(やっとここまで辿り着いたか‥)
深夜2時の埠頭、第35番倉庫の中で、積み荷の一つに寄りかかりながら、ジャッカルと呼ばれる男は、独り心の中で呟いていた‥。
(長くて孤独な捜査も、あと1時間で終わる…)
そう‥
ジャッカルの正体は潜入捜査官なのだ。
彼は《紅ズワイガニ団》と呼ばれる謎の組織を摘発する為、唯一《紅ズワイガニ団》と取引があると噂される別組織《ベビーホタテ団》に正体を隠して潜り込んだのであった。
それが今から3年前‥
以来、彼がこうして《ベビーホタテ団》で取引を仕切るようになる迄には様々な困難があった。
例えば、味噌ラーメンが食べたい時でも、組織の信用を得る為に、泣く泣く自分の気持ちを押し殺して塩バターラーメンを食べたり…
レモンティーが飲みたい日も、ぐっとこらえてミルクティーを注文したり…
それはそれは、想像を絶するような精神的、肉体的な苦難の毎日であった。
その全ては組織の信用を得て、標的である《紅ズワイガニ団》との接触をはかる為。
それでも一度だけ、どうしても自分を譲る事が出来ずに“茶色い靴下”を履いてしまい…危うく正体がバレそうになった苦い思い出がある。
しかし、その最大のピンチ(靴下ピンチ)を切り抜けてからは、トントン拍子に組織の中での地位を上げ、ついに、今夜の《紅ズワイガニ団》との秘密取引に漕ぎ着けたのだった。
それにしても…