話題:突発的文章・物語・詩


ケンゾー爺ちゃん、
お手紙ありがとう。

体調を崩して入院したと聞いて心配していましたが、単なる疲労と判りホッとしました。もう百才を超えているのだから、月ノ輪グマと相撲を取ったりとか無茶な事はしないでください。

入院中、病院食が口に合わず、点滴パックに直接カレーを流し込んだ話には思わず笑ってしまいました。スープカレーだったのでしょうか?直接、カレーを血管の中に入れてよく平気でしたね。

お見舞いに行けなくてご免なさい。有給休暇はたっぷり残っていたのだけれども、かさぶたが剥がれそうで剥がれない中途半端な状態だったので、帰りたくても帰れなかったのです。

それにしても、手紙がビデオレターで届いたのには「驚き、桃の木、サンシャイン60」です。

ただ……。

ケンゾー爺ちゃん。今は、ビデオレターといってもカセットテープではなくて、Blu-rayやDVDの時代なんです。

爺ちゃんが送って来たのは昔ながらのビデオテープで、しかも、βのカセット。再生器機を用意するのに一苦労でした。

でも、それは良いんです。

問題は、再生しても砂嵐の画像しか出て来なかった事なんです。もしかしたら、砂嵐の中にメッセージが浮かび上がるのかなと思って、小一時間ばかり見続けたのだけれど、やはり何も出て来ない…。

謎が解けたのは、それから七時間後でした。

ケンゾー爺ちゃん。

ビデオレターというのは、ビデオカメラを使ってテープなりディスクなりにメッセージを録画するものであって……“テープそのものにペンで文字を書く”ものでは無いのです。

カセットの中からテープを全て引っ張り出して文字を読むのはとても大変でした。ビデオレターというより、もはや、巻き物です。

それにしても、

カセットからテープを引っ張り出して文字を書き、手紙として完成させた後、再び、そのモシャモシャになったテープをカセットの中に何事もなかったかのように綺麗に戻したのは凄いと思う。人生の年輪を積み重ねた人にしか出来ない技なんだろうな、と素直に感動しました。

「亀の甲より歳の功より柴崎コウ」とは、よく言ったものですね。

それでは最後に、

ケンゾー爺ちゃん、いつまでも元気でいてください。ビデオレター、ありがとう。読みづらかったけど嬉しかったです。テープが上手く戻せずモシャモシャのままなので少し気味悪いけれども、気持ちが嬉しかったです。

近い内に、一度帰ろうと思います。かさぶたの取れた私の姿、期待していてください。


かしこ。


PS. ゴンゾーひい爺ちゃんは元気でしょうか?剥がれた“かさぶた”は、ひい爺ちゃんへのお土産として持って帰る予定です。



【終】。