話題:みじかいの
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【土曜日】
押し入れの中の整理をしていて、古い日記帳を見つけた。
これは確か…。そう、かれこれもう二十年も前に、ケンちゃんが書いた日記だ。当事、ケンちゃんは自分が書いた日記を毎日私に送りつけて来ていた。そして代わりに私の日記をぶんどっていった。彼は「交換日記だ」と言っていたが、本来、交換日記とはそういう物では無いだろう。
しかし、まあいい。私もケンちゃんも共に三日坊主で直ぐに日記をつけるのに飽きてしまったから。
以来、今の今まで完全にその存在すら忘れていた。
ケンちゃんの古い日記。懐かしくなり、頁を捲る。あの頃、ケンちゃんはどんな毎日を送っていたのだろう…。
日記は月曜日から始まっていた。
【月曜日】
ポカポカ陽気のせいか急にアパートの引っ越しをしたい気分になり、駅前の《メトロン不動産》という怪しげな不動産に行く。
―これはまた、テキトーな事を。昔も今も駅前にそんな名前の不動産屋が在った事は無い。完全な虚構ではないか。まあ、ケンちゃんらしいと言えば、ケンちゃんらしいが。
次いで火曜日。
【火曜日】
「晴れ、のち、テトリス」という気象庁の予報がまさかの的中。正午を回った辺りから全国的にテトリスのブロックが降り始める。
―テトリスって何やねん!なんか、二十年前という時代、歳月を感じさせる。
【水曜日】
午後出勤の為、正午少し前ぐらいに駅へ向かって歩いていると、駅に程近い商店街の通りにけっこうな数の人だかりが出来ている光景に遭遇した。昔ながらの商店が軒を列ねる、普段は落ち着いた雰囲気の通りが何やら緊張感漂う只ならぬ空気に包まれている。
―あ、思い出した。確かこれはケンちゃんが「挽き逃げ事件」と単に駄洒落を言いたいが為に書いたものだったはず。
【木曜日】
午前6時。会社の仮眠室で目を覚ます。しまった。仮眠をとるつもりが本格的に朝まで寝てしまった。
―この辺りからケンちゃんに疲労の色が見える。そろそろ日記に飽きて来たに違いない。
【金曜日】
午前3時、竿竹屋の声で目を覚ます。こんなに朝早くから、随分と仕事熱心な竿竹屋だ。感心しつつも起きるにはまだ早いので再度眠りにつく。
―ここまで来ると、もはや破れかぶれとしか言いようが無い。しかも途中から半ば強引にSFに持って行こうとしているし…。
次の【土曜日】を読もうと頁を捲る。しかし、そこから先は全て白紙となっていた。どうやら金曜日で力尽きたらしい。
たった五日間の日記帳。それも全て虚構の出来事ばかりが書き連ねてある日記だ。
しかし、こうして、この古い虚構の日記を読んだ事は紛れもなくリアルそのものの出来事。
私は日記帳の白紙頁に一日分の日記を書き足した。
【土曜日】
押し入れの中の整理をしていて、古い日記帳を見つけた。
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「虚構と日記」は、カテゴリ【ケンちゃんと私シリーズ】です。という事で…取り敢えず、おしまい♪(/▽\)