これは何十…いや、何百年前に書かれた物だろうか?
パプスプルク家・秘蔵図書館の奥棚に【年代物の旅行記】を見つけた私は、極めて軽い気持ちでそれを読み始めた。
それは随分と古そうな日誌で、作られた当時は極めて立派な物であったであろう革張りの表紙も、今となっては所々が剥がれ落ちてしまっていて、取扱いには細心の注意が必要なようであった。
乾ききった頁も慎重に捲らなければならない。
貴重な書物を台無しにしないように、私は少なからず緊張しながら、ゆっくりと日誌を読み進めていった。
どうやら作者は冒険家であるらしかったが、末尾の署名の印字はすっかり薄くなっており、まともに読めたのは【フニャ‥】と云う謎の言葉のみであった。
フニャなんとか‥それが作者の名前なのだろうか?
そんな事を思いながら更に先を読む。
本の内容は、実に奇想天外な冒険譚の連続で、私はいつの間にか時間を忘れて読み耽っていたのだが…
その中の一編に【一夜にして滅亡した幻の古代都市】の話があった。
冒険の途中で作者が偶然に立ち寄ったその都市は、気候も温暖で人々もみな陽気な、非常に豊かな都市であったらしい。
ところが、作者が足を踏み入れた翌日、途轍もないカタストロフィが街を襲ったと云うのだ…