どんなに用心深い暮らしをしていようとも、人は全く思いもしない所で“痛恨の一撃”を喰らう事がある。
そんな中、髪型に関しての“最大なる痛恨の一撃”は、やはり高校時代のあの髪型なのだろうと思う。
春もうららかな日曜日の昼…
私は、ほんの気紛れから入った初めての店(美容室)でパーマを掛けて貰う事にした。
割かしスタイリッシュな建物の外観とは裏腹に、いざ中に入ってみると、スタッフは場末のスナックのチーママと云った雰囲気の女性三人で、私は瞬間的に悪い予感を肌で感じていた。
が、一旦入ってしまった以上‥引き返すのも気が引ける。
私は、愛想の良い笑顔で誘導されながら椅子の一つに腰掛けた。
『本日はどのように?』
『軽やかパーマでお願いします』
本当はもっとちゃんとした要望を出したのだが、要約すれば“軽やかパーマ”となるのである。
そして、髪自体は割と長めの状態を保ったままパーマネントが掛けられたのだが……
どういう訳だか、この日は異様にパーマの掛かりが悪かった。
何度掛け直してもダメ。
軽やかパーマどころか、伸びきったジャージのゴムみたいにだらしのない状態になっている。
スタッフも完全にテンパってしまい、何度も『スミマセン、またダメでした』と謝りながらパーマを掛け続けていた。
徐々に生気を失いゾンビのようになっていくスタッフに、何だか逆に申し訳ない気持ちになり、『なんか‥強情な髪の毛ですみません』と私も謝った。
『いえいえ、とんでもない!本当にすみません』
『いや‥なんか手間を取らせてしまってすみません』
二人で交互に謝り続けながら我らのパーマチャレンジは続いた。
そして迎えた8回目か9回目…
(そんなに強く髪の毛ひっ張られたら、頭皮が頭蓋骨から剥がれまっせ!!!)
と云うぐらいの恐るべき強さで髪の毛をカールに巻かれ、熱線を照射された私。
スタッフにとってそれは、己の美容師人生を賭けた、最終最後にして渾身の一撃であったろうと思う。
とても日曜日の美容室とは思えない、張り詰めた空気が流れている。
散々使用したパーマ液の匂いが鼻から脳へと突き抜けてゆく。
残る二人のスタッフも、先程から完全に私の担当スタッフのフォローに回っていた。