第一話【牛】
或る日、誰かが私に訊ねました。
「寝る前に最適な飲み物は何だろう?」
私は少し迷った末に、ミルクティーと答えます。
何でも…寝る前にミルクティーを飲むと、紅茶に含まれるテアニンとミルクの相乗効果で、良い感じでリラックス出来て、眠りに入りやすくなるらしい‥と云うような話を何処かで聞いた事を思い出したからです。
そして、その後(のち)思います…。
牛乳といい牛丼といいステーキといい…
人間は本当に牛の世話になりっ放しだと。
いつか、何らかの形で、人は牛に恩返しをしなくてはならない‥。
ならない‥
ならない‥
ならない‥
ならない‥
ならない‥
ならない‥
牛の胃袋は六つあるらしいので、私も最後の一文を六回反芻してみたのでした。
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第二話【運命】
或る日、誰かが私に訊ねました。
「運命を壊すにはどうしたら良いのか?」
これは非常に難解な質問です。
何故なら、自分では運命を壊したつもりでも
『そうする事が結局、お前の運命だったのだ』
そう云われてしまえば一巻の終わりですから。
どこまでも続くイタチごっこ。ある種のパラドックスを内包しているクエスチヨンと云えるでしょう。
結局のところ、運命を壊す為には‥その運命を司っている宇宙の全てを完全に理解した上で、因果律も働かないような超大局的見地に立ち、そこから全くの縛りの無い自由な魂を以て事を起こすよりほか無いのだと思います。
しかし、現時点で最も有効な運命の壊し方は‥
『人間が【運命】と云う言葉自体を完全に忘れ去る』と云う事ではないかと考えるのです。
運命と云う言葉や観念を消し去る事が唯一、運命を壊す方法であると。
とは云え、多分に詭弁的である事は認めざるを得ないのでありますが…。