話題:童話
ラマン巡査は呆気にとられていました。
この交番で働くようになってから約20年。彼はこれまで数え切れない程の落し物を見てきました。
しかし…このように奇妙な落しものを見た事は、ただの一度もありません。
この“不思議なもの”の正体はいったい何なのでしょうか…?
ラマン巡査は少しの間黙って、その【キラキラ】を見つめていましたが、やがて呟くような声で云いました。
「これは…果たして“物”なのだろうか?」
すると、老男性は如何にも「意を得たり」といった感じで、少し興奮気味に言葉を被せたのでした。
「ね、そうでしょう? いや、実はそれで私達もこれを“落とし物”として届けて良いものかと、二人してかなり迷ったのです」
そうです。
それは誰の経験からしても到底“物”とは呼べない“もの”でした。
と云うのも、それは、ただキラキラと輝く光そのものだったのです。
愛想の欠片もないような交番の灰色テーブルに置かれた場違いな【キラキラと輝く光】。
「時に…これを拾った場所は何処なのです?」
それに答えたのは婦人でした。
「ジル通りの西角にあるベネディクト菓子店の前の鋪道に落ちていたのです」
ラマン巡査は警官ですから、当然、ベネディクト菓子店の辺りもよく知っています。
「地面がキラキラしているのが目に入って、私、てっきり“誰かが指輪を落としたのだわ”そう思って近付いてみましたの。そうしたら…」
「この【キラキラ】が落ちていたと」
「ええ。そうなのですわ」
ラマン巡査は再び【キラキラしたもの】に目をやりました。
“光っている”という事は、必ず、光を放つ元…つまり光源物質が存在する筈です。ラマン巡査は目を凝らしに凝らして、その【キラキラ】の中に、光源物質を見つけようとしました。
ですが、どれほど目を凝らしても、其処には、ただ“キラキラと輝く空間”があるばかりです。
「ちょっと失礼」
そう云いながら、ラマン巡査が【キラキラ】に手を伸ばします。
「あっ」
ラマンは手に不思議な柔らかさを感じて、思わず声を上げていました。どうやら、この【キラキラ】には輪郭といった物があるらしい…。
小さく驚くラマンを見て、今度は男性の方が云いました。
「丸あるいのです」
ラマンは【キラキラ】を少しだけ持ち上げてみました。もちろん両手でゆっくりと。
そこでラマンは初めてこの【キラキラ】が球形をしている事を知ったのです。
直径は5cmぐらいでしょうか。
ただキラキラと輝く球形の小さな空間。
それは、冷たい雪の夜に天から降りてくる無数のダイヤモンドダストの輝きの様にも見えますが、これには輪郭があります。それに、よく見ると七つの色を持ってい事が判ったのです…。
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