バレンタインが近付くと、いつしか街はチョコレートで溢れ返ります。

チョコレート。

甘さと苦さが同居する不思議な食べ物。

最近は【ゴディバ】などの高級チョコレートも一般に出回るようになりましたが、確かに、そういう高級品が持つ豪奢で洗練された雰囲気も、チョコレートが持つ大きな魅力の一つではあろうかと思います。

『ひと口かじれば幸せが広がる』

しかし、その甘く広がる幸せの中には、何処か常に、少しほろ苦い“切なさ”があるように、私には思えて仕方ないのです。

そして、その“切なさ”は、すぐ目の前にではなく、何処かもっと遠い場所にあるものように感じるのです。

例えるならば、夜の港で離れた場所から聴く《船の霞みゆくような汽笛》が持っている、心の中の不思議な遠さです。

チョコをかじると、そんな“切なさ”にアクセス出来る。

それは【チャーリーとチョコレート工場】でジョニー・デップが差し出すウォンカのチョコレートの中にあり、遠足の前の日に友達と選ぶ駄菓子屋のチョコレートの中にあるものです。

もしも、“夢やときめきや温かさ”の裏に必ず“切なさや寂しさ”の存在があると云うのならば、チョコレートの持つ切なさは正しくそれであるように思うのです。
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