話題:飲み物

友人の部屋。奥行きたっぷりの旧式厚型テレビには“ナショナル”の文字が堂々と記されている。画面では往年の名作日本映画【ガス人間第1号】が流れている。友人と私は黙ってそれを観ている。


友人「なんか喉かわいたな」

私「そうだね」

友人「ジュース飲む?」

私「飲む飲む」

友人「何がいい?赤マムシ?」

私「いや、もうちょっとサッパリした感じがいいな」

友人「じゃ、青大将?」

私「そんなドリンクないだろ。聞いた事ないぞ“青大将ドリンク”とか」

友人「若大将ジョークだよ。ほんじゃ、何か適当に持ってくるわ」

私「よろしく。あ、維力(ういりー)も勘弁な」

友人「判ってるってばよ」

私「ナルトかお前は」

友人「何それ?」

私「そういう漫画があるの」

友人「へぇーそうなんだ」

私「とりま、そういう事なんで、ジュースよろしく」

友人「了解。ではでは、万華鏡写輪眼が発動する前にジュース取ってくるとしますか」

私「よく知ってるじゃないかナルト!」

友人(笑いながら)「ニンニン♪と…」

私「いや、それ別の忍者だから」

部屋から出て行く友人。やがて、二本のジュースを手にして戻って来る。卓袱(ちゃぶ)台の上にジュースの瓶を置きながら友人が私に話しかける。

友人「これでいいかな?」

置かれたジュースを見て私が驚く。

私「わわっ!…お前、これ…ミリンダじゃないか!」

友人(平然と)「そうだよ。それがどうかした?」

私「いやいや、何十年ぶりだろ!…そうか…まだ売ってたんだ」

友人「さあ…それはどうかなあ…もう売ってないんじゃないかな」

私「へ?…だって、いま目の前にあるじゃん」

友人「あるね」

私「ミリンダだよね」

友人「ミリンダだね」

私「という事は、今も売ってるって事になるよね?」

友人「さあ…もう売ってないんじゃないかな」

話が掴めない私。少し考えた後、友人に訊ねる。

私「このミリンダ…いつから冷蔵庫に入ってた?」

友人「四十年ぐらい前からかなあ…いや、飲もう飲もうと思いつつ、なんかタイミング逃しちゃってね」

私「逃しすぎだろ」

友人「因みに今見たら、奥の方にリボンシトロンと鉄骨飲料とアンバサもあったよ」

しばし呆然とする私。おずおずと口を開く。

私「…お前、凄いわ」

友人「そうでもないさ」

私「いや、かなり凄い。これ、相当貴重だぞ。大切にしないと」

友人(照れながら)「そんな事ないよ。…大事に使えば誰でも四十年ぐらい余裕でもつよ……冷蔵庫」


私「冷蔵庫の話でねーよ!」

友人「ロバート・デ・ニーロに似てるけど別の人はロバート…」

私「デ・ネーヨ」


シュウェップス!


【閉幕】