カタカナに弱い富士山太郎くん。


話題:文字や言葉


滝壺小学校6年2組の富士山太郎くんはとても優秀な生徒ですが、名前が和風なせいか、カタカナ言葉に弱いという弱点がありました。先だっての自由作文を読んだ担任の竹之内ヘニング良枝先生はそれが少し気になっていました。


◆良枝先生の感想と添削◆


山太郎くんの自由作文『僕の素敵な家族』を読みました。山太郎くんはバラエティ豊かで優しい家族や親戚の方たちに囲まれていて幸せですね。作文自体も素直な文章と圧倒的なボリュームで、とても良く書けているなあと感心しました。

ただ、一つだけ気になる点があります。それはカタカナ言葉のちょっとした間違いです。山太郎くんは前に「カタカナ言葉をずっと見つめ続けていると文字が勝手にうにょうにょとミミズみたいに動き出す」と言っていたけれど、それが原因なのかな。一箇所二箇所ならともかく、結構な数の間違いがあるので、うっかりミスだとは思うけれども、一応その部分を指摘して訂正したいと思います。

まずは山太郎くんのお父様の話。お父様はこの4月から誰もが名前を知っている某IT企業の宣伝戦略部門の【特別バドワイザー】に就任したと書いてあるけれど、それはバドワイザーではなくて【アドバイザー】だと思います。先生、大和くんのお父様がバドガールの衣装(ぴっちぴちのボディコン)をつけて授業参観に来ている姿を想像してちょっと血の気が引いちゃいました。お父様の名誉の為にも次からは間違えないであげて下さいね。

次は、冬物の服を家族みんなで買いに行った部分。なるべく重ね着をしないよう「保温力の高いビートイットの肌着やTシャツを買った」とあるけれど、それは【ヒートテック】の間違いじゃないかな、って先生思います。ビートイットはマイケルジャクソンの30年以上前の古いヒット曲です。ご両親が聴いていて、それで知っていたのかな。

それから、ファッション業界にいらっしゃる叔母様の紹介で原宿にある芸能人やモデル御用達の美容室に行った時の話。「通常、予約が2年待ちのカラスミ美容師に髪を切って貰った」と書いてあるけれど、言う迄もなくカラスミではなく【カリスマ】美容師が正解でしょう。体から珍味の匂いを発している美容師さん、ちょっと嫌です。それにしても、山太郎くんのスポーツ刈り、前よりちょっとお洒落な感じがしたのはそのせいだったのですね。

それと、もう一つ。そのお洒落な叔母様の服装に関して。山太郎くんは【エレガント】と書いたつもりなのだろうけど、「エレファント」になってしまっています。エレファントは動物の象さんです。でも、もしも「エレファントカシマシっぽい服装」の意味であって間違えた訳ではないのならば先生謝ります。ごめんなさい。

他にもけっこう間違いがありました。

本場イタリア仕込みのピザ屋で食べたのは「ボンジョビの窯焼きピザ」ではなく、恐らく【アンチョビ】のピザでしょう。ボンジョビはアメリカのロックバンドでピザのトッピングには適していません。もし出来たとしてもかなりお金が掛かると思います。

「日曜日、よく晴れていたので家族みんなで家の大掃除をしました。ウーパールーパーが大活躍でした」

はい。活躍したのはウーパールーパーではなく【クイックルワイパー】ですね。普段から先生も使っているのでこれはすぐに判りました。

「商店街の福引きで宿泊券が当たったので家族揃って高級ホテルとして名高いセンチメンタルホテルに泊まりました。物凄く快適でずっとここに住みたいと思いました。チェックメイトする時は少し寂しい気持ちになりました」

思うにセンチメンタルホテルは【コンチネンタル】ホテル、チェックメイトは【チェックアウト】が正しいのでは。センチメンタルホテルでチェックメイト(詰み)、何だか絶望的な恋愛模様を想像して、先生、ちょっと胸が切なくなりました。

「従兄弟の和男さんが空き巣の疑いで警察の事情聴取を受けました。でも、犯行時刻のアリババが証明されたらしく直ぐに解放されました。冤罪事件にならなくて良かったです」

それは災難でしたね。さぞや皆さん心配された事でしょう。無実が証明されて本当に良かったです。でも、アリババは【アリバイ】の間違いなので、今度誰かが事情聴取された時には間違えないよう気を付けて下さいね。

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが東南アジア旅行から帰って来ました。タイのお土産のカレー(レトルト)を晩御飯に皆で食べました。いつも家で食べているお母さんのカレーとは少し違うエースコックな感じで美味しかった。マッチョマンカレーというらしいです」

なるほど。【エスニック】な【マッサマンカレー】、美味しくて良かったですね。

「たまたま聴いたFMのお洒落な洋楽特集で、番組のアリゲーターを努めていたお姉さんが英語ペラペラでとても格好良く、ちょっと憧れました」

それは間違いなくアリゲーターではなくて【ナビゲーター】でしょう。アリゲーターは鰐(わに)です。ちなみに、アリゲーターとクロコダイルの違いは……長くなりそうなので止めておきます。

「土曜日のお昼にパスタ料理を作りました。スパゲティは耳たぶの固さに茹でるのが良いと教わりました。耳たぶの固さ、専門用語でデルモンテというらしいです」

デルモンテではなく【アルデンテ】ですね。スパゲティ、美味しいですよね。先生もパスタ料理は大好きで自分でもたまに作ります。

「パスタ料理のソースにはアルモンテのケチャップを使いました」

そっちが【デルモンテ】です。アルモンテは中日ドラゴンズの髭もじゃ外国人選手です。

「家族でカラオケに行きました。お母さんが唄うのを初めて聴いたけれど、上手くて驚きました。曲もサブちゃんからジャパネット・ジャクソンまでとレトリバーの広さにもビックリした一日でした」

まあ、山太郎くんのお母さま、昔、歌手を目指していたのでしょうか。先生もお母さまの歌を聴いてみたくなりましたが、ジャパネットは通販なので正しくは【ジャネット・ジャクソン】。レトリバーも【レパートリー】の間違いです。

「妹の和美のピアノの発表会に行きました。ちゃんと弾けるか心配だったけれど、和美は本番に強いみたいで練習よりも上手にシートベルトの曲を弾き、会場から大きな拍手を貰いました」

妹さんのプレッシャーに対する強さ、先生ちょっと羨ましいです。シートベルトは【シューベルト】だと思うけれども、違っていたら後でこっそり教えて下さいね。

「車好きの叔父さんが真っ赤なオープンカーに乗って遊びに来ました。古いイタリアの車でアロンアルファのスナイパーというらしいです。夏の海岸通りに似合いそう」

先生、車にはあまり詳しくないけれど、アロンアルファが瞬間接着材だという事は知っています。そこで少し調べました。叔父様の車は多分、【アルファロメオ】の【スパイダー】だと思います。

「お父さんが〈政官民・大癒着ゴルフコンペ〉で優勝。大きなアルフィーを持って帰って来ました。お父さんはゴルフがとても上手で部屋には記念アルフィーがたくさん並んでいます」

アルフィーではなく【トロフィー】ですね。アルフィーはメリージェーンなどの曲で有名な三人組のバンドです。癒着云々は…家庭訪問の時にちょっと気まずくなりそうなので、見なかった事にしておきますね。

…あ、ごめんなさい。メリージェーンではなくて【メリーアン】でした。メリージェーンはつのだじろうさんです。

…あ、あ、ごめんなさい。つのだじろうさんは漫画家のお兄さんの方でした。正しくはつのだ☆ひろさんでした。何だか先生ちょっと混乱して来ました。

「両親が、中学生になったらスマホを持って良いと言ってくれました。将来はチューバッカになりたいので、スマホを買ったらたくさん動画を撮って練習したいと思います」

それは良かったですね。先生も山太郎くんの撮った動画を観てみたいな。【ユーチューバー】デビューも楽しみです。たくさん練習すると良いと思います。それと一緒にカタカナ言葉の書き取りも練習してくれるともっと嬉しいです。チューバッカはスターウォーズに登場する毛むくじゃらの人でハン・ソロ船長の相棒です。

最後に、これは厳密に言えばカタカナ言葉の間違いではないのだけど、気になる箇所があるので指摘しておきます。

「南米のペルーを旅行中のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんから絵葉書が届きました。絵葉書の写真は有名な父母湖で、とっても綺麗な湖だなあと思いました」

ついこの間タイから帰って来たと思ったらすぐさまペルーですか。山太郎くんのお祖父さまとお祖母さま、活動的で羨ましいです。ただ、【チチカカ湖】を父母湖と書く、そういう表記方法は何処にも存在しないので次からは気を付けましょうね。


さて、色々と間違いを指摘して来ましたが全体的には良く書けていたと思います。何よりも家族への愛情がしっかり伝わって来て、先生、それが嬉しかったです。いかに正確で技巧に優れていても心が伴っていなければ、「仏作って魂入れず」で意味がありませんものね。正すべき所は正し、伸ばすべき所は伸ばす。弱点があるという事は逆に伸びしろがあるという事でもあります。次の作文も楽しみにしています。


〜おしまひ〜。

誰も知らないプチ都市伝説(投稿お国自慢編)


話題:都市伝説


小腹が空いた時に軽くつまみたい、そんな小さな都市伝説があります。都市伝説と言うには物足りない“妙な噂”程度のお話。そのようなものが読者投稿で届いておりますので、それを都道府県の地域別に分け、その中の一つを、今回、お国自慢編として紹介する事に致します。なお、都市伝説研究家として有名だという噂もある「又聞きのトシちゃん」さんの一言論評付きとなっております。



【茨城】

ニセ黄門さま登場の回(ファッション印籠訪問販売業)さんからの投稿。

――友達の友達が友達の友達の友達から聞いた話なんですけど、茨城県の或る隠れ里で行われている秘祭では、何と神事としてバンジージャンプが行われているんだそうです。しかも、ただのバンジージャンプではなく、とても普通では考えられないような物を紐――いや、紐代わりですかね――として使うらしい。

それは何か?何を使うのか?。

正解は、まさかの納豆!納豆の糸引き、あるじゃないですか?あの、納豆を箸で持ち上げる時にネバ〜ッと伸びる白い糸状のもの。そのネバ〜ッを紐代わりにして崖や吊り橋の上から跳ぶんだそうです。

もちろん、使用する納豆は特殊な製法で作られた、茨城県のごく一部以外、世間一般には知られていない特別な納豆で、それは江戸時代に水戸黄門の名で知られる徳川の水戸光國公が「もしも将来、幕府が亡び、江戸時代が終わるような事になったら、この納豆を使って徳川幕府を再興して欲しい」との言葉と共に製法を残したと伝えられているそうです。その際、「徳川御三家秘伝の納豆の凄さをよく“見とけ”!……“水戸家”だけに」と、言ったとか言わなかったとか。

秘祭では、特殊な製法で作られた納豆を里の人々が代わる代わる、何と、江戸時代中期から約300年間、1日も休まず不眠不休でかき混ぜ続けており、その糸はスパイダーマンもびっくりの強烈な粘り気を持つと言われているそうです。

なお、この隠れ里の存在場所は不明で、行政に問い合わせても「担当の者がおりませんので……」との常套文句で、はぐらかされてしまうらしい。


◆又聞きトシちゃんの一言論評◆

さすがは納豆の本場、茨城県。ものが違うと感心しました。茨城県は、皆さん御存知のように未だプテランドンが普通に空を飛んでいるような土地柄ですから、今回の話にもかなりのリアリティを感じます。と同時に、納豆の糸に身を任せられるなんて、よほど強くて深い信頼を納豆に対して持っているのだなあ、と胸が熱くなりました。もし太宰治がこの話を知っていたら「走れメロス」の続編として「跳べナットウキナーゼ」を執筆した事でしょう。

水戸と言えば、尾張、紀伊と並ぶ天下の徳川御三家の一つ。このような秘伝の納豆を隠し持っていたとしても不思議ではありません。徳川幕府の再興を目論む水戸家の流れを汲む人々が存在するのでしょうね。もしかしたら行政、官権の一部にも紛れ込んでいて、情報を隠蔽しているのかも知れません。もっとも、どうやったら納豆で幕府を再興出来るのかは皆目見当がつきませんが。

ともあれ、貴重な情報を有り難うございました。ニセ黄門さま登場の回さんのよく判らない交遊関係も素敵です。あと、ファッション印籠の訪問販売という良い意味での胡散臭さにも惹かれました。


〜おしまひ〜。

【次回】(予定)…北海道?、静岡?その他?(←宛にならない)。

不自然なところを直しなさい。


話題:大丈夫



ら抜き言葉、語尾上げ発音、「全然――ある」など、かねてより近年における日本語の乱れを憂いていた[聖ジャポニカ学園中等部国語教師]龍川芥之助(たつたがわあくたのすけ)は、3年β組現代文の授業中、やおら白墨を掴むと黒板に次のような一文を力強く書き込みました。

『――逃げた逃亡犯を追いかけていた青木刑事であったが、逮捕寸前、突然お腹が急な腹痛に襲われたせいで犯人を取り逃がしてしまったのだった――』

そして、ギロリと生徒たちに一瞥をくれた後、厳(おごそか)かに言いました。

「不自然なところを直しなさい」

「ハイッ!」。それにいち早く反応したのは学園のオピニオンリーダーであり生徒会長でもある等々力賢太郎くんでした。等々力くんはツカツカと黒板まで歩くと白墨を掴み、『逃げた逃亡犯』という箇所にアンダーラインを引きました。そして、「逃亡犯というのは既に逃げている訳ですから、その前の“逃げた”という言葉は必要なく、そこが不自然だと思います」

芥之助先生が「ウン」と軽く頷くと、周囲から小さな拍手が上がりました。ところがそこに、「ハイッ」、もう一人、手を挙げる者が現れたのです。学園きっての秀才である綾瀬川秀文くんでした。綾瀬川くんは等々力くん同様、黒板まで行くと、「等々力くんの解答は正しいと思います。しかし、敢えて言わせて貰うなら、逃亡犯は確かに既に逃げてはいるけれども、その“逃亡”は犯行現場とか警察署、拘置署など特定の場所や施設からの逃亡――仮に第一次逃亡とします――を指しており、その前の“逃げた”は、その後、追いかけてきた刑事から逃げた事――つまり第二次逃亡――を表している可能性がほんの若干ではありますが有ると思います。そうなると厳密には間違いとは言えず、それよりも、その後に続く、“腹が腹痛に襲われた”という部分と“突然お腹が急な”の二箇所の方が明らかに意味が重複しており不自然だと思われます」と、敢えて現在修得中であるブルックリン訛りの英語で言いました。

綾瀬川くんの発言に投げやりな拍手が起こります。英語なので意味はさっぱり解らないけれども、あの綾瀬川が言うのだからどうせ当たっているのだろう、というある種の諦感がこもった拍手でした。

何はともあれ、これにて問題は解決、誰もがそう思いました。それは芥之助先生も同様でした。ところが、そこに、「は〜〜い」やや間延びした声が響いたのです。

声の主は学園きってのモテ男、ニヒルで風来坊の九条隼汰くんでした。九条くんは額にハラリとかかる前髪を軽くかき上げながら「むしろ……」と椅子に座ったままハンサムな声で言いました。

「むしろ、僕が気になったのはその時の状況なのさ。普通、刑事というのは最低でも二人一組で動くものでしょ?だから、青木刑事が腹痛で離脱したとしても相棒の刑事が犯人を追いかけるはず。ところが、それには全く触れていない。不自然と言えばそれが最も不自然に僕には思えたんだけど、どうですかね?」

言葉ではなく状況の問題。これは盲点です。さすが九条くん。感心したような拍手が上がります。が、当の九条くんは何事もなかったかのように、指の上で器用にペンを回しながら、何事もなかったかのように、窓ガラス越しに流れる雲を見つめています。その端正な横顔にクラス全員の胸が男女問わずキュンとなりました。それは芥之助先生も同様でした。

さすがにこれ以上の答えはないだろう。う思われた時、「ハイ♪」よく澄んだ美しい女性の声が上がりました。

そのオペラの歌姫のような美声の持ち主は、学園のマドンナであり日本を代表する財閥のお嬢様でもある西園寺百合絵さんでした。

クラス全員の視線が集まる中、マドモアゼル百合絵は傍らの学友たちにいちいち「ご機嫌よう」といちいち声を掛けながらゆっくりと黒板まで歩を進めます。なんとも優雅な光景です。それにしても、百合絵お嬢様はいったい何を語るつもりなのでしょう。先の三人により答えは出尽くしたように思えます。クラス全員が固唾を飲んで見守る中、百合絵お嬢様は黒板の前に立つと、突然くるりと振り向き、芥之助先生の頭に手を伸ばしました。

むんず。

そして、その頭髪をむんずと掴み上げると、水平方向で左に約15°ほど回転させたのち、再び頭髪を頭皮に着地させました。それを上から押さえつけるようにポンポンと軽く叩くと、涼しげな眼差しを湛えて言いました。

「この方が自然に見えますわ」

これは盲点中の盲点でした。なんと、事件は会議室(黒板の上)で起こっていたのではなく、現場(頭皮の上)で起こっていたのです。

確かに、教室にある中で“不自然なもの”と言えば、芥之助先生の髪の毛の生え際の浮き上がり方や色つや形が最も“不自然なもの”です。「フッ、こいつは一本取られましたね先生」九条くんが声を掛けると、石像のように固まっていた龍川芥之助先生の頬に赤みが差して来ました。そして、

「四人とも正解です」

その瞬間、嵐のような拍手喝采が教室内に巻き起こりました。しかし、それが誰に対する何の拍手なのかは拍手している本人たちにも判らないのでした。


〜おしまひ〜。

潜入捜査の心強い見方。


話題:SS



俺は潜入捜査官。コードネームは[コハダ]。日々危険と隣り合わせに生きている。この道十年のベテランだが、神経を磨り減らすような毎日に“慣れ”の文字はない。常に崖に張られた一本のロープの上を歩いているようなもの。ちょっとした風でバランスを崩せば一巻の終わりとなる。

俺の所属する潜入捜査班は警視庁、警察庁、法務省、厚労省、そして餃〇の〇将、ジャ〇ネットた〇たという省庁や民間企業、いわゆる官民の垣根を越えた越境タッグとなっている。……と言えば聞こえは良いが、潜入捜査が禁じられている今日(こんにち。これを“きょう”と読むようでは潜入捜査官は務まらないぜ)、あくまでも非合法の部署であり、表向きは存在しない事になっている。

よって、もし俺たちに何かあったとしても国家は一切関知しない取り決めになっている。つい先立ても潜入中の仲間の一人[コードネーム:ユビキタイ(湯引き鯛)]が対立する組織の子猿たちにカメリア―つまり―椿のあの堅〜い実を7、8個もぶつけられるという恐ろしい事態が起こったのだが、その際も上は救いの手を差し伸べようとはしなかった。否、餃〇の〇将は[餃子〇皿無料券]を進呈したらしいが、その辺りの詳細は不明である。

非情だ。割りが合わない。とてもではないが好き好んでやる仕事ではないだろう。が、それでも俺がこの仕事を続けているのはひとえに使命感と正義感――ではなく、潜入捜査官という言葉の響きがカッコいいからだ。更に、俺たち潜入捜査官はそれぞれコードネームを持つが、それらは何れもお寿司のネタとなっている。それも粋で鯔背(いなせ)でカッコいい。その二つが全てだ。他に理由などない。いや、要らない。名前の響きがカッコいい。それで十分だ。

とは言え、伊達や酔狂のみでこなせる仕事ではない。この危険な任務を続けて行けるのは、頼りになるバックアップチームの存在があるからだ。彼らは常に俺たちをフォローし(勿論ツイッターもフォローしてくれている)、後方から支援してくれている。

バックアップチームは複数ありそれぞれに別個の役割が与えられている。例えば、【チーム・お百度参り】。これは俺たち潜入捜査官の安全祈願の為に神社でお百度参りをしてくれる有り難いバックアップチームだ。彼らとの面識は全くないが、誰かが自分の為にお参りをしてくれていると思うと途端に勇気が湧いてくる。

そんな数ある後方支援チームの中で最も頼りになるのが、今、俺の目の前にいる男――[コードネーム:ポンセ]――が所属する【チーム・小道具さん】だ。変装用のつけ髭やカツラ、超小型のスパイカメラなど潜入捜査に役立つ様々な特殊アイテムを提供してくれるバックアップチームだ。007で言うところのQ、名探偵コナンでの阿笠博士を想像してくれればイメージは掴めると思う。因みに彼らのコードネームは伝統的にプロ野球の歴代助っ人外国人の名前がつけられている。

ポンセ「さて、コハダ、説明は済んだかい?」

俺「いや、あと一つ残ってる」

明日は俺に取って非常に重要な一日となる。俺の潜入している組織を始め、16もの秘密結社が十年ぶりに一同に会するのだ。《秘密結社対抗大運動会》。世紀の大イベントだ。そして、その現場に警視庁、警察庁、厚労省、法務省、そして餃〇の〇将、ジャパ〇ットた〇たの選抜チームが雪崩れ込み、全ての組織を一網打尽にする。間違いなく日本の裏面史に刻み込まれるであろう作戦の決行日、それが明日なのだ。

場数を踏んでいる俺でも経験した事のないような大作戦だ。恐らくは銃弾の雨嵐が降る事になるだろう。流石に身震いがする。こういう時、最も頼りになるのが【チーム・小道具さん】だ。明日の作戦に必要な便利グッズを用意してくれている筈だ。

俺「待たせて悪かった。一応説明は終わった」

ポンセ「話が長いのはハードボイルドには似合わないぜ」

俺「ソーリー。だが、俺には読者に対して説明する義務がある。どうか解って欲しい」

ポンセ「主役はつらいな。フン、まあいいさ。では本題に入ろう。お前さんの所望は、確か、防弾チョッキだったな」

俺「ああ。近頃の若い奴は防弾ベストなんて言ったりするらしいが、その呼び名は俺にはお洒落過ぎて似合わない。俺にとってベストってのは……」

ポンセ「洒落たBARのバーテンダーが着るもの……そう言いたいんだろう?」

俺「その通り。お洒落な呼び名は俺たちには似合わない」

ポンセ「ああ。タートルネックのスウェーターやハンガーでは胃の腑が落ち着かない。とっくりのセーターと衣紋掛けだ」

俺「フッ、また随分と可愛いネタから入ったもんだな。初歩中の初歩じゃないか」

ポンセ「少し物足りなかったか?」

俺「“水着”は?」

ポンセ「海水パンツ」

俺「長方形(ちょつほうけい)は?」

ポンセ「長四角(ながしかく)」

俺「うむ、それでこそポンセだ。俺たちみたいな古い男には古い呼び名がよく似合う。だから、防弾チョッキでいい。仕事が終わったあと“直帰”出来そうな雰囲気もあるしな。まあ、ベストも“ベストを尽くせそう”で惹かれるが。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。と言ったところで、いい防弾チョッキは用意出来たかい?」

ポンセが顔を少し曇らせる。

ポンセ「いや、それなんだがな……申し訳ないが防弾チョッキの提供は上に止められてしまった」

俺「……何故?」

先刻も言ったと思うが、明日は恐らく銃弾の雨が降る。防弾チョッキが命綱となる事は必定だ。

ポンセ「運動会に防弾チョッキを着て参加するのは不自然だ。それで身元がバレれば敵は警戒し身構えるだろう。逆に防弾チョッキ無しの方がお前さんにとっても安全、それが上の判断だ」

ふ〜むふむふむ。言われてみれば確かにそれも一理ある。だが……

俺「……防弾アイテム無しではとても不安だ」

するとポンセは何故かニヤリと笑った。

ポンセ「そう言うと思って特殊な防弾アイテムを用意した。お前さんの為に4億円も掛けて特別に作ったんだぜ。自分で言うのも何だが、こいつはスグレモノだ」

ポンセは自信満々の顔つきで持参した紙袋から小さな箱を取り出し、開けてみせた。透明で小さな円形の物が見える。

俺「これは?」

ポンセ「聞いて驚くな、こいつは最先端科学と俺の技術の結晶である防弾……コンタクトレンズだ」

俺「……防弾コンタクトレンズ!」

そんなもの見た事も聞いた事もない。

ポンセ「ああ。世界にたった一つだけのアイテムだ。対装甲車用の銃弾を受けてもビクともしない。それどころか、遠視、近視、乱視の全てに対応している上、瞳の潤いをキープする極めて高い保湿性を持っているスグレモノだ。これなら運動会で着用していても不自然ではないだろう」

確かに。コンタクトレンズはボディーチェックの対象とはならないだろう。

俺「成る程、考えたな。しかし……」

ポンセ「そうだ」

俺「まだ何も言ってないが」

ポンセ「長い付き合いだ。お前さんの言いたい事ぐらい解るさ」

俺「そうか。で、どうなんだ?」

ポンセ「お前さんの思っている通りさ。飛んでくる弾は必ず眼球で受けるようにしてくれ。そこだけはくれぐれも気を付けるように。あとは大丈夫だ。問題ない」

やはり、そうか。飛んでくる銃弾に対して素早く眼球を当てる……。かなり高いアジャスト能力が要求される。いや、ここまで来るとアジャパー能力かも知れないが。

俺「……」

ポンセ「あ、そうそう。それともう一つ。弾を受ける時は絶対に目をつぶらないよう気を付けてくれ。残念ながら目蓋はレンズの外側なのでフォロー出来ないからな」

ポンセ。ちょび髭のポンセ。パチョレックの相棒ポンセ。

俺「素晴らしい。非常に助かる。で、他にの防弾アイテムは無いのかな?」

ポンセ「姉妹品として、防弾シークレットシューズ――上げ底の部分が防弾になっていて誰にも気づかれずに身長が7センチアップするやつ――がある。という事でそいつも一応渡しておく」

俺「Thank You……と言っておこう」

ポンセ「幸運を祈る。マガジンラック」

俺「グッドラックな」

ポンセ「そう、それだ」

ポンセは指をパチンと鳴らして去って行った。

さてと、これにて全ての準備は完了した。明日は…………





俺「なるべく目立たないよう物陰にこっそり隠れてやり過ごすとしよう」




〜FiN〜。

馬鹿(うましか)市観光ガイド[2]美容室の名店。


話題:妄想を語ろう



地球人に成り済ましている宇宙人の間で大好評との噂もある《馬鹿(うましか)市観光ガイド》、第1回目の前回は市内屈指のパワースポットである【ロズウェルの丘】を紹介致しました。

さて、第2回目となります今回は、この世にオギャアと生まれたからには一度は足を運びたい美容室の名店【ビューチー毛呂山】を紹介したいと思います。

昭和の薫り漂うレトロな個人商店が軒を連ねる馬鹿(うましか)駅北口の目抜き通り(通称・二の腕ぷるんぷるん通り)を北へ直進してゆくと、商店街の中程に一際目を引く巨大で女性の顔絵が描かれたアーティスティックな看板を見つける事が出来ます。

看板の顔絵は確かに何処かで見たような顔ですが、思い出そうとしても決して名前は出て来ません。それもそのハズ、その顔は浅田真央さん、荒川静香さん、安藤美姫さん、伊藤みどりさん、渡部絵美さん、といった女子フィギュアスケートの有名選手五人の顔をベースに、スパイスとしてモナリザの顔を合成した非実在の人物のものだからです。この顔、長時間見つめ続けると造型の不自然さに少し気持ちが悪くなってくるので注意が必要です。

そんな看板からも判るように、ここのオーナー美容師である毛呂山毛呂子(けろやまけろこ)さん(45)は女子フィギュアスケートの元選手で、馬鹿市ではその存在を知らない者はいない程の有名人。親兄弟の名前はド忘れしても毛呂子さんの名前を忘れる事だけは絶対にないと迄言われる、まさに伝説的存在なのです。

毛呂子さんとフィギュアスケートの出会いは彼女が7才の時。偶然、観光で日本を訪れていたロシアのアレクサンドロ・ヘッポコスキー氏が馬鹿市営スケートリンクで滑る毛呂山毛呂子ちゃんの姿に一目惚れ、フィギュアスケート選手としての才能を一目で見抜いた彼は自らコーチ役を買って出た……それが毛呂子印の馬鹿(うましか)伝説の始まりでした。

当時の毛呂子ちゃんについてヘッポコスキー氏は次のように語っています。

「目の輝きが少女漫画を超えるぐらいキラキラとしていた。スケーティング自体はお世辞にも上手いとは言えなかったが、それを補って余りある目力の強さと表情の豊かさが彼女にはあった」

ヘッポコスキー氏は母国ロシアのみならず、ヨーロッパや北米でも指導経験のある人物で、そのコーチとしての実力は、「何人もの五輪メダリストや世界選手権代表を“輩出してもおかしくない程”」と迄言われています。

そんなヘッポコスキー氏の元で毛呂子さんは猛練習を重ね、次から次へと彼女ならではの独創的な技を編み出して行きました。例えば、ジャンプして一回転する間に8回もの瞬きを行う[ぱちぱちエイト]、スピンをしながら日光東照宮の三猿(見猿、云わ猿、聞か猿)の姿を真似る[三猿来](トリプルサルコー)など。それらは毛呂子さん体質や特性を見極めたヘッポコスキー氏が居たからこそ完成し得た技だと言えるでしょう。ただ、惜しむらくはいずれの技も加点対象とはならず、むしろ逆に減点されていた節もあり、順位に結びつく事はありませんでした。

結果、40才で引退するまでの33年間に渡る競技生活での最高順位は11才の時に参加した[馬鹿(うましか)市民大会]における36位という若干寂しいものであったが、それを踏まえてなお、ヘッポコスキー氏はこう熱弁する。

「あの目力の強さは、これまで私が見てきた全ての選手の中で間違いなくナンバー・ワンである」

その後、ヘッポコスキー氏は母国ロシアへと戻り、何人もの五輪代表選手を育て上げる事を夢見る生活を送っている。

皆さまも馬鹿(うましか)市を訪れた際には、女子フィギュアスケート界のレジェンド毛呂山毛呂子さんの美容室[ビューチー毛呂山]に足を運んでみては如何でしょうか。毛呂子さんの得意技を活かした名物〈イナバウアー洗髪〉は必見です。

ただし、イナバウアー状態になるのはお客さんの方なので毛呂子さんのイナバウアー姿を見る事は出来ません。悪しからず。


〜おしまひ〜。

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