話題:童話
取り敢えずマルグリット夫妻の名前を控えたラマン巡査は、ふと思い立ったかのように二人に向かって云いました。
「私、これからちょっとベネディクト菓子店に行ってみようと思うのです。もしかしたら、ベネディクトさんが何かを見ているかも知れないので…」
何となくですが、ラマン巡査はこの【キラキラ】がとても大切なものであるような気がして仕方なかったのです。しかし、正直な話、その直感が理に叶っているとは思えません。本当に大切な物ならば、失くした事にすぐ気付く筈ですし、そうなれば意の一番に警察に連絡するでしょう。
未だ連絡がないという事は、これが大した物ではないか、落とし主が失くした事に気付いていないか、そのどちらかに違いないのです。
いや、それ以前に…
ラマンは、それまで何故か考えなかった“或る当たり前の可能性”に、その時ハタと気付いたのでした。
考えてみれば、これが“落としもの”とは限らないのではないか?…
そうです。確かに、この【キラキラ】は道に落ちているところをマルグリット夫妻に拾われたのですから“拾得物”とは呼べるでしょう。
しかし、だからと云って“誰かが落としたもの”とは限らないのです。もしかしたら、摩訶不思議な自然現象による産物という可能性だって多いにあります。
しかし、ラマンの直感は(これは、きっと誰かが“落としたもの”に違いない)そう告げていました。
「では、落とし主が見付かりましたら連絡を差し上げますので」
ラマンは、そう云いながら腰を上げ、マルグリット夫妻を見送ろうとしました。
ところがです。
「ああ、それならば、私たちも御一緒しましょう。ベネディクト菓子店はちょうど家へ帰る途中ですし…」
マルグリット氏が、間髪入れずに申し出たのでした。
思わぬ言葉に、一瞬虚をつかれたラマン巡査でしたが、向かう方向が同じならば特に断る理由もないですし、物事にはすべからく成り行きという物があります。恐らく、マルグリット夫妻も自分同様、この【キラキラ】が気になって仕方ないのでしょう。それならば、ここは“不思議な成り行き”に任せるのが自然であるような気もします。
そこで、ラマン巡査はマルグリット氏の申し出を快く受け入れる事にしました。
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