どうにもダルさと熱っぽさが抜けないので、仕方なく仕事の合間を縫って、会社の近くにある病院へ行く事にした。
其処は、いわゆる町医者というやつであるが、施設の規模も大きく、また、設備も充実しているという評判であった。
時期が時期だけに、ある程度の混雑は当然予想していたのだが…
ざっと待合室を見渡す限り、診療の順番を待っていると思しき人の姿は余裕で三十を超えているように見えた。
(参ったな…これは、かなり時間が掛かりそうだ)
幸いな事に、今日は危急の要件がある訳では無いので、切羽詰まる程の心境にはならないが、それでも、なるべくなら早めに片付けておきたい仕事も幾つか抱えている。
しかし…効率と云う点で考えると、このまま体調がすぐれぬ状態で仕事をこなすより、ある程度の時間をスポイルしても、此処でちゃんと体調を整えておいた方が良い気もするので、
どれくらい時間が掛かるかは判らなかったけれども、私は診察の順番を待つ事にした。
受け付けから見て、一番後ろのソファーの、これまた一番端っこに“借りてきた猫”のようにちょこんと腰かけながら名前が呼ばれるのを待っていると…
診察室のドアが開き、年の頃は二十七歳と四ヵ月ぐらいの色白の女性看護士が顔を出した。
清少納言に少し似ているその看護士は、手に持ったカルテのような物を見ながら、待合室の人達に向かって言った‥
『鈴木さ―ん、鈴木さんいらっしゃいますか―?』
残念、私ではない。
まあ当たり前だ。一番最後に来た癖に一番最初に名前を呼ばれたのでは、例え診察を受け体調が多少良くなったとしても、生きて此処を出られはしないだろう。
看護士が再び名前を呼ぶ‥
『鈴木さ―ん、いらっしゃいませんか―?』
と、此処で我が目を疑う飛んでもない事が起こったのである‥。