話題:お洒落



ハットトリックと言いながら実はプロ野球のお話です。

大方の野球ファンは既にご存知だと思いますが、先日の横浜阪神戦において、さりげなくも素敵なプレーがありました。

(阪神の大量リードで)試合の体勢が決しつつあるゲーム終盤、阪神の攻撃。四番マートンの打ち上げた打球は平凡なセンターフライでした。アウトカウントは2。フラフラと上がった打球をセンターのほぼ定位置で待ち構える横浜の外野、荒波選手。彼は2年連続ゴールデングラブ賞を受賞している守備力の高い選手です。誰もがこれでスリーアウトチェンジを確信していました。

ところが……

一度は足を止めて捕球体勢に入った荒波選手が右(レフト側)に歩き出したのです。ああ、恐らくは風で打球が流され始めたのでしょう。屋根のない野外球場ではよくある事です。

と思いきや、今度は逆に左に(ライト側)に戻り始めました。ふむふむ、風向きが変わったのだろう。でも、彼なら全く問題ないでしょう。

ポロリ。

…えっ?

おまけに、足がもつれてスッテンコロリン。

…えっ?

問題大ありでした。

が!

実はここまでは単なる序章に過ぎません。名手が風に翻弄された挙げ句、足がもつれて落球した。それだけの話です。

問題はその後。2アウトなので打者が打った瞬間、塁上にいる走者はホームに向かって走り出します。勿論、打った人間もバッターランナーとして一つでも先の塁に到達すべく全力で走ります。つまり、落球(エラー)は仕方ないとしても、落ちて転がっている球を素早く拾い上げ、1秒でも早く内野に投げ返す必要があるのです。

ところが、荒波選手がまず追いかけたのは球ではなく帽子でした。転んだ際、球と同時に帽子も落としていたのです。荒波選手は服装や髪型などに気を使う大変お洒落な選手なので、反射的にそのお洒落イズムが発動してしまったに違いありません。

そして彼は拾い上げた帽子をきちんと被り直してからようやく球を拾ったのでした。

この姿を見た時、私は、不思議の国のアリス(鏡の国だったかな?)に登場する《帽子屋さん》を思い出しました。

球よりも得点よりも帽子を大切にするマジカルなプレー。これぞハットトリック。帽子だけに。

もっとも、野球の帽子はハットではなくキャップですが、そんな事はどうでも良いのです。

まさかの帽子プレーに横浜のベンチは皆、口をポカ〜ンと開けていました。当の荒波選手もすぐに自分がやらかしてしまった事に気づいたのでしょう。口をへの字にして頬を膨らませ、ムーミンのような顔で固まってしまいました。

実は彼、その数日前にもお洒落なブルーのネックウォーマーをミラノコレクションばりに颯爽と決めての同じようなポロリをやらかして、プロ野球ニュースの解説者に『首に巻いてるあの変な皮は何なんだ?』と怒られており、言うなればイエローカードを一枚貰っているような状況なので、今回でイエローカード累積二枚、レッドカード取得状態となり、選手層が薄くギリギリの状態でやり繰りしている横浜ベイスターズにも関わらず、ついにスタメンから外されてしまいました。

しかし!

不思議の国の帽子屋さんは、こんな事ではヘコタレません。やはり、スタメンから外されて途中からの代打出場となった一昨日、見事に決勝点となる逆転満塁ホームランをかっ飛ばしたのでした。

失敗したら取り返せばいい。

今後の活躍次第では、荒波モデルの帽子は球団の人気グッズになるかも知れませんね。


〜おしまい〜。