と或る高級ステーキハウスで、エルキュール・ポワロに似た恰幅の良い熟年紳士が何やら怒ったような表情で、パチンと指を鳴らしてボーイを呼びつけた。

ボーイ「はい、何でございましょう?」

かしこまる若いボーイに、紳士はしかめ面のまま無言で自分の皿を指差した。

紳士がたった今まで食していたステーキ皿を恐る恐る覗き込んだボーイは、食べかけの肉と付け合わせのキャロットの間に小さな虫が死んでいるのを見つけた。

どうやらその虫は蝿のようであった。

紳士「キミキミ‥これはいったいどういう事だね!!折角の高級ステーキが台無しではないか!!」

紳士の怒りは尤もである。いつどこで蝿が混入したのかは判らないが、これは明らかに店側の失態であった。

ボーイ「大変申し訳ございません。すぐに新しい物に作り直し致します」


頭を下げるボーイに紳士が言った‥


紳士「今度はちゃんと蝿もミディアムレアで焼いてくれたまえ!! 全く‥この蝿は完全にウェルダンではないか!」