話題:髪切りました
頬を撫でる風に春の訪れを感じたので、髪を切りに行った。
春風に誘われるまま秘密の裏道を抜け、いざパリの床屋へ。
私「昔の石黒賢さんみたいな感じで」
パリの床屋「……Une telle personne ne sait pas.(そんな人は知りません)」
嗚呼、巴里の憂鬱!
やはり床屋は日本に限る。
という訳で、日本の床屋へ自分で自分を逆輸入。
日本の床屋「えーと、今日はどのように?」
私「…(テレパシーで送信)」
日本の床屋「(テレパシー受信中)…なるほど、では松山千春さんみたいな感じで」
私「いやいや、ちょっと待ってください、それって、何て言うか…いわゆる、ハーゲンダッツじゃないですか?」
日本の床屋「でも、春っぽいですよ」
私「名前はね。そうじゃ無くて、髪が伸びたので切ってさっぱりしたいのですよ」
日本の床屋「まあ、確かに、かなり伸びてますね」
私「ええ。本当はもっと早く来るつもりだったのだけど、ほら、今年ずっと寒かったじゃないですか?」
日本の床屋「冷蔵庫の中ね」
私「いや、冷蔵庫の外の話」
日本の床屋「あっ、冷蔵庫の裏と壁の間の隙間の話でしたか」
私「いやいやいや、そういう限定的な問題じゃ無くて、パノラマ的と言うか、もっと全土的な空間の話ですよ」
日本の床屋「ああ…。冷蔵庫の裏の隙間<問題にしている空間<太陽系全体…みたいな感じですかね?」
私「…取り敢えずそれでいいです。兎に角、寒い時期に髪を切ると風邪ひきそうな気がして、それで暖かくなるのを待っていたのですよ。で、今日に至ると。以上」
日本の床屋「なるほど。今日は暖かいし、髪もかなり伸びたし…」
私「そういう事」
日本の床屋「琴欧洲も引退したし…」
私「それは全く関係ないです」
日本の床屋「まあまあ…取り敢えず髪が伸びたので切りたいと」
私「はい」
日本の床屋「髪型は“のび太くん”みたいな感じで?」
私「いや、そんな事ひと言も言ってませんから。髪が“伸びた”とは言いましたけど、“のび太くん”とはひと言も言ってないです」
日本の床屋「そうしたら…“のび太くんの担任の先生”の方になっちゃうけど…大丈夫?」
私「大丈夫じゃないです」
日本の床屋「では、どんな感じで?」
私「出来れば…昔の石黒賢さんみたいな感じでお願いします」
日本の床屋「……Une telle personne ne sait pas.(そんな人は知りません)」
私「…何でフランス語やねん!」
【終】。
‐エピローグ‐
そんなこんなで髪を切ってきました。結果、次元大介みたいな感じからルパン三世へ。このまま伸ばし続けて五右衛門までゆくという手もあったのですが、失敗してマモーになっても困るので。
床に落ちた髪の毛は、微かに冬の匂いがしました。
そして…
私には、無意識の内に横髪をかき上げるお洒落な癖があるのですが、つい今までと同じ調子で横髪(耳の上の辺り)に手を延ばし、髪をかき上げようとしたところ…そこに髪の毛はなく…私の右手は見事に宙を空振りしたのでありました。