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アルドノア・ゼロ

アルドノア・ゼロ楽しいです。


3話から面白いと感じるようになりました。1、2話をまともに見ていなかった。後悔。流し見してたから人名とか歴史の流れがわからない。後悔。

オフィシャルのホームページがスマートフォンからでは見にくく感じるのですが。どうですか?

まあだいたいの流れはわかっているはずだから大丈夫だろうと思いながら、心を躍らせて4話の鑑賞をしました。

スレインがいじめられるのが好きだ。

うーん。背徳的快感。

クルーテオ卿はまだまだスレインをいじめ倒してほしいな。



オリジナル脚本らしくて楽しみ。

オチだけは、ちゃんとあって欲しい。


あとこのアニメは2クールの放送が決まっているらしく、それもまた楽しみです。

20話くらいのアニメ、好き。


ぐだぐだの初期
つまんねーと思いきや、
次第に登場人物や設定に胸が熱くなり
勢いやスピード感があって
音響も大切で

中盤には閑話休題
バケーション風の話しを挟み
主人公とヒロインが近付き

後半に入ると急速にシリアスで
主人公を好きになるストーリーを入れて

いよいよ黒幕がわかった時、
ライバルや敵のサイドを描いてみたり
主人公の出自や罪が明かされたり
主人公は葛藤したり逃亡したりする

ヒロインや友人が頑張る
主人公は心を動かされて復活

そしてクライマックス
過去の伏線を回収し、
嫌いだった人物を好きになったり思わぬ人物が死ぬ

そして大団円。
みたいなね。


アルドノア・ゼロ、どうなるかなー。


2クールと聞いて、

イナホ主人公が前半で、地球側の歴史観を中心に火星軍の侵略を命からがら防ぎ、

スレイン主人公が後半で、火星側の歴史観を中心に地球への復讐劇を広げ、

最後2話くらいで締めだったらいいなあと思った。

まあわかりませんけど。

地球の為に戦う一般人イナホは火星人の子供、火星の為に戦う召使いスレインは地球人、みたいな。

地球も火星も同じ人間の国、というイナホ。

地球は火星に酷いことをした、というスレイン。

みたいなね。みたいな。

まあわかりませんけど。


しかし5話ではもうスレインが出撃するの? 火星の正義が出る幕がないんだよなー。一方的過ぎて今から地球側と火星側の歴史っていうのも唐突過ぎるよな。

ラストはあれか、火星にあったという遺跡の真実が明かされる。それは地球人も実は違う星からの移民が地球を侵略したことから始まったのだった、みたいな。

収束つかねー。


スレインが好きだから主人公級に格上げしたくなるのが原因だわ。どうしても2クール目をスレイン主人公で妄想してしまう。

スレインに頑張って欲しい。

頑張っていじめられて欲しい。


はい、妄想終わります。



あとね、ちょっとずつ敵が強くなる展開大好きです。今期は数話につき1機くらいは相手して欲しい。

遊撃手な主人公も好き。敵を迎撃するのが基本形で、攻撃したり守ったり。そしてジャッキー・チェンみたいにその場にあるものを武器にする。コンテナナイスだった。

当初からハンデを負っているのも好き。一般人を守るとか、移動手段や通信手段に乏しいとか、ロボットの性能が段違いとか、戦力や経験の差、わくわくする。

好物だらけ。


火星の技術を積むと機体がデカくなるのかな。だったら戦闘機は地球と同レベルか。

スレインの戦闘はどんなだろう。

ああ、またスレインのこと考えてる。

スレイン……。



化学とか物理がわからないだけに、ストーリー展開とかその手法に興奮します。楽しみ楽しみ。

15年前に何があったかが鍵なんだろうな。単純なことだと思うけど。

火星人とはなんなのか。スレインと火星人と違いは。イナホの感情が平坦なのも15年前が原因か。


はあ、楽しみ。

中弛みはいいけども、ラストだけはしっかりお願いしたい。

戦闘シーンが素晴らしいの確定してるの嬉しい。



楽しみ楽しみ。

平野 頼仁/獰猛跋扈

※ビビりストレート




普通の男子高校生であれば、隣の席に座るクラスメイトの機嫌が悪くて思わず避けてしまうことがあるのも仕方のないことだろう。

「ジョン、元気?!」
「てめぇ……」

そしてここには、そんなこととは無縁の人間も居た。不機嫌なんて関係ない。吉田は確かに他人の不機嫌を吹き飛ばしてしまえる無神経で底抜けの明るさを持っていた。

だいたいなんで深水が吉田に『ジョン』と呼ばれているのか、俺には想像もできない。きっと吉田の中には俺には知り得ない不可思議な回路があるのだろう。

吉田は深水の机の目の前で嬉しそうに笑った。

「おはよう!!」

深水は眉間に皺を寄せて「ああ」と答えた。

俺にはなんとなく深水の機嫌の悪いのが助長されているようで恐ろしくなる。

すっげー怖い。

吉田はなお嬉しそうに笑った。

「ヒカルと仲良くなった?!」

しかしながらその問いに深水は意外にも「ああ」とぶっきらぼうに答えた。森田を殴ってその場を立ち去っても全く違和感無いような容貌で、彼が少し照れたように微笑んだのが分かった。

俺は初めて深水の顔がまあまあ整っていることを知る。

深水は強面なのによく笑う。

「ヨッシーがさ、ジョンとヒカルは気が合うって言うんだよ。だから俺も絶対そうだって思った!」
「なんだそれ」

深水は訝しげに吉田を見た。

登場人物が多くて俺には話しの流れが分からなくなってきた。それにこのまま聞いているのも盗み聞きするようで深水に対して悪い気がする。

「ヒカルと友達になった?」

吉田がそう尋ねて深水は口ごもった。

これ以上は聞くまい。深水のプライベートに立ち入るのはちょっと後戻りできなくなりそうで怖くもある。後で口止めされにひと気のないトイレなどに呼び出されて自分が無事でいられるとも思えない。何せ深水はド金髪をオールバックにする高校生離れした出で立ちなのだ。

俺は静かに席を立って一度教室を離れることにした。

「ねえ!」

俺にはその声が無知で残酷な子供の悪口のように思われた。それは勿論、吉田が無知な子供だという意味ではない。

俺はなるべくゆっくり振り返った。

呼ばれたのは俺ではない、という細やかな望みを託して。

「名前教えて!」

脈絡がない。俺は何故か自分でもどうしてだか咄嗟に深水を見てしまった。助けを求めたのだ。

しかし当然、深水は俺を助けなかった。

「あ、おれ?」

俺が尋ねると吉田は「あはは、ウケる!」と笑った。侮辱されたのか楽しんでもらえたのか判断がつかなかったので、俺は切実に深水に助けを求めた。理由はないけど少なくとも深水には吉田よりは常識が備わっていると思う。

「朝からひとに絡むなよ」

深水はなんと、俺の味方をしてくれた。

俺は心の中で深水に感謝の舞いを捧げた。祭殿の前で半裸でやるような逞しい感じのやつだ。

「名前教えてって言ったらいけないわけ?」

深水には感謝しているけど、吉田が深水と言い合ううちに俺は逃げることにした。吉田は俺を無理には引き止めなかったし、深水も俺を引き止めなかったのは幸運なことだ。

吉田は深水を怒らせて怖くないのだろうか。

まあ、そうなんだろうな。

俺は吉田とは違う。

人間ってみんな違うもんだしな。

俺は勇気ある撤退をした。

教室を出る時、余所見をしていたせいで人とぶつかってしまった。深水と同じくらいの体格の彼はすごく様になる舌打ちをしてきたので、俺は恐ろしくて足早に立ち去った。

俺には舌打ちだけでも十分怖い。




【獰猛跋扈】




昼休み、俺は10分足らずで弁当を食べ終えて自席でスマホをいじっていた。

「平野」

俺の名前を呼んだのは深水だった。朝から変わらず不機嫌で恐怖心を煽る低い唸り声なのは俺の気のせいではないだろう。

「ん、なに?」

隣の席に座るクラスメイト同士として俺達は毎日当たり障りなく無難にやってきた。

喧嘩?

有り得ない。

連絡先交換?

必要ない。

朝の爽やかな挨拶?

まあ、それくらいのことはあったかもしれない。

俺が「うっす」と言って深水が「おう」と答えるくらいのことならば。

だから俺は今、深水に名前を覚えて貰えていたことに感動さえしていた。俺に無関心なのは特別俺を嫌っているからではないし、俺に笑顔でおはようと言わないのは俺を殺したいからでもない。

俺はちょっと愛想笑いしてみた。

「なに?」

うふふ、名前を覚えてくれていたのね、とは伝わらなかっただろうけれども。

「お前って意外と穏やかだな」

深水は半ば呆れるような声音で言った。

初めての会話らしい会話でそれかよ。

「深水も、思ったより穏やかだよね」

俺はついつい言い返していた。確かにそんなことも思った。吉田をぶん殴るかと思ったら深水は不機嫌そうに詰るだけだったから。でも今の言い方では「てめぇなんか怖くねぇよ、カス!」みたいに捉えられかねない。

緊急事態だ。

「ははは!」

俺はなぜか笑っていた。雰囲気を和やかに保つ為とは言え、これでは自分のことを貶めているだけだ。

依然、緊急事態だ。

「深水はもう飯食った?」

俺は自分の発言を発言履歴の中に埋れさせる作戦を起用して先ほどの自分の言葉が深水の記憶から少しでも早く消えることを願うことにした。

深水は「まだだけど」と答えた。

え?

もう昼休み半分終わってるけど。

「つーか、平野ってバイク好き?」
「バイク?」

高校一年生の男子が昼抜きなのかよ。こえーよ。逆になんかボクシングとか格闘技を本格的にやってるっぽくてこえーよ。とは思いながらも、とても口に出しては言えないので、深水の会話にそれとなく合わせるしかない。

俺はちょっと身を引いて深水の動きを注視することにした。

「これから山岡と乗るんだけど、来る?」

これから?

俺はこれから午後の授業だけどお前は違うんだっけ?

「山岡って誰だよ……」

俺はそれを言うので精一杯だった。もう息切れしている。深水のスピードに完全に付いて行けてない。トラック半周くらいは遅れを取っている。

俺は平静を装って深水をじっと見た。

攻撃されても、致命傷は避けたい。

深水は「知らねえってことねぇだろ」と呟いた。

いや、山岡って誰だよ。

俺は自分の失敗を悟った。深水には常識があるのだから、こんな風に笑って誤魔化して忘れて貰おうとしなくても、はっきり言って理解を得れば良かったのだ。

深水は午後の授業を受ける気がない。

『山岡』も授業を受ける気がない。

昼食はこれから外に出て食べる積もりだ。

そして『バイク』に乗る。

好きか、と聞かれたのだから、違うと答えれば良かった。嫌いではなくてもそれと好きとは全く異なる。ましてや相手は物怖じしないどころか物怖じさせるのが常の深水だ。曖昧に答えるべきではなかった。

「お前は、飯は?」
「俺は大丈夫。もう食った」

俺は深水の誘いを断れない、と覚悟した。

それから深水は山岡に電話して、学校の敷地を出たところで合流することになった。相手も当然午後の授業を受けないらしい。

サボる、ということだ。

「山岡!」

深水の呼ぶところ、山岡は居た。

見たことある。

今朝の、舌打ちの男だった。

俺は恐怖に竦むのがバレないように「はじめまして」と冷静でいる積もりで自己紹介してみた。

「おれ、平野です」
「ナニソレ。気持ちわりーな」

え?

俺は自己紹介して気持ち悪がられるということに慣れていなかった。たぶん俺だけではないと思う。初対面ではなくてもちょっと面識がある程度の人間同士だったらお互いに自己紹介するべきではないのか。

それとも声?

挙動?

俺は余裕を見せる為に笑ってみた。

「ははは、うるせえよ。お前も自分の名前言えよ」

笑う以上のことをしてしまった。

まさかとは思うが、これで山岡が怒って俺を追い払ってくれたらそれはそれで嬉しい。俺を紹介した深水には悪いけど、俺だっていきなり流れで授業をサボることになったんだ。

「ああ、わりー。俺は山岡な」

山岡は素直に自己紹介した。

受け入れられてしまった。

なんてことだ。

「山岡かー。たぶんクラス違うよなー」

俺は現実逃避したくてなんでもないような態度で言葉を返した。言葉に意味なんてない、脊髄反射のオウム返しだ。

深水は整った歯を見せて笑った。

「お前面白いよな」
「はあ?」

駄目だ。上手い返しが思い付かない。

うふふ、どこが?

なんて聞ける訳もない。隣の席の深水に気持ち悪がられたらたぶんもうやっていけない。彼女気取りのブスかよ、ってクラス中で笑われることになったら高校生活では友達が一人も作れなくなる。

内部進学したら大学でも友達ができなかったりして。

さみしい。

俺はあくまで硬派な男の振りで深水を睨んだ。

ごめん、深水。

「取り敢えず行こうぜ。飯は神田さんが奢ってくれるって」
「ラッキー」
「大濠橋で待ち合わせてるからそろそろ、あ、電話きた」

山岡は電話に出ると「いま学校出るところです」と、敬語で話していた。

神田さんとは誰なのか。校外で待ち合わせているところを見ると在校生ではないらしい。そして山岡が敬語を話すような立場の人。食事を奢ってくれるような人。高校生に学校をサボらせてバイクに乗せるような人。

俺は、神田さんが堅気であることを願った。
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ルカ/疑念

「コレで幾らになるの」

俺が尋ねるとルーセンは「60」とだけ答えた。俺をパブロフから連れ出すのに大して怪我も負わなかったこの男にとって、人ひとり殺すくらいなんてことも無いらしい。

捻り潰すって、あのことだよな。

俺はふと思ったことを口にしてみた。

「あんたって、この仕事向いてないよね」

それはふと思ったことであり、いつも思っていることでもあった。ルーセンは首狩りの中では第一級の腕前を持っているけど正義の為でも金の為でもなくただ流されるままに人を殺し続けているだけだ。そんなことが許されて良い筈がない。

生物を捻り潰して美味い飯が食えるなんて。

最低の生き様だ。

首狩りならば、それも第一級の腕前を持つならば、その人にこそ高い倫理観と固い理性を持っていて欲しい。

ルーセンは?

俺が思う理想と全くの逆方向に洋々と行進していやがる。

警察が来るのを待つ間にルーセンは暇を持て余して得体の知れない動物を撫でていた。前は自分以外の生命体には全く興味を示さなかったから会わない間に心境の変化でもあったのか。

でも、動物を撫でて見せたってルーセンが最低なことには変わりない。それが俺に対するアピールになると知ったことは進歩だと認めてもいいけど。

ルーセンは多少ながら、些少ながら、どこか変わったらしい。

人間に近付いたのか?

まー、悪くないか。

ルーセンの手の下で動物がもぞもぞと動いた。

気持ち悪い。

余りに不衛生なので俺はルーセンを遠巻きに見る。

或いは生死問わずの賞金首になっているしょうもない犯罪者にも仲間がいるだろうから、仲間が惨めにあっさり殺された恨みで報復しようとする者がいないか見張っているのかもしれないけれど。それは俺自身にも分からない。

「お前よりは、ましだ」

ルーセンはそう言って俺を見た。その隙に動物はなんとも不気味な動きでさっと走って逃げた。

『お前よりは、ましだ』って?

そーかもね、と素直に思う。

俺にこの仕事は向いていない。ライセンスが下りたのにそれを使う気になれないのは、俺の中に絶対的で決定的な何かがあるからだ。その何かは俺に『人殺しは悪だ』と言う。

ルーセンは違う。

ルーセンは首を狩ることを人殺しだとは思っていない。手配書が出て手元に届くから実行するだけ。それが何かの間違いで、例えば俺が高額手配者になったとしてもルーセンはその意味とか結果のことなんか予期せず、思考せず、嫌悪も驚嘆もせずに実行するだろうと思う。

『偽る』ということを除いてルーセンには意思らしい意思がない。

願望、切望、欲望、羨望、待望、希望、想望、渇望、何もない。

殺すことも殺さないこともルーセンにとっては何でもない。何かある時は『偽る』為のステップだ。

「前の家、すみませんでした」

前に借りていたアパートメント、気に入っていたのにパブロフにバレてもう戻れなくなった。

「尾行されていたのか」とルーセンが尋ねた。仕事をする時と同じで真面目な調子だったので俺も真面目に思い出してみる。

尾行、されていなかったと思う。

「たぶん、違う」と俺は答えた。

「間諜か」

ルーセンはそう言って上着から煙草を出して一本咥えた。煙草を吹かす時も真っ直ぐ立っているので、丸で頭が良い人間みたいに見える。

「そんな、スパイされるほど親しくしてる奴もいねーじゃん」

いつも二人だった。

詰まんなくても飽き飽きしても、俺達は自分以外を信じなかったし自分以外の人間を近付けさせないよう努めていた。それは今も変わらない。

俺にとっては例外のロトがいるけど。

ルーセンには行き付けの店に顔見知りらしいのが居たくらいで、彼らはきっとルーセンの名前さえ知らなかった筈だ。

俺だってルーセンと真面な会話らしい会話をするようになったのは引き取られて随分経ってからだった。それまでは命令されて従う、尋問されて白状する、そんなことでしかコミュニケーションを取っていなかった。

間諜と言っても思い当たらない。

俺が納得せずにしているのを見て、ルーセンは「気付けないからスパイなんだろう」と言った。

そりゃ、そうだけどさ。

「尾行されたか、間諜がいたか、どっちかだ」

ルーセンはゆっくり煙を吐き出した。

「怪しい奴がいんの?」

誰かを連れ込むことはなくても帰って来ないことはよくあった。ルーセンは愛想の悪い悪人顔なのに女に好かれる性質だから帰って来ない日は誰か女のところに転がり込んでいたんだろうけど、まさかその中にスパイがいたのか。

ルーセンは煙草の火を消して、何も答えなかった。

顔を上げると警察がいた。

「通報がありました。資格証を見せてください」

ルーセンは資格証を提示して対象の名前を伝えた。確認書を受け取ったら後は帰るだけだ。

機嫌悪そうな顔だな、と思った。



【疑念】
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アキ/一人遊び

体が痛む。

俺を介抱している人は広場で父と一緒に居た女性だ。きっと父にとって特別な人。

「おはようございます」

俺が言うと女性は驚いたのか体を小さく揺らした。

華奢な人だ。背はそれ程小さくないのに、体が細いからとても華奢に感じる。ユーリとは丸で違う。押したら倒れる、曲げたら折れる、そんな感じ。

「あの、誰か呼んでいただけますか」

俺はその人になるべく優しく頼んだ。

喉がからからに渇いている。

喉を潤したい。

女性は小さく「何か召し上がりますか」と答えた。高くもなく低くもない、柔らかい声。女性らしく穏やかな声。この人は俺の世話をしてくれるらしい。

そして、「どうぞ」と女性が言って差し出したのは、綺麗な細工のあるグラスだった。中には、多分、水が入っている。それは、口から喉まで真っ直ぐ潤した。中身のないグラスにはまた水が注がれる。

喉はひりひり痛んでまだまだ水を求めている。

もう一口飲む。

また渇く。

もう一口飲む。

それでもまだ足りない気がした。

グラスの横にはお菓子の盛り付けられた器が置かれている。ドライフルーツとクラウンハウンドだ。小さい頃好きだった。

ああ、くだらねえ。

つまんねえ。

だって恭博さんが居ないじゃないか。

分かってるよ、そんなこと。

分かっているよ。



【一人遊び】



「申し遅れました。私はシエラと申します。お着替えをお持ちしました」
「ありがとう、シエラ」

シエラは業務的に微笑んだ。父が好きそうな大人しい顔立ちだ。瞳が綺麗で化粧が薄い。目は大きくて目尻が下がり気味、口は小さくて唇は薄い桃色、頬はふっくらしていてそばかすが少しある。そしてちょっと悲しそうな笑い方をする。

姉さんみたい。

父は変わっていない。

俺は変わりたいと願ったけれど、何も変われなかった。昨日分かった。そして父も変わっていないし、この屋敷も変わりない。暗くて重々しくて息が詰まる。

恭博さんが居たら。

恭博さんが「ばーか」って言って笑ってくれたら。

恭博さんがあの牢獄に窓を開けてくれたら。

そうだと思っていた。

そう願っていた。

着替えを持って立ち上がると眩暈がした。ほんの数年前にはこの屋敷しか知らなかったのに、今は屋敷の外ばかり夢見ている。こんな眩暈も、外を知る前は無かったと思う。どれほど血を流しても翌日にはすっかり元気でいられた。

「シエラ、申し訳ないのだけれど、誰か呼んでくれないかな。体を綺麗にしたいんだ」

シエラは「ただ今連れて参ります」と言って静かに部屋を出た。

この部屋、どこだろう。

なぜここに?

体が思うように動かない。

俺は着替えをベッドの上に放り投げてそのまま仰向けで倒れるようにベッドに寝転んだ。体は不快感に強張っているから気分は悪いままだ。

水が足りないのか。

だから頭が痛いのかもしれない。

倦怠感と体の痛みは昨日の行為のせいだし、この眩暈は俺の精神の弱さのせいだ。

『お父様、ぼくを叩いてください』

俺はそんな風に請うた。俺は父に服従すると安心する。虐げられるのは自分が望んでいるからだと思えるから惨めにならずに済む。無抵抗の俺を父は褒めるしどうせ叩かれるなら褒められた方が良い。

シエラは知っている。

ヘイト地方の有力者の一人である父の、残忍な一面を。

父が愛する人にその姿を見せることは滅多にないことだ。姉には決して見せなかったし、俺以外の使用人のほとんどは知らない。

それだけシエラは特別なのだ。

俺は水を一口飲んで再びベッドに寝転んだ。グラスを持ってほんの少し傾けるだけでも骨が軋むような重い気怠さがある。関節はセメントを詰められたように固くて痛い。

昨日の行為の所為だけではないらしい。

毒でも盛られたかな。

それくらい気分が悪かった。

「つらい」

思わず呟いた。それを恭博さんが見てくれていて、「バカ。そんな格好で寝るからだろうが」って言って布団を掛けてくれたような気がした。
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