話題:詩
【A】誰もいない深夜の桟橋にそっと置かれたカクテルグラスの中に、いとも簡単に囚われてしまったお馬鹿さんな月。
【B】蒼冷めた夜の公園では影だけになった子供たちが音も立てずに遊んでいました。
【C】満月に照らされたビーチでムーンオイルを背中に塗って綺麗に月焼けしたのは色白のカップルです。
【D】深夜を走る貨物列車のコンテナの上に月が腰かけて休んでいるのを見た事がある。
【E】埠頭の4番倉庫には返品された大量の月の複製品(コピー)が眠っているらしい。
【F】月の光が毛細血管の隅々にまで行き渡ってしまうと月光病になる恐れがあります。ヤブ医者が語った唯一の本当の話。
【G】月が裏側を見せようとしないのは、単に散らかっているのを人に見られたくないからです。
【H】先週の土曜日の月には午後11時から11時45分までのアリバイがない。
【I 】手ぶらで改札を抜けようとして自動改札機に挟まれたお月さまが、駆けつけた駅員に両脇を抱えられて駅長室へ連れて行かれました。
【j 】名字が月野というだけで無理やり天文学部に入部させられた友達がいます。
【K】子供の頃になくした理科の教科書が、一昨日、月面のクレーター内で見つかりました。
【L】おっ母つぁん!あれが東京の月だよ!
【M】町の電気屋で豆電球に混じって小さなお月さまが400円で売られていました。
【N】月あかり射し込む夜更けのポストに特殊な切手を貼って手紙を出すと、ごく稀に蒼白い顔をした郵便配達夫が手紙を月まで届けてくれるそうです。
【O】お月さまの野郎、俺に内緒でメールアドレスを変えやがったな。
【P】お月さまは中学校の修学旅行で一度だけ京都を訪れている事を知る人は殆んどいない。
【Q】日本にある全ての月極駐車場のオーナーは、実は夜空に浮かぶあのお月さまで、かなりの収入があるらしい。
【R】月は高倍率の望遠鏡で覗かれるのが一番恥ずかしいのだそうだ。
【S】お月さまのお気に入りの曲はムーンリバーで、時おり口ずさんだりもするが、歌詞が最初の“ムーンリバー♪”しか判らないので残りは鼻唄でごまかしている。
【T】月は昔から西武ライオンズのファンで、デストラーデのサイン入りマスコットバットを持っているが、西武球場がドームになったせいで“空に浮かぶモノ”の特権である試合の無料観戦が出来なくなってしまった。
【U】金曜日の夜、カウンターの片隅で珍しく酔い潰れて眠ってしまったお月さまの目には微かに涙の流れた跡が残っていました。
【V 】いや、でも、しかし、あの夜、確かに月はニヤニヤと笑っていたのです。
【W】検察側は【A】〜【V 】までの22篇の詩を、お月さまがこの事件に関わっている《証拠》として法廷に提出しました。
【X】裁判長の禿げ頭と今夜の月の光は奇遇にも同じルクスで輝いています。
【Y】この裁判の詳細はまるで不明です。
【Z】以上を持ちまして本日は閉廷とします。一同起立。
〜おしまい〜 。