先日、私の元に一通の招待状が届いた。
《雛祭りパーティーを開催します。招待状をお持ちの方は無料です。会場は〇△□▲。パーティー開催時間は午後12〜午後7時》
おかしいな?
私は独身で娘も居ない。雛祭りとは全く縁のない人間なのだが…
いや、もしかしたら、今年から雛祭りは“独身男性の為のイベント”になったのかも知れない。
そんな考えがふと頭を横切ったので、多少訝しく思いながらも、物は試しで行ってみる事にした。
車を走らせる事、約2時間。
指定されたパーティー会場は【火曜サスペンス劇場】のクライマックスシーンのロケ地になりそうな断崖絶壁の上にある荒れた草地であった。
とても【雛祭りパーティー】をやるような場所には見えない。
しかし、其処には既に結構な数の人が集まっていて、道に面した場所には簡易な造りながら【受け付けのテント】のような物もあった。
わざわざ来た以上、此処で引き返すのも何なので、私は【受け付けのテント】に座るオジサンに招待状を出して見せた。
するとオジサンは、長椅子の下から“釣り竿”を一本取り出すと、私に手渡しながら言った。
『楽しんで♪』
私は訳が判らないまま、渡された釣り竿を持って、人が集まっている断崖絶壁の縁に行った。
『釣れますか?』
誰とは無しに声を掛けながら、私も皆に並んで腰を下ろす。
「いやあ…サッパリ釣れないねぇ」
右隣で釣り糸を垂らしているお爺さんが、私に返事を返してきた。
『そうですかぁ…』
私は更に返事をしながら、恐る恐る断崖から海を見下ろす。
なるほど…釣れない訳だ。
断崖があまりにも高過ぎるのか、釣り糸があまりにも短か過ぎるのか…どの釣り針も海に届いていないのだ。
これでは、よほど跳躍力の優れた飛び魚のチャンピオンかスカイフィッシュ以外、釣れる訳がない。
こんな釣りの何処が面白いのだろう?
にも関わらず皆は何故か満足げに釣り竿を振っている。
私は改めて【招待状】を確認してみた。
すると、其処にはこう書かれていたのだった…
ヒマな釣り大会
何という迂闊さ!
私は釣り竿を放り出し、仰向けに草地に身を投げ出した。
仰ぎ見る青空の中、雲が西から東へとゆっくりと流れてゆく。
もはや其処には何のサスペンスも無いのであった…。