話題:童話
ジル通りの交差点。ベネディクト菓子店は、もう目と鼻の先でしたが、タイミングの悪い事に信号は赤に変わったばかりでした。
「それにしても…」
足を止めたマルグリット氏が信号の待ち時間を利用して再び口を開きます。
「最近、ベネディクト菓子店は店が閉まっている日が多くて、ちょっと心配しているのです」
その言葉に夫人もやや心配そうに頷きました。
「もしかしたら、店を閉めてしまうつもりなのかも…」
二人の心配はとても現実的なものでした。昔と違って今は街に菓子店は幾つもありますし、その中には都会から進出して来た人気店もあります。かつては街のスイーツなシンボルマークであったベネディクト菓子店も、ここ数年は明らかに活気がなくなっていました。
「あそこにしかない味もあるので、店を閉めるなんて事にならなければ良いのですが…」
「ええ、本当に。私たちは、家にお客様がいらした時や、ちょっと特別な記念日なんかには、今でもベネディクトさんのお菓子を頂く事に決めていますの」
こんな風に、時流の流行り廃りに関係なく客から愛されている店というのは貴重な存在です。それは一朝一夕で作り上げられる“もの”ではなく、長い年月を掛けて少しずつ積み重ねられた“目には見えないもの”が屋台骨となって初めて完成するものです。
もしかしたら、【時間】という掴みどころのない不思議なものは、私たち人間にそういった“絆のようなもの”を積み重ねさせる為に存在しているのかも知れません。
信号が青に変わったのを確認して歩き始めた三人の目に、古い面影を残す煉瓦造りの建物が見えて来ました。三人の小さな旅の目的地、ベネディクト菓子店です。
ラマン巡査が入り口の扉を開けると、カランコロン♪と耳に心地よいベルの音色が店内に響き渡りました。
《続きは追記からどうぞ》♪