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美木 綜介/嫉妬する悪魔

階段下に連れ込まれて言われることには。

「お前って良平に似てるよね」
「えー?」

京平さんの表情は嵐の前の様な不気味な静けさを湛えている。良平さんのことになると異常な執着を見せる彼のことだから、深くかかわらない方が良いに決まっている。

「えーと。どの辺りが、ですか」

容姿が瓜二つの双子に似ていると認定されるくらいなら、それはちょっと自慢できるレベルだと思う。俺の色白の肌は、まあ割と似ている気もするけれど。

京平さんは俺のネクタイを強く掴み、引き寄せて、断言した。

「顔」

首が絞まるのも嫌なので自ら歩み出た形ではある。

「かおですか」
「綜悟さんにも似てるけど」
「京平さんの方が似てま、す」

京平さんは俺の言葉を遮るように急に顔を近付けた。距離は凡そ15センチ。京平さんからは微かに良い匂いが漂ったのでちょっと変な気持ちになった。

「俺と良平は似てるんじゃなくて、同じなの」

怖い。こわいこわい。

人を殺す為に生まれてきた凄腕の傭兵だって、京平さん程凶悪ではない。パーフェクトと評される笑顔がその凶悪さを際立たせている。

悪魔って、こうやって人間の世界に潜んでいるのかな。

「あー、たしかに」

俺は無闇に抵抗せずに首肯した。

彼らのうち一人は美木の家に来る。残りの一人はその予備だ。

彼らが『同じ』なら、美木はどちらか一人を選ぶ必要はない。どちらでも『同じ』なのだから、それは彼らが自由に選んでどちらか一人が美木の家に入れば良いのだ。しかし彼らが違ったら、どちらが『優れている』かを判断する必要がある。

京平さんも良平さんもよく似ている。

二人とも同じ様に優れている。

「同じだろ、俺たちは」

京平さんはそう呟いてから視線を逸らして俯いた。それは自分の言葉を自らに言い聞かせるようだった。

彼らの外見はよく似ている。『同じ』と言って良いと思う。しかしその内側はどうだろうか。

同じなら京平さんは喜ぶだろう。

違えば彼らは死んでしまうに違いない。

「そーですね」

京平さんは俺を解放して立ち去った。良平さんより少し遅い足取りだった。


【嫉妬する悪魔】
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