話題:突発的文章・物語・詩

そのワインバー《ヴォヤージ・ド・お洒落さん》は、お洒落だが一風変わっているという評判で、かねてより一度行ってみたいとは思っていたが、高級な店やお洒落な店などついぞ入った記憶のない私は、予約が取りずらいというもっぱらの噂も手伝い、今日の今日まで二の足を踏んでいた。

それが先週、洒落者で知られる知人が「予約が取れたので一緒に行かないか?」と誘って来たので、それならば、と同伴を決めたのだった。

その知人は就寝時でさえ一輪の薔薇を口にくわえているような洒落人(シャレード)なので、一緒に行く私も何かそれなりのお洒落なスタイルを考えなければならない。

というような案配で、お洒落な知人の更に上をいくべく、一輪の薔薇を凌駕する“薔薇の花束”を口にくわえて待ち合わせ場所で知人の到着を待ったのだった。ところが、そこへ知人から電話が入り「お洒落なヤボ用が入ったので行かれなくなった。申し訳ないがアローンな感じで宜しく」とまさかのキャンセルを告げてきた。土壇場のキャンセル、俗に言うドタンセルだ。当然の事ながら私は抗議をした。

私「ふぉふぁきゃんかひょー!、ふぉふぇひゃひゃひふぇー!」

知人「え?なに?何て言ってるのか全然判らないんだけど」

私「…すまん、薔薇の花束をくわえながら喋ってた」

知人「薔薇の花束?何で?」

私「お洒落にしようと思って…」

知人「君々、お洒落というのは数量では無いよ」

なるほど。そうなのか。
知人はいつもこんなふうに、人生における大切な事をさりげなく私に教授してくれる。

お洒落メモ(82)【お洒落は数量では無い】。

因みに、お洒落メモ(81)は【腰に手をあてて牛乳を飲む際は、首に手拭いを引っ掛ける事で上半身と下半身それぞれにお洒落ポイントを設置でき、見た目のバランスが格段に向上する】だ。

兎にも角にも、私は一人でお洒落なワインバーに行かざるを得なくなった訳だ。キャンセルするという手もあったが、この機会を逃すともう二度と足を踏み入れるチャンスは無いかも知れない、そう考えると諦めるのは如何にも勿体ないような気がした。

店には知人に電話して貰い、二名の予約を一名に変更。

そして、不要となった薔薇の花束を見ず知らずの通行人(メガネ女子)に「君は薔薇より美しい…By 布施博」と言いながら手渡した後、緊張しながら店のドアを開けたのだった。それが布施博ではなく布施明だという事に気づいたのは、それから十年後の話だが、今はその話はやめておこう。

《続きは追記よりどうぞ♪》


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