが、人間の心理的な重心を動かすこともできる。つまり明確な対象がある時に好き嫌いを操作できる。

アキ/二人の初対面

恭博さんに呼ばれて来てみれば、そこにはにこにこ微笑む見ず知らずの男がいた。俺は、その不気味な組み合わせに尻込みした。

しかも、男に視線を送るとにこりと微笑まれた。

「こいつは、ロス。俺のストーカー」

は?

なんか気になることを言った気がする。

天使か何かのように穏やかに笑い続ける男に、恭博さんは明白に眉を顰めて視線を送った。対照的な二人が視線を合わせると、恭博さんは舌打ちした。

「はじめまして」

男は恭博さんからの殺気を気にも留めずに挨拶した。

恭博さんが嫌いそうなタイプだな、と思った。




【二人の初対面】
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後天性

複数の能力を保有していても能力者自身が気付かないことがある。

感覚性、攻撃性、時間性というのは俗称で、地域や人によってその定義が違う。つまり便宜上使うだけなのでその言葉を使う本人にとっても大した意味はない。


属性能力
特定の能力との組み合わせでしか発現しない能力。組み換え(履歴)、音(風)など。
ちなみに原状回復や捕縛など単独でも発現するので属性ではないが組み合わせが有意に限定的な属性に近い能力もある。

後天性能力
生まれてから後にしか発現しない能力。発現の時期は人によって異なる。後天性とそうでない同系能力が競合した場合には後天性の方が優位になることが多い。組み換え、融点など。
後天性でない能力を後天的に発現する能力者がおり、先天的にしか発現しない能力はないとされている。

純潔
もともと一切能力を持たない人間。
純潔にしか現れない能力があり、後天性の中でも特に稀少。絶対契約、書き換え、絶対領域、摂取など。この能力自体を指して純潔と呼ぶこともある。

恭博/濁った純真

俺は軽率でバカで浅はかだ。だから社会のゴミみたいな連中と人間のクズみたいなことをして生きてきた。それを時には楽しいとさえ思って生きてきた。

だから、俺が悪いんだよな。

「恭博さん。まさかー、喧嘩越しで契約かなんかしたんじゃないですよねー?」

ロスの目の奥がぎらりと光ったように思えて目を反らした。怒られる、と思って。ロスに怒られる、なんておかしな話しだけど。

「あなたは、どうしてそーいう……いえ、すみません。それで、どーするつもりなんですか」

ロスは鋭い目付きを優しくして、尋ねた。

「今日中に、足にキスするだけだし、まあ、これから会って、ヤる積もりだけど」
「恭博さん!!」

ロスが大きな声で怒鳴った。

こんなことは珍しい。それを知らないであろう店内の客でさえ、ざわめきを一瞬にして消してロスを見た。客はみんな面倒事に巻き込まれたくない、という顔をしている。

ロスは周囲からの視線に大袈裟な笑顔と軽い会釈で詫び、小さな溜め息を吐いた。

「騒ぐなよ。つうか、履行しない方がやべぇんだから、俺としてはまあいっかって気にはなってるし」

最初は絶対にあり得ないと思った。

それにロスには言っていないが、キスする時、俺は裸にならなければならない。

でも、それさえ大したことじゃない。

履行しない方が、ずっとヤバい。

以前、契約の能力を甘く見て代償を求められた時は、17年間も監禁されて本当に酷い目に合った。思い出したくはないが、色んなことが体にも脳裏にも焼き付いているし、詰まんない言葉でまとめれば、いい勉強になった。

一時の恥なんか、どうってことねえ。

「恭博さん、あなたの力になりたい」

ロスは意志の強そうな目を真っ直ぐ俺に向けて言った。

こいつが頼りになるように見えるのは、顔がそこそこ男前だからに違いない。中身を知っている俺としては、だから全然頼りにならない顔なんだ。いい加減でちゃらんぽらんな顔だ。

ああ、でも、ちょっとは嬉しい。

「ありがとう」

俺の小さい声で言った言葉がちゃんと届いたらしく、ロスは再び大袈裟に笑った。

「じゃあ思い切って不履行にして、俺はあいつに命令権を与えてみようかな」
「馬鹿言わないでくださいよー」

ロスは爽やかに笑って言った。

けっこうひどい。

ロスが俺に執着していたらしいことは、分かってはいたけど、それがどういう意味なのか理解はしていなかったし聞こうともしなかった。ただストーカーされていただけだ。

ロスが卒業して暫く経てば、俺がロスを思い出すことがあっても、彼が俺を思い出すことはない。

そういう関係だった。

ロスはいつだって作り笑いを浮かべて、上辺だけの睦言を吐き、なんとなく俺をストーカーしていた。そう言えば好きと言われたこともなかった気がする。

あれには好意なんてなかった。

ロスはそういうことがしたかっただけだ。

相手がたまたま俺だっただけ。

「お前もこういう経験あると思ってたけど、ねえんだな」
「ふつー、ないですよー」
「俺はあるよ。これで二回目」
「えー?」

ロスは笑顔のまま首を傾げた。

「まあ、足にキスするくらい、楽しくていいだろ。自分の足を斬り落とせって言われてんじゃねえしな」

俺は声に出して笑った。

頷いて欲しい、と正直思った。

確かにー、って笑ってくれよ。

なあ、ロス。

そうだって言えよ。

こんな屈辱は、本当は、嫌なんだけど、でももし命令されて、もっと下劣な要求をされたら、俺には耐えられないから、だから、こんなことガキの悪ふざけだと思って笑ってやれば、いいんじゃねえのって、そう思うしかねぇだろ。

不安がってた自分がみっともなくて、俺は無理して笑った。

ロスは俺の望みとは裏腹に、その顔に不満を顕わにした。

「恭博さん、結婚しましょーよ」
「しない」
「結婚したら、俺が恭博さんの夫になれば、妻に代わって債務を履行できますよ」

ビックリした。

そういう意味があんのか。

「それに、恭博さんを襲っても強姦にならずに済みますしー。夫婦って響きもいいしー。愛の営み、したいですしー」

実にストーカーらしい理論だ。

「だいたい、もう役所も閉まってるだろ」

契約は今日が履行日だ。

今日じゃなきゃ意味がない。

「じゃあな」

俺はいくらかお金を置いて帰ろうとしたが、筋肉のついたロスの長い腕に阻まれた。それが余りに握力が強くて、俺の右腕は悲鳴を上げた。ロスは笑っている。

痛い痛い、腕が千切れそう。

「俺も行きます」

ロスの声は震えていた。

なんだ、こいつ。

怒ってるのか喜んでんのかわかんねえけど、それを愛しいと思ってしまえば終わりだよな。たぶん戻れなくなる。

「ごちそうさまでした」と言ってロスがお金をテーブルに出して、店を強引に出て行く間、そして今も、俺の腕は掴まれっぱなしだ。歩き難い。

「恭博さん、結婚してたんですよね」

誰に聞いたんだよ。

「ああ」
「いいなー。やっぱり結婚すると早く帰ったりするんですかー? たまには料理を作ったり? 片付けとかはあんまりやらないんでしょうねー」

お前が嬉しそうに話すから、何か答えそうになった。

「恭博さん、足にキスするなら、俺の足にもキスしてください」
「はぁ?」
「それで明日、結婚しましょう」

ロスは満面の笑みで言った。

この笑顔だ。無垢を装って核心を見せない白く濁った純真。俺の嫌いなロスの笑顔。

俺はロスに好かれているかもしれないと思う反面、憎まれているようにも思う。

暴利に舌なめずりするロスは、その本心を包み隠して、俺が絶望するのを綺麗な笑顔で見送る積もりなんじゃないか。俺が下らない契約を結んだのを内心嘲ってるんじゃないか。

俺がお前に頼るのを知っていて、静観してるんじゃないか。

ロスは俺が苦しむ姿を見たいだけ。

だったら真面目に付き合うだけ損だ。

「結婚したら、浮気すんなよ」

俺が言うとロスは「しませんよ」と言った。

嘘つき。お前はきっと浮気するよ、必ず。あの時みたいに。

本当に変わらないんだな。

「さて、その、相手のところに行きますかー」
「ああ。助けてくれて、ありがとう」

本当にロスが俺を助けてくれるなら、どれほど嬉しいか。俺はそんなことを夢見た。




【濁った純真】
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ロス/打ち明け話し

【打ち明け話し】




恭博さんが無言でがつがつ食べるのを横目に収めて、このままでは店に入って30分もしないうちにもう外に出ることになりそうだなと思った。彼は本当に夕食を一緒にとるだけで帰ってしまえる人だから嫌になる。

そういう意味じゃないでしょ。

一緒に食事、の行間には、もっと甘くてもっと熱っぽい意味があるでしょ。

「ひどいなー」

俺の呟きに、恭博さんは「は?」とだけ答えた。

60年振りくらいの再会なのになあ。恭博さんからは感動とか感慨とかいうものが全く感じられません。

俺は悲しいよ。

「やすひろさーん。ちょっと話しましょうよー」

恭博さんは、一層無愛想に俺の手元を一瞥した。

「ああ、いいよ。勝手に話せば?」

なんかなー。

なんかなんかなー。

こちらの感情に気付かれないように俺は顔に笑顔を張り付ける。

俺は自分の能力以上に、自分の交渉力の高さに自負をもっていたのだけれど、自信がどんどん削がれるのが分かる。ザラザラーって落ちていく音が聞こえる。

昔と同じってことなのかな。

攻めても迫っても彼の心には辿り着けない。

「恭博さん。なーんか、余裕ない感じー?」

恭博さんは口にマッシュポテトを含んだまま咳き込んだ。

図星かよ。

「仕事クビになったくらい、なんてことないですよー」
「なってねぇよ!」

恭博さんは全力で否定した。

可愛いひとだ。

「じゃあちゃんと教えてくださいよー。なんか余裕ないし、恭博さんのそういう憂鬱そうな顔見ると、俺、興奮しちゃうし」

恭博さんは俺の目をじっと見た。

なんかこの軽蔑するような目、久しぶりだなあ。

ドキドキするよ。

弱者が縋る目。

弱者が強がる目。

弱者が絶望する目。

「お前、変わってねえな……」

俺を頼って欲しい。縋って泣き付いて請うて喘いで噎いで願って祈って欲しい。恭博さんの悲嘆の時、悦楽の時、飢餓の時、その声と吐息と苦悶の表情を独り占めしたい。

しかし俺はそれを我慢する。

綺麗な顔で大人しく笑う。

「それで、どうしちゃったんですか? 教えてください」

首を傾げて甘く甘く尋ねた。

恭博さんは逡巡してから、「大したことねえんだけど」と断ってから話した。

「男の足にキスするくらい、やっちゃえばなんてことねえよな」

返すべき言葉が分からなかった。
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三谷/パパと息子

扉を開けると、ロスが居た。

「もー、今まで何処にいたのー?」

この間延びした口調に騙されると痛い目に遭う。僕はそのことを知っている。

寮で同室の2人に泣き付かれて、『あの人』が来ていると言うから分かってはいたけど、実際に目前にするとどっと疲れる。

「遅いよー。デートでもしてたのー?」

デートをしていたらなんなのか、それはきっとロスが楽しい、という以外には特別な意味はないだろう。ロスはにこにこ笑っていて本心が掴めないが、重大な本心なんてないに違いない。

「そういうことは、パパにも相談して欲しいなー」

ロスは僕の肩を抱いて微笑んだ。

「それより用事は」

僕が冷たく言うとロスは「せっかち。誰に似たのかしら」と呟いた。

少なくともあんたじゃないよ。

「今日は、ここには寄っただけー」
「誰か探してるの?」
「そーねー」
「適格者が多い、って聞いたけど」
「やっぱり分かるかー。まーね、そのとおり。その辺の調査をしてるのよ」
「ふーん」

ロスはにっこり笑って僕から離れた。

ロスは我が儘で自分本位でへらへら笑っている子供のようだけど、その内面は子供とは真逆の、というより人間とは別次元のもので、こういう演技染みたことで僕たちを惑わしているのだと思う。

「三谷が元気そーで良かったよー。じゃあ、今日は恭博さんと食事だから、またねー」

ロスはひらひら手を振って部屋から出て行った。

本当に自分勝手な人だ。

恭博って誰よ、だとは聞けなかった。




【パパと息子】

三谷/剥き出しの刃

そこにいたのは天使か悪魔か。

僕は彼女に恋をした。




【剥き出しの刃】




アヤは鈍く光るナイフを剥き出しの腕に滑らせ、そして何もなかったかのように自分で治癒した。それを何度も、何度も、何度も繰り返している。

血だけが彼女の腕に残って、白い肌とのコントラストがひどく綺麗だ。

「アヤ。またサボってるの」

アヤは僕を振り返って「いたの」と言った。そして、くすりと笑うと再びナイフを手で遊び始めた。

彼女の能力は、とても危うげだ。同じ能力を持つ他の人も同じなのだろうか。彼女が自分を治癒しているのか傷付けているのか、僕には時々分からなくなる。

「アヤは、違う能力が欲しかったと思ったことある?」

僕が尋ねると、アヤはちょっと考える素振りを見せてから「あるわ」と答えた。

「どんな?」
「まあ、昔はね、色々。組み換えるのって凄くお金がかかるらしいから、残念ね」
「もし、今、できたら?」
「どうかしら。でも自分の身を護れて、それで仕事になれば、今のままでもいいんじゃないかな」

アヤは然ほど感情の篭らない声で囁いた。

『自分の身を護れて?』

アヤは自分の言っていることの矛盾に気付いていないのだろうか。

ちぐはぐで、哀しくなる。

自分を傷付けては治して、それは少しも自分の身すら護れていないのだと当人は気付いていない。治す前に傷付けて、治しては傷付けて。

何処かに必ず彼女の居場所はあるのだと思う。それはここではない何処か。

ここではない。

僕は、彼女の為に光の粒子を呼んで絶やさず、いつだって明るい光の下に居て欲しい、と願う。乱暴で煩雑な世界からアヤを引き摺り下ろしたい。

いつかそして笑って欲しい。

僕の為に笑って欲しい。

恭博/強いられる服従

始めて顔を合わせたリュウは信じられないくらい愛想が悪くて、アキが一体なんで彼に惹かれたのかは丸で理解できなかった。

「はじめまして。教室まで一緒していい?」

リュウは表情をぴくりとも動かさずに俺を無視して歩き始めた。完全なシカトだ。

クソ。

マジで信じらんねえ。

こいつが選りに選って『あの能力』を使えるなんて。世界をどうにでもできる、最悪の『あの能力』を。政府もマフィアも能力マニアのクズ共も、こぞってこのガキを探しているのを、こいつはまだ知らないんだろう。

まあいい。

こいつが能力を発動すればこちらのものだ。それで俺のものになる。世界で一番最初に俺のものにしてやる。

俺はなんとしても、こいつの能力をコピーしてやるんだ。

「なあ、お前の能力、ちょっと見せてよ」

もう一度声を掛けると、リュウは俺を見返した。丸で不審者を見るような目だ。

ムカつく目。

もういいや。

「なあいいだろ。どんな感じで『その能力』使うのか、気になって帰れねえんだよ」

俺がリュウの肩を掴むと、リュウはふっと笑った。

それは、何処かで見たような、笑みだった。

何処だ?

なんだ、この感覚は。

体が縛られたような、何かに強制されるような、言い表せない何かに命令されるような、この感覚は、もしかして。もしかして、この『能力』は。

「良いですよ。契約しましょう」

ヤバい、と思った。

でももう遅い。

「俺の能力を見せましょう。その代わりに貴方は裸になって俺の足にキスしてください」
「は?!」

『裸でキス』?

『足にキス』?

そんなこと、出来るはずない。あり得ない。でも、もし、やらなかったら、どうなる?

契約の絶対性は嫌ってくらい知っている。高額で危険で汚い仕事をする時、必ずそこには契約の能力者がいる。契約が不履行になった時、代償を支払わせる為だ。

契約したら逃げられない。

この契約は当事者間においては宇宙の物理法則よりも確かな絶対性をもって世界を支配するという。リュウが女になれと言えば俺の体は女に造り変えられることさえ可能なのだ。

『裸でキス』?

最悪だ。こいつは自分の能力をちゃんと理解している。しかも何度も能力を使ってきてるに違いない。

やる?

やらない?

クソ、どうすんだ。

なんだ、ガキが相手なら簡単にコピーできると思ったのに。

「今日中にやってくれなければ、不履行とみなして、代償を請求します」

リュウは笑って優雅にお辞儀した。

ほんと、最悪の能力だ。




【強いられる服従】

恭博

「恭博さん?」
「あ?」
「恭博さん!」
「え、ロスじゃん」
「恭博さん生きてたんですか?」
「黙れよ」

ロスは俺の後輩だけれど非常に優秀な人間だった。感覚性の能力者としても異例の2年間で訓練を終え、さっさと外の世界で働き始めた。

「うわー、帰ってきて良かったー。もしかしてまだ訓練生なんですか?」
「何年経ったと思ってんだよ」
「いやでも8回に1回しか合格しなくて試験は2年に1回で良くて13クラスだから、…182年はいられます」
「……」

ロスの場合はジョークと本気が分からない。そういうところまで相変わらずで本当にロスなのだなあと思ってしまう。

見た目は流石に15歳よりもっと老けたけれど、最後に見てから50年近く経ったにしては他の能力者よりずっと若かった。それは能力が衰えていないことを物語るから訓練生時代を思い出す。

「でも恭博さんてなんの仕事してるんですか?」
「……いいだろ。なんでも」
「えー」
「生きてるんだから働き口はあるってことだ」

ロスは不満気に口を尖らす。

「ねえ、結婚しません?」
「……」

ロスの突然の提案は突飛過ぎたので聞かなかったことにした。目を合わせないように止めていた足を再び動かす。

「恭博さん? 聞いてました?」
「悪いが聞こえなかったことにした」

「ちょっとー」と顔だけは人好きのする笑顔を浮かべて俺の隣をぴたりとマークするロスは不気味で笑えなかった。首をやや傾げてこちらを伺っているが敢えて無視を決め込む。

俺は訓練生時代の2年間きっちりとロスにストーカーされていた。

「何があったか知らんが俺は仕事の為に戻って来たんだ。お前だってそうじゃないのか」
「まー、俺のは趣味っていうかー」
「そうか。なら今夜どっか食べに行こう。だから今は放っておいてくれ」
「夜ですか!? 良いんですか!?」
「……」

心底厄介な人間に出くわしたと思った。

ロス

綴られる激情


103(24)(15)
履歴 ビハイスト Behaist


組み換え ライエン Leihen

属性能力で履歴を発動する能力者にしか発現しない。
他者に対して一時的に本来保持していない能力を使えるようにさせられる。精度や威力については組み換え能力者が指定できる。記録された能力の全てが対象。
自分に対しては発動できない。

精度

精度
発動される能力の質。能力者によって程度が違い、訓練によっては誰でも最高級まで高められる。これが限界まで高まると身体の加齢が止まり、ほとんど老けなくなる。
とは言え、もともとのキャパシティや適性によって必要な訓練の量も異なり、最高級に達している能力者は極めて少ない。


適性
保持している能力は大多数が先天的なものであるが、それが能力者自身に合っているとは限らない。
適性の低い能力では訓練による精度や威力の上昇には限りがある。適性が合わない場合に数回しか発動できない能力者もいる。


威力
発動される量。水、金属などは一度に扱える量。原状回復、履歴などは一度に遡れる時間(情報量)。
訓練によって増幅できるが、能力者の持つ適性に左右され易く、精度が最高級になっても威力が低いままの場合もある。能力によっては威力があってなんぼのものも多く、運次第である。
体力とも関係があるらしく、特に攻撃性の強い能力の使い方をする能力者がその威力を上げると外見上変化がなくても筋力が上がることがある。


適格者
適性、威力、精度が全て最高級の能力者。近付くとそのオーラで呼吸困難になるとかならないとかいう噂もあるくらい最強だが、実際は引力の適格者と精度の足りてない絶対引力の能力者が競合すると絶対引力が勝ったりする。


拘束具
身体の動きを制限するのと同時に能力の発動も阻害する。適性が数段落ちるような感覚。基本的には誰かに隷属している人間が強いられて装着する。
着用者でなくても近付くと分かる。若干気分が悪くなったり能力の発動に影響が出たりする。

三谷

みつや
奔放なる粛正者


13
光 ポーター Portar

光の粒子を操作する。三谷は暗闇の中でも光を生み出すことができる。この粒子は静止すると消滅するので、常に明かりのように光らせるのには高い精度が必要。多くの場合液体や固体の中を直進できず、塵が多かったり密度の高い空気も障壁となる。
威力のある能力者が粒子の動きを止めると、太陽が翳ったように一面が暗くなるので
闇 ヴォルケ Wolke
という通称がある。

恭博

やすひろ
永遠の代理人


105(16)
複写 アキソン Axon

他人の能力をコピーする。精度や威力は複写の能力者自身によるが、発動されるのはあくまで複写の能力なので複写の精度が高ければコピーもそれだけ精度の高いものになる。能力は限りはあるが保存できる。相手方を直接見てその能力を理解すれば大抵コピーできる。
複数の能力を相互連環的に同時に発動している能力は、その仕組みを理解していても複写が難しい。

アヤ

無碍の記憶


14
原状回復 ループ Loop


聖域 エチケット Etiquitte

能力者が認識する特定の物に対する時間を制御できる。自由に使い熟す能力者は少ない。特に時間を進めることは困難。また時間を止めてもその運動は止められない。
聖域の適格者が能力を非常に暴力的に悪用したことから絶対領域とともに
致死領域 フェイタルドウズ Fataldose
と呼ばれることがある。

アヤは原状回復と聖域によって回復させた時間分を後に再び経過させることができる。そのまま放っておいても支障はない。
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